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四章第17話 いったん落ち着きましょう。

 ここマグノリア家のティールームで、しばらく話し合っていた私とデュランとアルベルト、カイルとクローディア、オリビアとクリス。

 そこに飛び込んできた、ティナとシャーリーとノエラ、それからマリーローズ第二王女。


 多いな……?

 何このイベント大渋滞状態。起こったことを話し込んでいるだけで、今何が起きているわけでもないのに。


 今来たみんなには何から伝えたものか。

 そう思っていると、シャーリーが口を開いた。


「ねぇ、手紙は読んだけど、リンダ、何があったの?」


 先程止められたせいか、私と物理的な距離を詰めることなく聞いてきた。


「オリビア様が送ってくれた手紙、受け取れたんですね。王城に行ったと聞いていたので」


 ノエラに手紙を送ったとは聞いていたが、特訓のあとに四人は王城に向かったとも聞いていた。

 王城内にいると手紙の魔法送信は障壁に阻まれて検閲等ですぐには見られない。

 だから、すぐに受け取れたことも、もうマグノリア家に来てくれたことも驚きだった。


「私とシャーリーさんは特訓から王城に行く前に王都に立ち寄ったの。そこで手紙を受け取りましたわ」


 ノエラはそう言いながらシャーリーの一歩前に出て封筒を見せた。実際に送った手紙らしい。

 そしてノエラも、それ以上私には近寄らなかった。


 特訓のあと、マリーローズとティナは王城へ、シャーリーとノエラは、魔導書の修理と弓の補充をするために王都に向かった。

 手紙はその王都にいる間に受け取り、内容を読んだ二人は王城に向かい、ティナにも事態を知らせた。そして三人でマグノリア家に行こうと決めた。


 王城で話していたのもあって、話はマリーローズの耳にも入った。


 話を聞いたマリーローズは一緒に行くと言いだした。しかし王女がすぐに予定外の外出ができるわけもなく、許可取りなどで出発に時間がかかり、マグノリア家に来るのが少し遅くなってしまった。


 ノエラの説明によるとそういうことだった。

 それだけいろいろあった割には、急いで来てくれたんだなと少し嬉しかった。


「手紙をありがとう。特訓にいた修理師や武器職人を頼らず、王都の馴染みの職人のところに寄ったのだけど、結果的に正解だったわね」


 ノエラの言い方に少しひっかかるものは感じた。先ほどからある、特訓に対する不信感というか、棘があるような……。

 気にはなったが、ノエラの言葉は続いた。気になったけど、遮ってまで言うことじゃないだろう。


「それで、この手紙に書かれているのは、アゼルがリンダさんに何かをしたようだ、ということだけど、生贄の刻印と分かったわけだし進展があったのでしょう? 聞かせてもらって良いかしら?」

「えっと……」


 とりあえず、伝えない理由がない。

 主にカイルと私、時々クリスで、到着した四人にここまでの状況を説明することにした。


 私が昨日アゼルにされた何かは、闇の魔力をぶつけられたらしいということ。

 それでできたあざは、生贄の刻印だろうということ。


 生贄の刻印に対して知識があるノエラとは違い、シャーリー、ティナ、そしてマリーローズも首を傾げたりひねったり、それは何? という疑問があるのが見て取れた。

 それに気付いているのかいないのか、カイルが説明を続けた。


 生贄の刻印は生贄につけられる目印で、闇の魔力を溜め込むもので、闇の魔力を溜め込んだものは、闇色の竜に引き寄せられて封印を壊そうとする。

 それは聖具で止めるしかなく、結果的にそれが聖具を穢すことになり、封印を壊すきっかけになる。そして封印は解けて、闇色の竜は復活する。


「俺たち四英雄の血を引くものやクローディアのような光魔法の属性者は、生贄になることもこの刻印をうたれることもないそうだ。それから、そのせいかわからないが、四英雄の血を引くものや光魔法の属性者がこの刻印のある相手に触れると、お互いに痛みが走るようだ」


