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婚約破棄したい私が恋したのは嘘つきな書生(フィアンセ)でした  作者: アカツキ千夏
第六章 幸せな花嫁と嘘が真に変わるふたりの幕開け
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第40話

 郊外に聳え立つ西園寺本邸の広大な庭園。そこに植えられた木々の青葉が夜の間に降りた朝露を弾いて宝石のように輝いている。どこからともなく飛んできた小鳥たちのさえずりが静寂に包まれた屋敷に柔らかな音楽を奏でていた。

 客間としてあてがわれている自室のベッドで鈴はゆっくりと重たいまぶたを開けた。

 分厚い遮光カーテンの隙間、真っ白なレースのカーテン越しに差し込む陽光が彼女の髪を明るく染め上げる。

「ん……」

 鈴は小さく背伸びをしてから自身の人差し指と中指の先をまるで壊れ物を扱うかのように愛おしそうに見つめた。

 そこには昨夜の甘い熱がまだ微かに残っているような気がした。昨夜の扉越しの逢瀬。分厚い木製の扉を挟み、視覚を完全に奪われた状態だからこそ、研ぎ澄まされた触覚と聴覚、そして嗅覚が彼という存在を強烈に脳裏に焼き付ける。

 ほんのわずかな隙間から差し出された、大きく無骨だけれど不器用なほど優しい指先。それが鈴の指先と確かに触れ合った瞬間の、あの心臓が跳ね上がるような感覚。

(西園寺様……)

 ほんのわずかな接触だった。だが、そこから伝わってくる愛情は海よりも深く、そして重かった。

 純度百パーセントの甘美な時間はタキの厳しい花嫁修業で極限まで疲労していた鈴の身体に何よりの特効薬となったのだ。

「よしっ、今日も頑張らなきゃ!」

 鈴は両手で自身の頬を叩き、気合を入れる。

 秋の神前式まであと数ヶ月。タキの指導は日に日に厳しさを増しており、足の裏が擦り切れるような歩き方の稽古や息も絶え絶えになる礼法など、生半可な覚悟では乗り切れないものばかりだ。だが、彼にふさわしい、堂々と隣に立てる妻になるためには弱音など吐いていられない。

 家事全般は相変わらず苦手だが修復の異能の媒体となる、祈りを込めた刺繍の腕だけは誰にも負けない自信がある。

(私が西園寺様の帰る場所を守るんだから。……彼が安心して戦えるように)

 鈴はベッドから起き上がり、足元に広がる絨毯の柔らかな感触を確かめながら新しい一日へと力強く足を踏み出した。

 ◇

 時を同じくして帝国陸軍・異能特殊部隊の駐屯地。

 無骨なコンクリートと赤煉瓦で造られた堅牢な建物の一角にある隊長執務室は、普段であれば針の落ちる音さえ響くような、絶対零度の緊張感に支配されている場所だ。

 だが、今朝の空気は明らかに異なっていた。

「……」

 執務机の奥、革張りの椅子に深く腰掛けた景明は手元の分厚い報告書に視線を落としながらもその形の良い唇の端には微かな、本当に微かな弧が描かれていた。

 彼の周囲を常に覆っているはずの、人を寄せ付けない吹雪のような冷気はない。代わりにどこか穏やかな春の訪れを感じさせるような緩い空気が室内を満たしている。

(鈴の指先……。あんなにも柔らかく、愛おしい感触があっただろうか。あのささやかな温もりが私の血塗られ、冷え切った魂の奥底まで染み渡るようだった。……ああ、今すぐ本邸に引き返し、あの忌々しい分厚い扉を粉砕して、彼女をこの腕の中に力いっぱい抱きしめたい。いや、我慢だ。お祖父様たちとの約束を違えるわけにはいかない。しかし、あの声……私を呼ぶ、あの愛らしい声が耳から離れん……)

「……少佐」

 執務室の空気を切り裂くように低く、ひどく事務的でどこか呆れ果てたような声が響いた。

 声の主は氷室だった。彼は書類の束を小脇に抱え、中指で眼鏡を押し上げながら、ひどく疲れたような深いため息を吐いた。

「なんだ、氷室」

 景明は表情を一瞬で引き締め、冷徹な“鬼少佐”の仮面を被り直して顔を上げた。

「なんだ、ではありません。際限なく甘ったるい空気を垂れ流しているのをどうか、少しは自重していただけませんか。見ているこちらの胃粘膜が悲鳴を上げています」

 景明から放たれる強烈な溺愛の感情はダダ漏れであった。長年連れ添った副官としての勘で上官の暴走気味な思考など手に取るようにわかってしまうのだ。

「……私は一言も発していないが。貴様の被害妄想ではないか?」

 景明は不機嫌そうに眉を寄せ、しらばっくれた。万年筆の冷たい金属の柄を指で弾き、音が響く。

「…その緩みきった空気で一目瞭然だと言っているんです。小鳥遊嬢との逢瀬が余程効いたようですね。連日の残党狩りで血に飢えた修羅のようになっていた少佐が嘘のように大人しい。……まあ、部隊の者たちにとっては命拾いしたようなものですが」

