表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/102

四章第14話 封印を壊す方法は。

「そうだ。……どうしてリンダ嬢が知っている?」


 生贄の血で聖具を穢すことで闇色の竜の封印は壊れる。


 それは普通にリンダ・バーチとして生きていたら知らないはずの話だ。カイルに聞かれてそれを思い出し、答えに詰まった。


 けれど質問が繰り返される前に、クリスがカイルに呼びかけ、私の答えは求められなかった。


「待ってくれ。私たちは、自分たちで一度封印を壊すのか?」


 少しだけ声が震えていた。焦ったような、戸惑ったようなときの声色。


「そうだ」

「封印を自ら壊すなんて、闇色の竜の復活を願う邪教徒と変わらないじゃないか……。私たちはこの国を護るために戦うべきじゃないのか?」

「近いうちに封印が壊れることは確かなんだ。いつ壊れるかわからない。だから再度封印をする。そのために一度壊す。仕方ないだろう」

「しかし……」

「いつ壊れるかわからない状態で放っておけと言うのか? そんなものを抱えている方がよっぽど危険だとわからないのか?」


 返すカイルの言葉がやたらと乾いて聞こえた。確かに、カイルの言葉は筋が通っている。理にかなっている。

 クリスは少しだけうつむいて口を閉ざした。

 

「何が四英雄だ……聖具で生贄の命を奪う。単なる人殺しと変わらないだろう……」


 少しかすれた、絞り出すような声に部屋の空気が張り詰める。


 私は声の主であるデュランを見た。

 少しうつむいていて前髪が影を作り、目元は見えない。それでも声か、、テーブルの上に置かれた握り込んだ左手から、心情が見て取れて、少し胸が痛くなった。


「リンダに伝えたのはデュランか?」

「……何をだ」

「封印を壊す最後の鍵は、聖具で生贄の命を奪うことだ。聖具を穢せば光の力は闇に食われて封印は崩れる。俺はそう聞いている。だが、どうしてリンダが、マグノリア家が知っているんだ?」


 静かに淡々と、詰めるように質問するカイル。

 私が答えたほうがいいのか? と思ったが、彼の目はデュランにまっすぐ向いている。自分の出る幕じゃない気がして、ただ見守った。


 デュランはゆっくりと目線を動かして、一瞬カイルを睨むような目で見た。

 それから小さく息を吐いて、長い瞬きをして、カイルと目も合わせず視線を落としたまま、つぶやくように言った。


「俺に前世の記憶があるからだ。水の槍で少女を貫いた、ローランド・マグノリアの記憶が」

「なっ……」


 カイルは驚きの声を上げた。クリスはガタリと音を立てて、椅子から一瞬だけ立ち上がりかけたが、すぐに脱力したように椅子に体を落とした。


「ローランド……四百年前のマグノリア家の当主が? そんな……」

「どうしてデュランが知っているんだ? 俺だって誰がやったかは知らないのに」

「前世の記憶で見たからだ」

「ふざけているのか?」

「封印の壊し方は間違っているか?」


 一瞬、室内の空気は鋭くなった。

 驚いたようなクリスと、デュランにくってかかるようなカイル。

 どちらも静かに返すデュランの言葉に黙り、クリスはカイルの方を見た。カイルはデュランを見たまま動きを止めた。


 封印の壊し方は、間違っていないのだろう。

 カイルの態度がそういっていた。


「どうして知っているかなんて、どうでもいいだろう。俺は、リンダが助かる方法が知りたい。それだけなんだ」


 デュランはそう言ってカイルをじっと見据えた。カイルは一瞬だけデュランを見て、すぐに目を逸らした。


 その場にいる全員がカイルが口を開くのを待った。十秒もかかっていないのに、長く感じた。


「四人の英雄は光の力を借りて、不安定な封印の上で踊る哀れな生贄の魂を浄化する。光を失い聖具が穢れ、封印が解けようとも、我らの聖具は光の力で浄化される。光を取り戻したた聖なる剣と槍と弓で再び竜を討ち、封印魔法の力で闇も光も竜に閉じ込め、深く深く大地に沈め、我らは平和を取り戻す」