 私はカイルの言葉に合わせて左の手の甲を見せたり、うなずいたりした。

 シャーリーは、ハッとした顔をした。先ほど私に触るなと言われたわけを悟ったようだ。


「そうだったの? それで……さっきはごめんなさい、リンダ……」

「あ、いえ、知らなかったなら仕方ないです。デュラン様が止めてくれたおかげで無事でしたし」


 私とシャーリーがそんな話をする傍らで、アルベルトがカイルに話しかけていた。


「あと話したことは……リンダの前世の記憶の話?」

「それは……」


 アルベルトに答えようとしたカイルの言葉を、コツンと小さな音が遮った。


 音の方に目をやると、マリーローズがテーブルの上に両手をついていた。

 テーブルを叩いた、いや、少し勢いをつけて手を置いた。そのくらいの小さな音だったが、みんなの注目は集まっていた。


 何かに驚いたようだった。

 だけどマリーローズが何に驚いて反応したのか誰もわからなかった。

 だから、みんな黙ってマリーローズを見た。

 そしてマリーローズは、私を見た。


「前世の話をしたの? リンダ」

「あ……、えっとですね」


 ああ。そうか、そこか。


 した。前世の話をしたか、していないかでいえば、確実にした。

 だけどどうして話したのか、どう話したのか、経緯も詳細もこの場でマリーに伝えづらい。


 話を合わせておくべきだったかと考えていると、カイルの冷ややかな声がした。


「リンダ嬢には前世の記憶があるそうですよ。予知夢よりは信じて良いかと思いますね」

「なっ……」


 マリーローズは一瞬反論のように声を上げて、言葉はそこで途切れた。

 そしてまた少しの沈黙。


「……予知夢……?」


 誰も何も言わなかったので、私はそう口にした。

 カイルは今そう言ったよね? 予知夢って何? 何の話?


 パンッと乾いた音がして、私の思考は遮られた。


 今度の音の主はノエラだった。両手が胸の前で合わさっている。手を打ち鳴らしたらしい。


「一度休憩としてはいかがでしょう? どのくらい話していたのかはわかりませんが、皆さま、少しお疲れのように見えますわ」


 良く響く心地良いアルトで、みんなを落ち着かせるようにゆっくりとノエラが告げた。


「カイル、普段のあなたではないように見えてよ。デュラン、少し外の空気を吸わせたいわ。マグノリア家のお庭に案内してもらっても良いかしら? クローディアさん、あなたも来て。私たちがいない間にお話ししたことを伺いたいわ」

「あ、はい」

「……すぐに案内させる」


 そう言ってノエラは、いったんこの空気を断ち切った。




「はぁーーーーーー」


 誰もいなくなったティールームで、私は立ち上がって体を伸ばして、息を大きく吐いた。


 休憩を提案したノエラは、カイルとクローディアを連れて部屋を出た。シャーリーとティナもそれについて行った。

 アルベルトとオリビアとクリスは、マリーローズと一緒に部屋から出ていった。


 デュランはマグノリア家のメイドへの引き継ぎなどで部屋を離れ、部屋には私一人が残った。

 そしてこの状況だ。

 用も何もなく、気晴らしみたいに室内をうろうろと歩いた。


 予知夢って何だ? 特訓で何があった?

 ぐるぐると考えながらうろうろと歩いていると、トントンと扉がノックされた。

 デュランだった。


「メイドたちにいろいろと案内や軽食を頼んできた」

「お疲れさまです」


 戻ってきたデュランは疲れたように椅子に深く座り込んで、背もたれに体を預けた。

 うろうろとしていた私は、デュランの隣の椅子に腰かけながらたずねる。


「あの……今のうちに聞きたいんですけど、カイル様とマリーローズ様は特訓で何かあったのですか? どうしてあんなに険悪なんです? みんな仕方ないような顔をしていましたし。あと予知夢って何ですか? マリー様が予知夢を見ていると?」

「落ち着いてリンダ。あと、さっきはありがとう」


 この隙に疑問に思っていたことをすべて聞こうと思ったせいもあって、矢継ぎ早に質問を飛ばしてしまった。

 それをたしなめられ、そしてお礼を言われた。

 私にはお礼を言われる心当たりがない。


「何かお礼を言われるようなこと、ありました?」

「……前世の話を否定しないで欲しいと、リンダが言ってくれてありがたかった」

「あれは、私がそう言いたかったんです」

「すまなかった……。リンダ、本当は前世の記憶があることを、みんなに話すつもりはなかったんじゃないか?」


 デュランは、私の前世の記憶について、みんなに話そうと提案していた。その方が対策を考えられるのではないかと。

 私はそれに乗り気ではなかった。まだ時期を見たいとか、そんなことを言って先送りにしていた。


「そうかもしれません……。話さなくても良いなら、話すつもりはなかったです。でも、最後に話すことを決めたのは私自身です。デュラン様が気にすることではありません。実際、話してしまえば、少し肩の荷が下りたような気がします」


 そう伝えて、笑ってみせた。

 デュランは少しだけ口元に微笑みを浮かべた。

 だけど目元は眉を寄せて、少しだけ、泣いているように見えた。

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