 氷室が皮肉めいた言葉を口にしながら机の上に書類を置こうとした、まさにその時だった。

 執務室に備え付けられた黒電話がけたたましくベルを鳴らした。室内の緩やかな空気が一瞬にして凍りつく。

 景明は受話器を素早く取り、耳に当てた。

「西園寺だ。……何?旧都方面から?」

 受話器の向こうから聞こえる切羽詰まった報告に景明の瞳が獲物を狙う猛禽類のように鋭く細められた。

 室内の温度が急激に下がり、窓ガラスの端に薄らと白い霜が張り始める。先ほどまでの甘い思考は完全に消え去り、そこにあるのは一切の慈悲を持たない絶対的な覇気だった。

「……一直線に森や障害物をなぎ倒して帝都へ向かってきているだと?巨大な獣……いや、ただの獣がそれほどの破壊力を持つはずがない。“赫夜”の動きと見て間違いないな。氷室、出撃するぞ」

 景明は受話器を乱暴に置き、椅子から立ち上がった。硬質な軍靴が床を強く叩く。

「目標は旧都から帝都へと続く郊外の防衛線。これより私自らが迎撃に出る。被害を最小限に抑え、あの化け物に帝都の土を踏ませる前に完全に叩き潰す」

「はっ!直ちに部隊に出撃準備を命じます!」

 氷室が踵を合わせ、完璧な敬礼をして部屋を飛び出していく。

 景明は執務室の窓から遠く郊外の空、鈴がいる本邸の方角を静かに見つめた。

(鈴……。必ず、君のいる平和な世界を守り抜く。私の命に代えても)

 彼は自身の軍服の襟を正すと氷と雷の猛烈な冷気を纏いながら戦場へと向かって歩き出した。

 時を同じくして。

 春の陽気に包まれていたはずの西園寺本邸の周囲に不吉な影が忍び寄りつつあった。

 屋敷は強固な結界によって守られている。だが、いかなる完璧な結界にも風水や地脈の巡りによって生じるわずかな綻び、“死角”は必ず存在する。

 本邸を囲む広大な鎮守の森の奥深く。陽の光が届かない鬱蒼とした茂みの中に黒装束に身を包んだ複数の人影が音もなく集結し始めていた。

 彼らは皆、首元や手の甲に赫夜のシンボルである“怪しげな幾何学模様”の刺青を青黒く刻み込んでいる。天牛の指示を受けた呪い使いの部下たちだ。

「……天牛様が表で派手に暴れ回ってくださっている。帝都最強の西園寺景明の目は完全にそちらへ向いたはずだ」

 リーダー格の男が枯れ葉を踏む音さえ立てずにひどく粘着質な低い声で囁いた。

「天牛様が物理的に結界ごと叩き潰すと言っていたが我々は我々の仕事をするだけだ。この結界の僅かな死角を突き呪いを流し込む。……狙うは奥深くに隠されている小鳥遊鈴だ」

 彼らの手には悍ましい瘴気を放つ呪具が握られていた。血でどす黒く染まった護符や名も知れぬ動物の骨で作られた異形の道具。それらが森の湿った空気と混ざり合い、吐き気を催すような腐肉の悪臭を漂わせている。

「さあ、始めようか。西園寺の愛しいお姫様に極上の絶望をプレゼントしてやろう」

 男たちが不気味な呪文を低い声で唱え始めると彼らの足元の土がどす黒く変色し、まるで意思を持った蛇のように結界の隙間を縫って本邸の壁へ向かって這い進んでいく。

 その頃、部屋で薙刀の手入れをしていた鈴はふと背筋に冷たい氷の刃を滑らせたような強烈な悪寒を感じた。

 日々の稽古で研ぎ澄まされつつあった五感が微かな“異変”を捉えたのだ。

「……何、今の……?」

 鈴は手にしていた柔らかい布を置き、窓の外へと視線を向けた。

 青空は変わらず美しく、遠くで鳥たちが歌っている。しかし、風に乗って運ばれてきたのは咲き誇る花の香りではなく、泥と腐敗が混ざったような生理的な嫌悪感を催す嫌な臭いだった。

 地鳴り。いや、それはもはや局地的な大地震だった。鳥たちは悲鳴を上げて青空へと逃げ去り、野生の獣たちは本能的な恐怖に駆られて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

 木々がなぎ倒される凄まじい轟音。大地が無理やり抉られ、空高く巻き上がる土煙。青々とした初夏の匂いは完全に掻き消され、代わりに鼻腔を突くのはむせ返るような土埃と無惨に引きちぎられた樹木の青臭い匂い、そして圧倒的な暴力の気配だった。