 おとぎ話の一節のようにカイルはそう口にした。


「封印の魔導書の継承者に伝えられる詩だ。意味合いはそのまま。つまりは……封印を壊す方法は、デュランが言った通りだ……」


 床を見つめたまま、一言一言噛みしめるような口調でカイルは話し続ける。


「その聖具を穢すための生贄に、リンダ嬢は選ばれた。それがその手の甲にある生贄の刻印だ。闇の魔力を溜めるためのものらしい」

「闇の魔力を溜める? でも、溜めてどうするの? 人を闇の魔力で満たすことはできないはずでしょ?」


 静かに聞いていたアルベルトが純粋な疑問をカイルにぶつけた。


 彼のいうとおり、人が闇の魔力で満たされて魔物化した例はない。

 私も魔物になるわけではないはず。そう信じたい。


「人間は魔物化しないが、闇の魔力が溜まると引き寄せられるように闇色の竜の元に向かうそうだ。それで……先ほど言ったとおりだ」


 不安定な封印の上で踊る哀れな生贄。

 多分、生贄は闇色の竜の封印を壊そうとするとか、竜を復活させようとするのだろう。

 闇の力によって四英雄たちの敵になってしまうのだろう。

 それで四英雄は仕方なく生贄を倒し、結果として聖具が穢れて封印は壊れる。

 封印が壊れたら闇色の竜が蘇って戦いが始まる。

 そういうことなのだろう。


「どうして、リンダを……」


 デュランが力なく呟いた。


「私たちの祖先は、民を救う大義名分のために何の罪もない人の命を奪っていたんだな……」


 クリスが自分を責めるように呟く。

 彼の隣に座っているオリビアが、寄り添うように肩にそっと手を添えた。


「誰かが、誰かがそれをやらないといけないんだ!」


 カイルはテーブルの上で拳を握り、声を荒げた。クローディアはそんなカイルを戸惑ったように見つめている。


「……俺は、二度とそんなことをしたくない。俺はリンダを手にかけるくらいなら、俺が」

「デュラン様!」


 デュランが何を言おうとしたのかがわかって止めた。それは言わせちゃいけないと思った。


「二度と、か。前世の記憶だろ? デュランが何かしたわけじゃない」

「カイル様」


 カイルの言葉は鋭利だった。クローディアがカイルをたしなめるように名前を呼んだ。

 それでもカイルは止まらなかった。


「前世じゃ役に立たないな。誰かさんみたいに未来がわかるとかだったら良かったのにな。あれは嘘かもしれないが」

「カイル、不敬だぞ」


 なおも荒い口調で続けるカイルを、今度はクリスが止めた。


 ……誰かさん? 未来がわかる? 不敬?

 カイルが言い出したのは何のこと?

 そう思ってそっと見渡す。みんな困ったように見えるが、疑問はないようだった。

 私以外は、カイルの言いたいことがわかっているようだった。


「そうか。マグノリア家が前回、聖具を穢したから……それでデュランの家には伝えられているのか? だから知っていたんだな?」


 カイルが自分を納得させるように言った。

 前世の記憶では納得がいかないらしい。


「確かにマグノリア家に伝えられてはいた。ただ俺は伝えられる前から知っていたんだ。前世の記憶を何度も夢に見ていた」

「前世の記憶なんてあるわけないだろ、馬鹿らしい。マグノリア家は泥を被った当事者だから知っているし語り継いでいる。他の四英雄家はマグノリア家の名誉のためにそのことを黙っていたし、子供たちに伝えなかった。そういうことだろう」


 ……馬鹿らしい?


「信じないならそれでいい。……さっきから何が気に入らないんだ、カイル。自分が知らないことを俺が知っていたからか?」

「そうだな。自分にはわかる。そういう態度は気にくわないな。ただ伝えられていることを前世で見たなんて嘘をつくのもな」


 嘘? 前世で見たことを、どうして嘘だと決めつけるの?


「嘘じゃない。信じないのは勝手だが」

「前世で見たなんて言って何になるんだ。……ああ、前回はマグノリア家がやったから、今回は免除してくれとでも言いたいのか? 前世の記憶なんて馬鹿らしい言い訳で、自分だけ逃げるつもりか!」


 前世の記憶なんて? 馬鹿らしい言い訳?


 デュランはずっと苦しんでいた。

 水の槍で少女の命を奪った。その前世の記憶があって、でも誰にも信じてもらえなくて。


 私もずっと何かつかえていた。

 前世の記憶のことを、この世界が前世でやったゲームだなんてことを、誰にも話せなくて。


 前世の記憶はありがたくはなかった。

 知っていても何かの役に立てることも出来ない。何の活用も出来ない。都合の良いものではなかった。

 でも記憶を選んで手放すことなんて出来ないから、抱え込んでいた。

 知らなければ良かったことを抱えて苦しかった。

 生贄になることなんて知りたくなかった。


 それでも、私とデュランはお互いに前世の記憶があったことで、秘密を分かち合うことができて、今の関係がある。


 良いことといえばそれくらいだ。苦しいことの方がずっと多かった。

 でも逃げないで向き合ってきた。受け止めてきた。たくさん悩んで、苦しんだ。


 なのに、どうして前世の記憶があるだけでこんな風に言われないといけないの?

 この記憶があることで誰かに迷惑をかけたか?


 私は静かに椅子から立ち上がった。

 みんなの目線が私に向けられた。息を静かに吐いて、吸って、言葉にした。


「デュラン様の言うことは本当です。前世の記憶があるんです。言い訳でも、馬鹿らしいことでもありません。そんな風に言わないでください」

「リンダ嬢までどうした? 俺はリンダ嬢に何か言ったわけじゃない。ただ前世がどうとかデュランが言うから」


 デュランに話すよりは棘がなかったが、まだ冷たいカイルの声。それを私は最後まで聞かずに遮った。


「前世を否定しないでください。私にも、前世の記憶があるんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