第百話 切れゆく縁の糸
毎日12時に投稿してます。
外伝である。『菊理姫様!お導きを』〜英雄の誕生〜もよろしくお願いします。
そちらは、毎日18時投稿します。
※本日、二回更新!次回は、18時に投稿します。
許さない。
私が、一歩踏み出す。
大輔が失神した。
許さない。
もう一歩踏み出す。
なぎさの耳が垂れて、尻尾を丸める。隣に白と黒のご神犬も同じように震えている。
私の中で何かが切れた。
私の魔力が吹雪となり、集落を覆う。
夏の景色が一瞬で雪景色になる。
その様子をなぎさが不思議そうに見る。
強く読経している久海が、反応する。
「いけません!櫻子さん!」久海が私を呼んだ。
私は、久海を見る。
グッと喉を鳴らす久海。
「……いけません!……これでは!」
「果の二十日です!」
『果の二十日?猪笹王が現れたら、私のハサミのサビにしてやろう!』
私は、事変以降はじめてハサミを大剣ほどにした。
「ダメです!櫻子さん!神殺しは!貴方まで!」久海が尚も続ける。
『うるさい!』吹雪が激しくなる。
「やっぱり、貴方の弱点は、大夢やなぁ。」一人の老人が現れた。
ニヤニヤと笑っている。数人の男も一緒だ。
『お前か?ヒロをどこにやった!』私は、ハサミを振り上げる。
「えぇんですかねぇ?大夢に会わせてあげますよ。おい!」
男達が私の前にヒロを出した。
ヒロは、縛られ…
足から血を流し。
そして、左目からも血を流していた。
『ヒロ!』私は、ヒロに駆け寄ろうとする。
結界で弾かれた。
「……櫻。あかん。」一番聞きたい声が弱々しい。
許さない!ヒロをこんなに傷つけて!
私の魔力が暴れて吹雪が強まる。
結界にハサミを突き立てる。
バリバリと壊れるが、すぐに再生してしまう。
『ヒロを返して!』私の声が悲鳴のように響く。
「返せませんよ…。もう少しで完成なんですわ。」
意味がわからない。
「ご当主には感謝してますよ。」
憎たらしい。
『ヒロがお前に何をした?私がお前に何をした?』結界に弾かれながらもハサミを突き立てる。
「何も。」
「櫻…。あかん。俺は、大丈夫だから…。」弱々しいヒロの声。
私は、ヒロの目を見る。
左目から涙のように出血している。
早く治癒魔法をかけないと…。
『大丈夫じゃない!早く!治癒魔法を!』私の頬を暖かな物が流れる。
「ようやくお出になった。」余裕そうに言う姿を切り裂いてやりたい。
その時、背後に気配を感じた。
私の後ろに小山ほどの大きな猪がいた。
背中には熊笹が生えている。
こいつが、猪笹王か?
私は、ハサミを突き立てようと猪に向かって構えた。
カサリ。
吹雪に舞い上がった髪の毛の間に葉が揺れる。
そうだ。この葉っぱは、ヒロに取ってもらうんだ。
そうして、二人で家に帰るんだ。
だから、こんな猪なんか邪魔だ!
切り刻んでやろう。
私は猪の鼻先に向かってハサミの刃を向ける。
カサリ。
葉が揺らぐ。
「櫻ぁぁぁぁ!」ヒロの声が聞こえる。
猪の鼻先で止まるハサミ。
振り返る。
ヒロの体から赤黒い光が発せられる。
傷ついた足が、みるみる萎びていく。
右目だけが異常に膨れ上がる。
『嫌ぁぁぁぁ!』私は、叫ぶと結界を思い切り切りつけた。
バリンッと砕け散る結界。
驚いている老人を跳ね除ける。
ヒロに飛び込んだ。
「いや!ヒロ!」私の喉から嗚咽が漏れる。
ヒロが苦しみながらも私の頭に手を置く。
「もうえぇ。もうえぇ。」ヒロの顔や体が赤黒い光に包まれる。
私は、思い出す。
初めて会った日。
ヒロは、私を見て「ホンマに居った。」と言った。
神辺まで追いかけてきてくれ、“一緒におる”と言ってくれた。
魔石になりそうなのを救ってくれた日。
事変で辛い時、ずっと握っていてくれた手。
そんな日々が、ヒロが…。
消えちゃう。
人が妖怪になるとーーー。
その者の最も強い縁を持つ人との糸が切れる。
そして、縁を持っていた人の記憶からその人が消える。
「櫻。もうえぇ。」ヒロの手が暖かい。
ヒロの髪の毛が赤黒く長くなる。
潰れた左目が小さくなる。
左足がさらに細くなる。
ヒロの体から骨の軋む音がした。
私は、治癒魔法をかける。
治らない。
あの話には続きがある。
紫苑のご令嬢はーーー。
恋人を討伐した後に縁の強さ故にその大切な記憶を思い出してしまったのだろう…。
「櫻子。ありがとう。…愛しとった…。」ヒロの声が掠れていく。
嫌だ!私は、ヒロを忘れたくない…。
「ひふみ・よいむなや・こともちろらねしきるーーー!」私は詠唱しながら治癒魔法をかける。
ヒロの体の赤黒い光が収まらない。
視界が滲む。
「櫻子!」懐かしい声が私の心に届く。
肩を見る。ロッキーがそこにいた。
こぼれ話。
ロッキー「櫻子と大夢を助けに行かせて下しゃい!お願いしましゅ!」
荘厳な光がロッキーを包む
ロッキー「本当でしゅか!ありがとうございましゅ!」