「ハハハハハハッ!もっとだ、もっと速く!もっと強くだァッ!」

 土煙を突き破り、弾丸のような速度で一直線に帝都へと爆走してくる影があった。

 それは人間の形をした“破壊の化身”だった。赫夜の上位幹部、天牛。

 見上げるほどの巨躯。丸太のように太く、鋼鉄よりも硬く鍛え上げられた筋肉が一歩踏み出すごとに異様な膨張と収縮を繰り返している。彼の首筋から太い腕にかけて青黒く刻まれた“怪しげな幾何学模様”の刺青が異常なほどの血流を浴びて不気味に脈打っていた。

 異能などという小細工は一切必要としない。呪いも、幻術も使わない。ただ己の肉体のみを極限まで強化し、無限に湧き出るスタミナで全てを物理的に粉砕する。それこそが天牛という男の絶対的な力であった。

「邪魔だァッ!!」

 天牛が無造作に右腕を振り抜く。ただそれだけで樹齢数百年はあろうかという巨大な杉の木がまるで爪楊枝のようにへし折られ、宙を舞った。

 圧倒的な質量と速度。このまま帝都の市街地へとなだれ込めば、どれだけの血の雨が降るか想像もつかない。

 だが、その破壊の権化の前に、静かにそして絶対的な冷気を纏って立ち塞がる者がいた。

 突如として天牛の進行方向の大地が真っ白に凍りついた。初夏のうだるような熱気が一瞬にして氷点下へと叩き落とされ、空気中の水分が凍りついてダイヤモンドダストのように舞い散る。

 息を吸い込めば肺の奥まで凍りつくような絶対零度の吹雪。

「……そこまでだ、薄汚い獣。貴様の薄汚れた足でこれ以上帝都の土を踏みにじることは許さん」

 吹き荒れる猛吹雪の中、景明は軍服の裾をはためかせ立っていた。

 その瞳は獲物を文字通り氷漬けにする猛禽類のように鋭く、冷徹な光を放っている。彼の背後には大気中の水分を急激に凍結させて創り出した高さ十メートルにも及ぶ巨大な氷の防壁がそびえ立っていた。

 彼の姿には一切の隙がない。その両目はただ真っ直ぐに眼前の巨大な脅威を射抜いていた。

「おお……おおおおッ!来たか、来たかァッ!」

 急激な温度低下によって皮膚に霜が張り付くのも構わず、天牛は急ブレーキをかけるように大地を削りながら立ち止まった。その口元が三日月のように大きく、そして凶悪に吊り上がる。

「待ち焦がれたぜェ……!帝都最強、“鬼少佐”殿よォ!俺ァ、小賢しい呪いだのなんだのには興味がねぇんだ。お前みたいな最高に強くて殺し甲斐のある奴と真っ向から殴り合いたかったんだよォッ!!」

 歓喜の咆哮と共に天牛の大腿部が異常なまでに膨張した。地面が爆発したかのように陥没し、次の瞬間、巨漢は空気を切り裂きながら景明の目の前へと跳躍していた。

 振り下ろされるのは岩盤すら粉々にするであろう巨大な拳。

「……野蛮な」

 景明は表情一つ変えず、静かに右手で空を薙いだ。瞬時に足元から無数の鋭い氷の槍が天牛に向かって突き出される。それは鋼を軽々と貫く硬度と鋭さを持っていた。

 しかし、鈍く重たい破壊音が響き渡る。

 天牛は迫り来る氷の槍の群れを避けるどころか己の拳と肉体そのもので正面から粉砕してのけたのだ。氷の破片が四方八方に飛び散り、景明の頬を掠める。

「甘ェッ! そんな冷たいだけの氷じゃ、俺の滾る血は止められねェぜッ!!」

「……ならばこれでどうだ」

 景明の右腕に眩いばかりの青白い閃光が走る。空気を焦がすような音と共に極限まで圧縮された高圧電流が“雷”となって彼の掌に収束していく。

 オゾン特有の焦げた匂いが立ち込める中、景明は天牛の巨大な胴体に向けて容赦のない雷撃を放った。

 鼓膜を破るような落雷の音が響き、周囲の木々が瞬時に黒焦げになるほどの熱量が天牛を直撃する。

 凄まじい閃光に視界が白く染まった。常人であれば、いや、並の異能者であっても全身の細胞を焼かれて即死するほどの一撃。だが、閃光が収まった後、立ち昇る白煙の中から天牛は不気味な笑い声を響かせながら姿を現した。

