第百二話 雪解け
毎日12時に投稿してます。
外伝である。『菊理姫様!お導きを』〜英雄の誕生〜もよろしくお願いします。
そちらは、毎日18時投稿します。
夏の暑い空気。
ヒロの胸の中。
ヒロの命の温度が、私を安心させる。
私たちの間に熱風が吹き付ける。
「暑い!」そう言って私を払いのけ、顔を背けるヒロ。
そうだ…。コイツは、本来こんな男だ…。
「おい!アンタ!」私の口が悪くなる。
「暑いんやったら…。」私が、魔力をこめる。
「冷え冷えにしてあげましょうかぁ?」そうして吹雪を出す。
「何!誰にも相談なしで動いているんじゃ!」ヒロに吹雪を打ち付ける。
ヒロが素早く反応して、吹雪を避ける。
「なんですか?それ!そよ風ですかぁ〜。」ヒロが煽ってくる。
「あら?氷嵐がお望みで?」私が魔力を練り上げる。
「すまん。悪かった!」ヒロが降参する。
私が、魔法を解く。
「スキあり!」ヒロが私のおでこを軽く弾く。
「「ははははっ」」二人で笑う。
こんなやり取り、何年ぶりだろう。
「櫻子さん!大夢さん!」なぎさが駆けてくる。
なぎさの顔も涙でぐちゃぐちゃだ。
「櫻子さん!」そして、私に抱きつくなぎさ。
「いっぱい、いっぱい心配かけちゃったね。」私は、なぎさの頭を撫でる。
なぎさが私の顔を見て、また涙目になる。
「俺も悪かったな…。」ヒロがなぎさに謝罪する。
そんなヒロをキッと睨むなぎさ。
腰に収めていた斧を大斧に変えた。
「ほんっと!」そこでヒロに向かって斧を振り上げる。
慌てて走るヒロ。
「どれだけの人が心配したんと思っているんですかぁぁぁ!」
ヒロのスレスレで振り下ろされる大斧。
抉れる地面。
「なぎさ!悪かった!」
「本当にわかってますか?」ヒロに襲いかかる大斧。
そんな様子を見て笑い声が自然と出た。
笑い声が、夏の空へ溶けていく。
ふと、穏やかにこちらを見ている久海に気がついた。
私は、久海に近づく。
「先ほどは、失礼しました。久海様が助言していただいたのに…。」
「いえ。拙僧も勉強になりました。」
私が小首をかしげる。
「拙僧の方こそ“傲慢”だったかもしれません。」そう言って優しく微笑む。
「櫻子さんの心に春はやって参りましたか?」久海に質問される。
私は、自分の胸に手を当てる。
「えぇ…。ヒロとロッキーが連れてきてくれました。」
「少しその春を味わうとよろしいです。」
「そうしたいのは…。山々なんですが…。私の給与って税金なんですよね。」
久海がなんとも言えない顔になる。
「はーい!お仕事の時間だよ!」私はヒロとなぎさを呼ぶ。
二人が走って私の元に来る。
「では、田中解体主任。」
「報告してくれないかしら?」
私がヒロに聖母の笑顔で微笑む。
「ヒィ!」ヒロが半笑いで悲鳴を上げる。
お前もかよ。
解せぬ。
「隊列!気をつけ!」力強く言う。
お遊びはここまでだ。
ヒロが一瞬で真顔になる。
そして、気をつけの姿勢になる。なぎさもそれに習う。
「隊列!休め。」
二人が左脚を開き後ろで腕を組む。
「田中将補。報告を」
「親父から相談があったのは、ちょうどダンジョンを閉鎖していた時ぐらいであります。」
「4月半ばぐらいと言うことか?なぜ、私に相談しなかった?」私がヒロを見る。
答えないヒロ。
「まぁ、いい。続けたまえ。」
「相談内容は、議会を通さないで連れて来た外国人労働者についてです!国から迫害されて大和にやってきたと申しておりました!」
「迫害されたと言う国は?」
「ヴァルトハイム。」
私が顎に手を当てて考える。
「おかしい。ヴァルトハイムは、欧州でも魔素が多い。魔術師国家だ…。大和とも封印前から良好な関係。」
「偽装という線は?」私がヒロに尋ねる。
「その線を確認するのと村長の企みを探る為に単独で捜査しておりました!」
「で?まんまと捕まったわけか?」私がヒロを睨む。
「神器の手入れの技術について、その外国人労働者に教えていたと聞いているが、それを知っての単独行動と言う事か…?」ヒロの前に行き見上げる。
「そうであります。」ヒロが短く答えた。
「失望したぞ。田中将補。先の事変で私をよく支えてくれた貴殿が感情的に動くなど…。」
私は飛行魔法で浮かび、ヒロと視線を合わせた。
ヒロの目を覗き込む。
ヒロの目が揺らぐ。
「これからも私の右腕として務めてもらわないといけないのに」
ヒロが驚きで私を見返してきた。
「これでは私に何かあったらどのように動くのだ?」
本当に…。組合はいざとなったら軍として動かないといけないのに…。
「えぇのか?」ヒロが私の顔を大きな手で包む。
「はぁ?」上官に何すんねん。
「櫻…。新しい忌守雇うって…。水谷が…。もう、お払い箱かもなって…。櫻が華族の令嬢なのに結婚しやんのは、俺みたいのが居るからやって…。」
イライラで顔が引き攣る。
「後神将官!発言を許可願います!」なぎさが手を上げる。
「寺田一佐。許可する。」
「水谷の悪い噂は、組合の女性では有名であります!近日中にセクハラとパワハラの証拠を提出する予定でした。」
「確認次第早急に処分する。」
あの男覚えていろよ…。
「田中将補も。いや、ヒロもそんなバカみたいな事なんで信じるのよ。」
「櫻が婚約するって。かよも居るから…。水谷と…。あいつ一応、華族やし…。男爵やけど…。」
「それ…私も聞きました。本人が言いふらしています。」
「はぁぁぁぁぁぁ?」
私の魔力が、再びプチ爆発した。
周囲の木々が一斉に揺れる。
「あの男ぉぉぉ!」
「櫻子さん!落ち着いて!」
「櫻!アカン!吹雪はアカン!」
こぼれ話
上野「オイ!水谷!うちの部隊の女性隊員に変な事言うなや。」
水谷「これからは、僕が領主になるんだからそんな口の聞き方で良いと思ってるのかい?」
上野「あんな。その妄想やめぇや。」
水谷「妄想じゃない!お父様も言っていた!これだけきっちり仕事しているんだから婿候補だと!」
上野「きっちり仕事するんわ普通なんや。お前の仕事は普通からちょっとポンコツ。むしろ、田中の仕事を変わってみろや。」
水谷「あんな学校も行ってない奴の仕事なんて簡単だろ?」
上野「言ったな。ほい。じゃ、田中の今日の仕事。これでも少ない方や。しかも指示付き。」
そう言ってヒロの仕事を水谷の前にドンっと置く。
水谷「こっこれは櫻子たんの仕事じゃないか!」
書類を一枚とり目を通す水谷が叫ぶ。
上野「当たり前やろ!田中は将補なんやから!実質ここのNo.2や!楽なんやろ?俺ら絶対手伝わんからな。」
そう言って退出する上野。
書類だけが静かに揺れた。




