君が知らない時に
「はぁー。結局色々あって今日一日中何もできていないと。私が朝にあれだけ言ったのにですか。」
「ごめん、サナ。別にしたくなかったわけじゃなくて本当に色々あって…」
「先ほどお嬢様から伺いました。あちらの王女様を助けるとはしーくんらしいと言えばそうですが、ティナお嬢様にも構ってあげてくださいね。拗ねちゃいますから」
「そうなのか、?ティナはもう大人っぽくて昔みたいにこっちが何かするのも嫌がるかと思って…」
そう言うとサナから真っ先に否定された。「そんななことありません。お嬢様は昔と同じお嬢様です。今は少し背伸びして気になる人によく見せたい時期なので…あまりお気になさならなくていいかと、」
ティナもそういう時期なのか?まぁわからなくもないが…。
「それより、いつまで私の部屋にいるおつもりですか?はやく持ち場に戻られては?」
それは、そうした方がいいと思うが…
「サナ、流石に幼馴染だからってこの歳で二人一部屋で、しかもティナは王女だし、一緒に寝るのはどうかと…」
「しーくん、自分がもし暗殺をするならいつします?」
「それはもちろん夜だけど…」
「そういうことです。あなたにはそれらから死守してもらわなくてはいけませんので仕方ありません。」
「でもサナがティナと一緒に寝てもし暗殺者が来たら対処するのでも良くないか?何かあった時にはすぐに駆けつけるから。結婚前の女性がこんな男と一緒だとあんまりよろしくないような…」
サナはやれやれ、と言った顔で首を振り、
「私は夜の仕事があるので無理なものは無理です。あ、えっちのことじゃないですよ。あなたみたいな人を捕まえることですからね。」
「それは、お世話になりました。すいません。」
「なので頑張ってください。しーくん。」
「わかったよ。これは使命だもんな。それじゃおやすみ、じゃなくてサナには行ってらっしゃいかな?」
「それはお好きなように。はやく行ってください。着替えたいので。」
「あ、すまん。わかった。」俺はサナの部屋の扉を閉めた。
「それと、サナ?」
ー「はい?どうなさいましたか?」
「これからもたまに来ていいか?話したいこともあるし。それにサナといると落ち着くから」
「……、いいですよ。」
「ありがとう」彼がそのまま去っていく足音が聞こえた。
しーくんは昔と変わらない。私の心をすぐに乱して
「もう、しーくんのバカ…本当は…」
いけない、こんなこと思ってしまうなんてまだ諦めきれてないのかもしれない。
自分よりお嬢様を優先してしまう自分がいることを少し恨むが今はこれでいいのだ。
彼にはお嬢様を守るための魔法だとだけ伝えた。でもいずれその魔法の仕組みには気づくだろう。最初から隠すつもりはないのだから…
シューベルにかけた魔法。それはある言葉を伝えた者が伝えた人によって魔力出力が制御されるもの。(お嬢様が彼に力を望まないかぎり彼はずっとあのままでいられる。)お嬢様が絶対にシューベルに殺されないための保険でもあるが、自らの力の意味をシューベルにわかってもらうためのもの。総監は私が適任であると言っていたが、私じゃない。お嬢様のために彼の力を使ってもらうためにこうするしかなかった。
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ティナの部屋の前に来て、少し緊張しながらもドアをノックした。
「ティナ?起きてる?」
ガドン、…ドン…バタン…
部屋の中から何かにぶつかる音がしたと思えばティナが部屋から出てきた。が、なにかティナ様子がおかしいような気がする。昼間はキッチリと服装を整えて大人っぽく振る舞いを見せていたティナだったが今は昔に戻ったように幼く見えた。服はパジャマに着替えたのか元々ラフな格好なのだがボタンが一つずつ段ずれしているし、一番上なんてとまってさえいない。ちょっと目のやり場に困るのだが…
「あ、しーくんだ!入って入って!」
夜なのになぜがハイテンションで俺の腕を掴み部屋に招き入れられた。
「ティナ、どうしたの?やけに楽しそうだけど?」
「うん?そうだね〜、エヘヘ、わたしは嬉しいよ〜。今幸せだよ!」
「お、おう?」ティナのあまりにも変わりように流石に違和感を感じる。
「ティナ?疲れてるのか?それなら今すぐ休んだ方が…」
そう気にかけるとティナは否定するように首を振る。