「ヒハハハッ……!効くぜェ、ビリビリ来るじゃねぇか!だがなァ!」

 天牛の全身の皮膚は高熱で爛れ、黒焦げになっていた。しかし、その怪しげな幾何学模様の刺青が異様な光を放つと彼の常軌を逸した肉体強化の力によって焼けた皮膚が瞬く間に再生し、剥がれ落ちていく。驚異的な治癒力というよりは破壊される端からそれ以上の速度で細胞を強制的に分裂、強化させているのだ。

 無尽蔵のスタミナと殺しても死なない異常な耐久力。

(……なるほど。厄介な肉体をしているな。生半可な攻撃では文字通り“蚊に刺された”程度にしか感じていないか)

 景明は内心で舌打ちをしながらも次なる一手を打つべく冷気を練り上げる。

 しかし、激しい攻防の中で天牛が笑った。それは純粋な戦闘狂の笑みではなく、獲物を精神的に追い詰めるための底意地の悪い邪悪な笑みだった。

「お前、強いなァ。さすがは帝都最強だ。俺の相手としては申し分ねェ。……だがよォ、鬼少佐殿。お前がここで俺とこうして楽しく遊んでる間、お前の大事な“お姫様”はどうしてるだろうなァ?」

 その言葉に景明の肩が反応した。練り上げようとしていた冷気が一瞬だけ揺らぐ。

「……何が言いたい」

「俺は言ったはずだぜ?結界ごと物理的に叩き潰すってな。あれは半分は本当で半分は“嘘”だ」

 天牛は地面を踏み鳴らしながら景明の周囲を歩く。

「俺がこうして表でド派手に暴れれば、当然お前はこっちに出てくる。帝都の防衛ラインに最強の戦力を割かざるを得ないからな。……その隙にウチの可愛い部下どもがあの堅苦しいお屋敷の結界の死角を突いて入り込んでるはずだぜ」

「……ッ!」

 景明の瞳が驚愕と怒りで大きく見開かれる。脳裏に昨夜の扉越しの温もりがフラッシュバックした。

 柔らかく、春の陽だまりのように温かかった鈴の指先。彼女の弾むような声。愛おしいその存在。

「今頃、本邸のお姫様は俺の部下たちの陰湿な呪いに囲まれて涙と鼻水垂らして泣き叫んでる頃だぜェ!それとも、もう呪いに身体中を腐らされて、あの綺麗な顔も見る影もなくなっちまってるかもなァ!!」

 下劣な挑発。それは景明にとって何よりも触れられたくない逆鱗だった。

「貴様ァ……ッ!!」

 景明の口からかつてないほどの激しい怒声が響き渡った。周囲の気温が先ほどとは比べ物にならない速度で急降下していく。地面は凍りつき、大気中の水分が氷の刃となって天牛を取り囲む。

 激昂。精神を激しく揺さぶられた景明の全身から制御不能になりかけた膨大な魔力が吹き荒れる。だが、その怒りこそが天牛の狙いだった。

「ハハハハハッ!怒れ、怒れ!隙だらけだぜ、鬼少佐ァッ!!」

 冷静さを失い、怒りに任せて冷気を放とうとした景明の懐へと天牛は地を這うような低い姿勢から弾丸のように突進した。

 景明の心にこれまで感じたことのない焦りが生まれる。

(鈴……!鈴……!!)

 西園寺本邸の広大な庭園は数分前までの穏やかな初夏の静けさが嘘のように生臭く、そして悍ましい気配に塗り潰されていた。

 手入れの行き届いた青々とした芝生の上をどす黒い泥のようなものが這い進んでいく。それはまるで無数の毒蛇が身を捩って進むかのように不快な音を立てていた。その正体は“赫夜”の紋章の刺青を刻んだ者たちが放つ陰湿で邪悪な呪いの塊であった。

 結界のわずかな死角から侵入した黒装束の集団は音もなく、確実に本邸の中心へとその包囲網を狭めていた。彼らの目には標的である鈴を嬲り殺しにするという、どす黒い嗜虐の光が宿っている。

 だが、彼らが縁側に足をかけようとしたその瞬間、低く、地を這うようで芯に鋼のような強さを秘めた嗄れ声が響いた。

「……汚らわしい泥靴でこの西園寺の敷地に足を踏み入れるとは。随分と命知らずな輩もいたものだ」

 和洋折衷の美しい意匠が施されたガラス戸が静かに開き、権藤が姿を現した。

 白髪を後ろで隙なく撫で付け、仕立ての良い燕尾服を身に纏ったその姿は一見するとただの老齢の従者にしか見えない。だが、その背筋は一本の巨木のように真っ直ぐに伸び、鋭く細められた双眸には歴戦の猛者だけが持つ特有の冷酷な光が宿っていた。

