白夜の間
懐かしい記憶。たとえそれが夢であっても彼女との思い出が残っていることを実感できた。
よかったまだ覚えてるいる。でもいずれ消えてしまうかもしれない。
彼女との思い出、最後まで覚えていてよかった。自分が死ぬその時までこの記憶だけは残すと決めていた。
黒魔法の強大な力の代償。それは使用者の身体、能力そして記憶を蝕むこと。闇は無限の力と引き換えにヒトの全てを奪う。
既に身体の大部分は魔法により蝕んでしまっている。魔法で身体を制御して動けるはするが人としての機能はもうない。
そしてさきの大量の黒魔法の強制利用。視力、聴力心臓の老化により身体への負担はさらに増した。
が、もうじき死ぬのだから心配することでもない。
周りには魔法師が5人体制で結界をつくり黒魔法を封じ込めていた。いくら代償の影響があるとはいえ余裕で突破できるが、やる意味もない。
彼女が傷ついて初めてわかった。奪われる気持ちを。
何も疑いもせず、感じなかった。使命なのだからと言い訳をしていたからかもしれない。この手でいくつもの命を奪い、殺して、そして命令には忠実に動く。
何をしているのか、何を求めているのか。別にその先に何かあったわけでもない。ただこんなにも大事な人が奪われることは自分が死ぬことより悲しいと。わかっていたのに、忘れてしまった自分を憎みたい。
罪は消えない。自分が手を下した人はかえってこない。その人たちの恨みもなくならない。
だから、たとえそれが自分勝手な判断でも俺は自分にけりをつける。
俺は内に潜む闇に語りかけた。
「闇よ、全てを捧げる。我に終末を"ジ•エンド"」
魔法発動者が死ぬだけという何も戦いには意味をなさない魔法。
黒魔法師が最初で習い、最期に使う魔法。あの時は使うことが疑問だったけど、自分の愚かさに気づいた黒魔法師を助けるためだったのかもしれない。さらに今は気づけた。魔法の完全発動まであと数秒。
「おい、なにをした!お前」結界を張っていた魔法師の一人が異変に気づく。
周りには黒い光があたりを闇へと誘う。その場にいる全員が結界構築をやめ、あたりは俺一人となった。
「ティナ、これが君のためにできる最善だ。俺はいなくなった方がいいことなんてわかっていた。」黒に産まれし子は災いの子供。彼女と同じようにはいられない。
神なんて信じたことないが、闇がいるなら光の神もういるかもしれない。こんな自分にも神がいるならひとつお願いしたい。「ティナ•ウォルクスビナに栄光あれ」こんな闇にじゃなくて…ね。
意識が朦朧として魔法を発動しきるまで保つことが精一杯になってきた。
徐々に手は透けて、塵になっている。
涙も下には落ちずに空気中に消えていく。
「…ありがとう」
魔法発動前、一人の女が魔法を乱した。「"シャットイン•ポッシブル"」
男が発動しようとした魔法はかき消されて、男はその場で倒れた。息はまだあった。
「シューベル…しーくん。バカな真似はやめてよね本当っに。」女の方は息遣いは荒い。
「ほら何逃げてるの?あなたたちに任務を与えたらはずなのにこの様とは。しっかりしなさい」
「すいません。白夜さん」
まだ任務に従事して日の浅い魔法師には確かに相手が相手なため荷が重すぎるかもしれない。黒魔法師とはそれだけ恐れられる存在だ。
でもこの黒魔法師はまた強さとは違う意味でも別格だということ。こんなに優しい人はいないということ。
こんなのまだましな方なのかもしれない。罪の重さで自ら命を絶つことは並のことではない。
闇の力に取り憑かれ死ぬ時まで破滅を望む。そういう黒魔法師しかこの世にいるわけではないことを分かってほしい。
みんなが皆んな彼から逃げるのではなく…。