「ぜっんぜん、だいじょうぶ〜。私ぐらいなら昼間に高位魔法使ったぐらいじゃへこたれないんだから〜〜〜うへ、覚醒の姿はやっぱり疲れるといか、眠くなるというか、…いや、そんなことで疲れることなんてなくもないことなんてにゃい?あれ?どっちだっけ…まぁいいや。ねぇしーくん。こっちきてお話ししよ!」
うん、これは魔法の使い過ぎからの撹乱状態だわ。ティナは元々魔力が多くなかったから身体が今の魔力量に合っていなくて無理をしているように感じる。こういうことは以前にもあったけど、まだ続いていたとは…。ティナが努力して自らの魔法を日々強くしているということなのだが、あまりにも頑張りすぎていないか心配になるぐらいだ。ティナが昼間に使っていた魔法はその努力の結晶なのに素直に喜べなかったのはそのためだった。これはティナをすぐに寝させてあげるのが最善だろう。かと言って昔から素直に寝てくれるわけないし…いつも「まだお話ししたい」とか言って結局夜遅くまで起きていたっけ。
「ティナそのままベットに横になってみな?」
「え?どうして。あ、うん。、、、これでいい?……」
ティナは体を横にしたかと思えばそのまま眠ってしまいそうに、目をうつろうつろしている。
「ほら、毛布かけてあげる。」少し肌寒くなってきて厚手のものを手渡す。
「…しーくん。ありがとう。ねぇむかしみたいに手繋いでほしい……な」
そんなティナの純粋無垢な顔で言われたら断ることなんてできるはずもない。「嫌じゃないなら、いいけど」
「やった!はい、おててぎゅ!」
う、なんか昔の時に違う感じがして、少し照れ臭くて顔を直視できなかった。ティナはずっと俺の手を握りしめていてなかなかはなさなかった。
「ティナ、やっぱりちょっと恥ずかしいからこれぐらいで…」
そんな彼女は眠たかったであろう身体をこちらにコトン、と倒れて寄りかかりながら寝てしまっていた。隣から寝息が聞こえている。
ティナのこんな姿、他の誰にも見られてほしくないかもな。。。
「ティナに悪いことしたな…助けてもらう前に自分で喰らっとけばティナに魔法を使わせなくて済んだのに。」ティナ気持ち良さそうに寝ている。その寝顔は昔と変わらずに純粋な幸せそうな表情だった。
さっきの状態のティナは疲れているときのティナ。昼間の顔は頑張っているときのティナ。
そして今は幸せそうなティナ。
どれもいつ見ても嬉しい。自分が今失っていけないもの。
そして、あの日の夜。俺に対する恨む、怒りをぶつけるティナの表情。あれだけは忘れることはない。
「ティナ、ごめん…。俺がお父さんを殺していなかったら、ティナはどんなに幸せだったのか…。」
そんなことわかっている。取り返しのつかないことだなんて。でも今はこうして側にいるということがさらに自分の罪を重くしているような気がして、.…。つらい…のか?
ティナを守れなかった時はそれは俺の死だ。自分が死ぬのは怖くない。ティナのためなら何もかもこの身を尽くす。この力を使ってやる。
それぐらいしか今の自分に何も残されていないのだから。
ティナはスヤスヤと眠っている。そんなティナを起こさないように俺はそっと魔法を、言葉を唱えた。
「"あなたに私の全て捧げます"」
サナから言われた魔法。あの時はああ言ったけど本当はよくその魔法については知っている。代々その魔法はリヴァイア家だけが使う魔法。それは俺の親父から教えてもらった。
「"我の女神、我ここにおらずともその心はいつもあなたのなかにあり、そして…"」
「"我ここに誓う…、あなたとの契り",」
正直恥ずかしい。ティナが目の前で起きていたら勘違いしてしまいそうだから…これはあくまで俺が決めたけじめに過ぎないのだから。
ティナ…俺のこと頼ん……ぁぁぁ、…
「あ、やば魔力消費やばいかも…思ったより魔力消費が激しいのか?」一時的とはいえ本来の持つ魔力全てを保持している状態だったのに、今はほとんどなくなってしまい身体も口も動かすだけでつらい。次期にティナからの魔法制限がかかってくるので体を起こしているだけでもつらくなってくる。
俺はそのままティナの隣で横になってしまった。流石にティナのベットで寝るのはやばいのに、まぶたの筋肉もいうこと聞かない…
今、目の前にうっすらと閉じそうな瞼の隙間から見えるティナの顔を見て、そのまま目を閉じた。