「ちぃっ、ただの老いぼれかと思えば……西園寺の番犬か。やれ!」

 リーダー格の男が舌打ちと共に合図を送ると黒装束の部下たちが一斉に印を結び、足元の黒い鋭い槍のように変形させて権藤へと放った。

 空気を腐らせるような悪臭が猛スピードで権藤の眉間へと迫る。

「……身の程を弁えよ、三下どもが」

 権藤は表情一つ変えず、ただ静かに右手を横に薙ぎ払った。その瞬間、空間が悲鳴を上げたかのような凄まじい轟音が響き渡り、権藤の周囲から目に見えない巨大な力の奔流が爆発した。ただの風ではない。それは岩を容易く粉砕し、肉を骨から削ぎ落とす、見えない真空の刃の群れだった。

 猛烈な竜巻が庭園の空気を一気に巻き上げ、迫り来ていた黒い呪いの槍を木端微塵に吹き飛ばす。それどころか最前列にいた数人の黒装束たちがその凄まじい風圧に巻き込まれ、悲鳴を上げる間もなく空高く打ち上げられ、遠くの木々へと叩きつけられた。

「なっ……!?なんだ、このジジイの風は……ッ!呪いが物理的に吹き飛ばされただと!?」

「慌てるな!相手はたかが風だ、概念としての呪いそのものを完全に殺し切れるわけではない!数で押し潰せ!」

 残党たちは刺青をさらに青黒く発光させ、狂ったような声で呪詛を唱え始めた。吹き飛ばされた黒い泥が空中で不気味な赤紫色の霧へと姿を変える。それは触れた者の精神を狂わせ、肉体を内側から腐敗させる猛毒の瘴気だった。

 彼らは正面からの突破を諦め、四方八方からまるで虫の群れのように屋敷の隙間を縫って瘴気を送り込み始めたのだ。

「……小癪な真似を」

 権藤は舌打ちをし、両手から凄まじい烈風の防壁を展開する。しかし敵の数は予想以上に多く、そして何よりその呪いの性質が陰湿すぎた。物理的な破壊力を持つ烈風であっても霧状になった呪いを一滴残らず防ぎ切ることは難しい。

 風の防壁のわずかな隙間をすり抜け、赤紫色の瘴気が音もなく屋敷の奥へと流れていく。

(……いかんな。このままでは大奥様や大旦那様、そして鈴様のおられる部屋まで呪いが届いてしまう。ここで食い止めねば……!)

 権藤が自身の身を挺して風の結界を広げようとしたその時だった、本邸の広間へと続く美しいステンドグラスの窓が外側から無惨に打ち破られた。

 ガラスの破片が雨のように降り注ぐ中、数人の黒装束が風の死角を突いてついに屋敷の内部への侵入を果たしてしまったのだ。

「……ひっ……!」

 大広間。外からの異様な轟音とガラスが割れる甲高い音を聞き、若菜が服の裾を強く握りしめながら短く悲鳴を上げた。その肩は恐怖で小刻みに震え、顔面は蒼白になっている。

「若菜さん、大丈夫。私の後ろに下がっていて」

 鈴は震える若菜の肩を優しく抱き寄せ、自らの背後に庇った。

 室内には鼻を突くような泥と腐肉の入り混じった悪臭が充満し始めていた。これがあの“赫夜”の者たちが操る呪いの匂いなのだろう。呼吸をするだけで肺の奥から冷たい恐怖が這い上がってくるような錯覚を覚える。だが、鈴の瞳に恐怖の色はなかった。

 彼女の視線の先には上座で車椅子に静かに腰掛ける源五郎とその傍らで微動だにせず凛と佇むタキの姿があった。

 帝都最強の男を育て上げた祖父母はこの異常事態においても一切の取り乱しを見せていなかった。

「……鈴さん」

 タキがどこか深く包み込むような穏やかな声で鈴の名を呼んだ。

「はい、大奥様」

「外の気配……そしてこのおぞましい空気。どうやら、お客様は正面から堂々と入ってこられるような方々ではないようですね」

 タキの言葉に鈴は小さく頷いた。

(西園寺様は今、帝都を防衛するために出撃されている。権藤さんも外で必死に戦ってくれている。……ここは私が守らなきゃ)

 鈴の脳裏に昨夜の扉越しの逢瀬が鮮明に蘇る。重なり合った指先から伝わってきた途方もない愛情と不器用なほどの優しさ。

 あんなにも自分を大切に想ってくれる彼の大切な家族を、彼の帰るべきこの温かい場所を、こんな陰湿な呪いなどに蹂躙させるわけにはいかない。

 鈴は決意を込めて息を深く吸い込むと傍らの白鞘の薙刀へと真っ直ぐに手を伸ばした。

 鈴は両手で力強く握りしめる。ずしりとした木と鋼の重みが日々の厳しい稽古の記憶と共に手のひらを通して彼女の腹の底に確かな覚悟を据えさせた。

 さらに鈴は自身の袂から一枚の布を取り出した。それは純白の絹地に色鮮やかな絹糸で精緻な刺繍が施された美しい飾り布だが、ただの布ではない。一針、一針に景明の無事とこの家を守るという強い祈りが込められている。

 鈴はその刺繍の飾り布を白鞘の薙刀の柄にしっかりときつく巻きつけ、結び目を作った。

 布に込められた祈りが鈴の掌を通して薙刀へと伝わり、ほんのわずかに温かい光を帯びて瞬いたような気がした。

「……大奥様、大旦那様。そして若菜さん。私の後ろから決して離れないでください」

 鈴が白鞘の薙刀を手に部屋の入り口へと向き直ったその直後だった。部屋の扉が凄まじい衝撃と共に吹き飛んだ。

 砕け散った木片の向こうに濁った目をした黒装束の男たちの姿があった。彼らの全身からはあの赤紫色の悍ましい瘴気がまるで生き物のようにうねりを上げて立ち昇っている。

「ヒヒッ……見つけたぜ。西園寺の鬼少佐が溺愛してるっていう、お姫様をよォ……!」

 男の一人が黄色く濁った歯を剥き出しにして下劣な笑い声を上げた。その視線は薙刀を構えて立ちはだかる鈴をまるで取るに足らない小鳥を哀れむかのように見下している。

「あの老いぼれ執事は外で俺たちの仲間の足止めに必死だ。……こんな奥深くにガキと年寄りしかいねぇなんてな。呆気なさすぎて欠伸が出るぜ」

「さあ、お姫様。大人しく泣き叫んで俺たちの呪いにその綺麗な身体を腐らされな。その悲鳴があの鬼少佐の心をへし折る最高の音楽になるんだからよォ!」

 男たちが両手を前に突き出すと彼らの腕に刻まれた怪しげな幾何学模様の刺青が不気味な脈動を打った。

 次の瞬間、彼らの手から放たれたのは先ほどまでの泥とは比にならないほど濃密でどす黒い呪いの奔流。それは複数の巨大な髑髏の形を成し、空気を凍らせるような怨嗟の叫び声を上げながら鈴たちに向かって一直線に襲いかかってきた。

 触れれば一瞬で生命力を奪われ、肉体が崩壊するであろう絶対的な死の呪い。逃げ場はない。避けることもできない。鈴の後ろで若菜が絶望のあまり両手で顔を覆い、しゃがみ込んだ。だが、絶体絶命のその状況下にあっても鈴の瞳は一片の揺らぎも見せてはいなかった。

(私は……もう、ただ守られるだけの存在じゃない。私が西園寺様の帰る場所を絶対に守り抜く!)

 悍ましい髑髏の呪いが鈴の顔面まであと数寸に迫った。

 空気を凍らせるような怨嗟の叫び声と共にどす黒い呪いの奔流が彼女の華奢な身体を完全に呑み込もうと大口を開ける。

 視界は一瞬にして赤紫色の瘴気に覆われ、鼻腔を突く腐肉とヘドロの混ざったような悪臭が肺の奥底まで強引に侵入してこようとしていた。触れればたちまち生気を奪われ、肉体が内側から腐り落ちるであろう絶対的な死の気配。

 背後で若菜が絶望のあまりしゃがみ込み、タキと源五郎が静かに息を呑む気配が極限まで研ぎ澄まされた鈴の背中に伝わってくる。

(怖い……。でも、絶対に退かない!)

 鈴は大きく見開いた瞳から一切の逃げの感情を排除し、両足で踏みしめた艶やかに磨き上げられた板張りの床の感触を確かめた。

 手には薙刀。そして、その柄に固く結びつけられた一枚の美しい飾り布。

 絹布に縫い込まれた色鮮やかな絹糸の刺繍。それはただの装飾ではない。最愛の人である景明の無事を祈り、この温かい場所を守りたいという鈴の強烈な願いが込められた“媒体”なのだ。

「……私の、大切な場所をこれ以上汚さないで……ッ!」

 鈴は腹の底から絞り出すような気迫の声を上げ、両手に握りしめた薙刀を迫り来る巨大な髑髏の呪いへと向けて力強く振り抜いた。その瞬間、薙刀の柄に巻きつけられた刺繍の飾り布から目を射るような眩い光が溢れ出した。

 それは冷たく暗い呪いの瘴気とは対極にある春の陽だまりのように温かく、そして圧倒的な清浄さを孕んだ黄金と白銀の光。

 鈴の異能、修復の力だ。

 布に縫い込まれた絹糸の一本一本がまるで命を吹き込まれたかのように淡く発光し、鈴の強い祈りに呼応して莫大な魔力を増幅させる。

「な、なんだぁッ!?この光は……ッ!?」

 黒装束の男たちがその眩しさに黄色く濁った目を細め、悲鳴のような声を上げた。

 鈴の薙刀から放たれた光は目にも留まらぬ速さで美しい光の波紋となって部屋中に広がり、堅牢な結界を瞬時に展開した。

 光の波紋が大口を開けて襲いかかってきた巨大な髑髏の呪いと激突する。

 悍ましい呪いがまるで灼熱の太陽の下に晒された雪のように音を立てて溶け、浄化されていく。悪臭は完全に消え去り、代わりに室内を満たしたのは天日に干した真新しいリネンのようでどこかで咲き誇る白梅のような甘く清らかな香りだった。

「ひぃぃっ……!呪いが、俺たちの呪いが……ただの光に喰われていくッ!?」

「馬鹿な!この小娘、ただ守られているだけのお姫様じゃなかったのかよォッ!」

 光に当てられ、男たちが無様な悲鳴を上げて後ずさりしたその瞬間だった。

 彼らの腕や首元に刻まれた“赫夜”のシンボルが突如として異常な脈動を打ちはじめた。

「あ、あぎィィィッ!? なんだこれ、刺青が……熱ィッ! 痛ェェェッ!!」

「て、天牛様!お助け……任務は、俺たちはまだッ……ギャアァァァァッ!!」

 標的の始末に手間取った事実が無慈悲な処刑の引き金となったのだ。監視と制裁を兼ねて刻まれていた刺青が突如として漆黒の(あぎと)へと姿を変え、宿主である男たちの肉体を内側から無惨に“食い破り”始めた。

 血肉の裂ける湿った音と絶望の絶叫が室内に響き渡る。むせ返るような鉄の匂いと腐臭が一気に膨れ上がった。

「大奥様、大旦那様!若菜さん!伏せてッ!!」

 ただならぬ死の気配を察知した鈴は白鞘の薙刀を力強く握り直し、背後の家族を庇う。

 直後、男たちの肉体を喰らい尽くした呪いが極限まで膨張し、凄まじい轟音と共に自爆した。

 鼓膜を破る爆発音。部屋の空気が一瞬で吹き飛び、強烈な爆風と赤紫色の瘴気が鈴の放つ光の結界へと容赦なく叩きつけられ、部屋は深い土煙と瓦礫の山に完全に呑み込まれた。

 時を同じくして。帝都郊外の防衛線。

 大地を削り取るような凄まじい轟音と空気を焦がす熱波が吹き荒れる中。景明と激闘を繰り広げていた天牛は自身の巨躯に刻まれた刺青の末端が遠く離れた場所で焼け焦げるように消滅したのを感じ取り、凶悪な笑みを深めた。

「ハハハハハッ!!やりやがった、やりやがったぜウチの三下どもがァ!」

「……何がおかしい」

 景明が絶対零度の冷気を纏いながら低く問う。

「あいつらに刻んだこの刺青はなァ、任務に手こずると最後に宿主の命を全部喰らって、特大の呪力爆発を起こす仕掛けになってるんだよォ!今、その刺青の反応が消えた。つまり……本邸でド派手に自爆してお前のお姫様もろとも木っ端微塵になったってことだァ!!」

「……ッ!」

「守れなかったなァ、鬼少佐!今頃、あの屋敷は綺麗な血の海だろうぜェ!!」

 下劣な挑発。愛する者が自爆の巻き添えになったという絶望的な報告に景明の肩が反応した。

 愛する鈴が陰湿な呪いの爆炎に呑み込まれた。その想像は一瞬にして彼の頭に血を上らせ、怒りに任せて冷気を暴走させかける。

 天牛はその一瞬の“感情の揺らぎ”という最大の隙を突き、必殺の一撃を叩き込もうとしていた。

「ハハハハハッ!怒れ、怒れ!隙だらけだぜ、鬼少佐ァッ!!」

 空気を圧縮しながら天牛の巨大な拳が景明の顔面へと迫る。

(もらったぜェッ!帝都最強の首!)

 天牛の凶悪な笑みが極限まで深くなった、その直後だった。

「……愚かな」

 景明の形の良い唇から氷のように冷たくそしてどこまでも静かな声が紡がれた。

 先ほどまで周囲を狂ったように吹き荒れていた猛吹雪と冷気が嘘のように止む。否、止んだのではない。極度に圧縮され景明のただ一点、その強靭な精神の核へと収束したのだ。

 激昂に呑まれたはずの瞳にはすでに怒りの炎は微塵も残っていなかった。あるのは凪いだ湖面のような絶対的な静寂と揺るぎない確信だけ。

「なっ……!?」

 予想外の反応に突進していた天牛の動きが一瞬だけブレる。

 景明は目の前まで迫っていた天牛の巨大な拳を最小限の動きで紙一重で躱した。彼の鼻先を暴風のような拳圧が通り抜けていく。

「……確かに私は一瞬、怒りに我を忘れかけた。あんなにも柔らかく温かい彼女が貴様らの薄汚い自爆に巻き込まれたと想像しただけでこの世界の全てを氷漬けにして砕き割りたくなるほどの殺意が湧き上がった」

 景明の右腕に先ほどとは比べ物にならないほど濃密で青白く輝く雷光が音を立てて収束していく。オゾンの焦げた匂いが周囲の空気を震わせた。

「だが、貴様は決定的な勘違いをしている。……私の愛する妻をその程度の爆発で散るような、ただ守られるだけのひ弱な女だと思うな」

 景明の脳裏に鮮明な映像が浮かび上がる。厳しい花嫁修業に耐え、手のひらを豆だらけにしながら薙刀の稽古に励む鈴の姿。自分自身の足で立ち上がろうとする誰よりも気高く美しい彼女の魂。

彼女は今、自らの力で運命を切り拓く強さを手に入れている。

(鈴。……私は君を信じている)

 遠く離れた本邸に向かって景明は心の底から祈るように絶対の信頼を込めて念じた。

「貴様らの呪いの自爆ごとき、彼女の放つ神聖なる光の前に瞬く間に塵となって消え去るだろう。……だから私はここで私のすべきことを果たすだけだ。帝都の空をこれ以上貴様の吐息で汚させるわけにはいかない」

「ほざけェェェェッ!!」

 天牛が焦りを隠すように咆哮し、再び異常なまでに膨張した腕を振りかぶる。

 だが、景明の雷の異能はすでに極限まで練り上げられていた。

「消し飛べ、“赫夜”の獣」

 景明が右手を前方に突き出した瞬間。天地を揺るがすような凄まじい雷鳴が轟いた。

 巨大な青白い雷の柱が景明の掌から水平に撃ち出される。それはただの電流ではない。あらゆる物質の分子結合を強制的に破壊し、焼き尽くす極大の雷撃。

 常軌を逸した肉体強化を誇る天牛の巨躯がその圧倒的な光の奔流に完全に呑み込まれた。

「ガァァァァァァァァッ!!?」

 雷撃の直撃を受けた天牛の全身から肉が焦げ、骨が軋む異様な音が響き渡る。

 天牛の刺青が狂ったように明滅し、必死に細胞を再生させようとするが景明の放つ落雷の破壊力はその再生速度を完全に凌駕していた。硬い皮膚が剥がれ落ち、筋肉が炭化し、膨大な血液が一瞬にして蒸発していく。

「ハ、ハハハハッ……!痛ェ……!痛ェなァッ!最高だぜ、西園寺景明ィッ!!」

 全身から黒煙を上げ、致命傷とも言える深手を負いながらも天牛は狂気的な哄笑を上げた。その目は苦痛よりも純粋な戦闘の悦びに満ちている。

 だが、これ以上の戦闘継続は不可能であると獣の本能が悟ったのだろう。

「今日はこの辺で引いてやらァ!だがな、次は必ずその首、もぎ取ってやるからなァッ!!」

 天牛は足元の地面を粉砕するほどの力で蹴り上げると雷撃の余波による目眩しを利用し、爆発的な速度で森の奥深くへと後退していった。

 巨漢の姿が完全に土煙の中に消え去り、やがて周囲には焼け焦げた木々の匂いと、静寂だけが残された。

 景明は天牛を追撃することはしなかった。ゆっくりと右手を下ろし、纏っていた極寒の冷気と暴れ狂っていた雷の残滓を静かに体内に収める。

 そして彼の一切の翳りのない瞳はゆっくりと帝都の中心へと向けられた。遠く離れた地で待つ愛しい少女の姿を確かに捉えているかのようだった。

(……鈴。終わったよ)

 一方、西園寺本邸。

 自爆による凄まじい土煙と瓦礫の粉塵がゆっくりと晴れていく。

 部屋には修復の光によって形成された黄金と白銀の結界が傷一つなく完全な球体を保って展開されていた。結界の内側は浄化され、むせ返るような血と腐肉の匂いは一切届いていない。

 光の波紋の中で鈴はゆっくりと薙刀を下ろした。

 肩で大きく息をしながらもその顔には恐怖の涙ではなく、やり遂げたという誇り高い笑みが浮かんでいた。

 割れた窓の向こう、帝都郊外の空に一瞬だけ青白い閃光が走ったのが見えた。雷鳴の音はここまで届かないが彼女の五感はそれが景明の放った力であることを確信していた。

(西園寺様……私も守り抜きましたよ)

 互いに離れた場所で別々の脅威と対峙しながらも決して揺らぐことのない絶対的な信頼。

 分厚い扉の隙間で触れ合った指先の熱が今も二人の魂を強く甘く結びつけている。

 帝都を巻き込む巨大な陰謀はまだ序章に過ぎなかった。


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