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お茶時々コーヒー  作者: 須景夜々


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階段をかけ上がり、慎重に美術室のドアを開けた。だが、室内には誰もいなかった。確かに上から音がしたのに。電気がついているしさっきまでここに誰かいたことは確かだ。

中へ入り原因となった場所を探す。

大きなものが倒れるような音だったからキャンバスか何かが倒れたんじゃないかと思うんだけど。

すると準備室へつながっているドアから誰か出てきた。


「ん?篝じゃないか、ちょうどいい。ちょっとこっちにきてくれ」


出てきたのは藤沢(ふじさわ)だった。エプロンを身につけてマスクをつけている。格好から推測するに掃除中だったんだろう。準備室へと入ると大きな物音の原因が散乱していた。


「過去の絵を見ようとして上の棚から絵を下ろそうと思ったんだがその時手が滑って色々落ちてきたんだ。」


埃が宙を舞い、それを払うような手振りをしながら藤沢は言った。


「なるほどね。それで僕は何をすれば?」

「言わなくてもわかるだろ。片付け。手伝ってくれ」


だと思った。いや、薄々勘付いてはいたんだけど。

ぼくらは埃で塗れた絵を一旦一箇所へ集めることにした。歴代美術部の絵を見るとかなり個性があって面白い。動物とか風景とか題材は様々でほとんどが油絵だった。藤沢は体力があるからいいけど慢性的な運動不足の僕にとっては額縁込みの絵が重くてしょうがない。結局ほとんど藤沢が運んだ。多分僕は必要なかった。


「いや〜片付いたな。全く酷い目にあったよ。それで篝はどうしたんだ。」


酷い目にあったのは僕もだけど。


「なんか大きい音がしたから心配で見にきただけ。」

「ああそれか。悪かったな心配かけて。俺はまたお菓子でも持ってきてくれたのかと思った」


僕は定期的に美術室へ賞味期限が切れそうな茶菓子を持ってきている。朝霧さんが良く茶菓子をもらうのだが、少食な僕らじゃ消費が追いつかないこともしばしば。そこでここに持ってきて有効活用している。もちろん事情も説明している。


「じゃあ、僕は戻るよ」

「ちょっと待て。帰る前にこの絵を見てもらっていいか?」


僕が椅子から腰を上げると藤沢は手に持った絵を僕へと見せてきた。


「これは、、、」


窓からは紅葉が見えていて目線はおそらく病室のベット。窓は開いていてそこと正反対に位置しているカーテンが揺れている。それが描かれた油絵だった。他にも手に花を持っていたりしているがなんの花かわからない。額縁には作品名が書かれた紙が貼られていて、そこには数字で『488』とだけ書かれていた。藤沢は僕が見たのを確認した後その絵をそっと地面に下ろした。


「この絵を見て、率直にどう思った?」

「秋を感じられるし細かいところまで描けている。僕は絵に関しては素人だけど、素敵な絵だと思ったよ。でもタイトルとの関連性がわからないな。488って美術的に何か意味を持つの?」

「いや、持たない。俺もそれがわからないんだ。」


そう言って肩を落とした藤沢は再び椅子に座り込んだ。期待はずれだとでもいいたげな顔だ。僕ならわかると思ったのだろうか。

藤沢は絵をもう一度じっくり見て口を開いた。


「この絵は俺の親友が描いたものなんだ。今は入院しててここにはいない。親友は去年から体調が悪くてほとんど学校に来れてなかった。学校に来るのは部活くらいだったからお前は多分そいつを見たことがない。学校で描いた最後の絵がこれなんだ。そいつが書き上げた唯一の絵がこれなんだ。」

「本人に聞いたらいいじゃないか」

「そいつはいま昏睡中なんだ。聞くことはできない」


部屋の空気が一瞬で凍りついた。聞いてはいけないことを聞いてしまったと反省し僕は黙った。しばし部屋が静寂に包まれた後、藤沢は絵を見つめながら話し始めた。


「そいつの病室に絵を飾ってやりたいんだよ。俺にできることはそれぐらいしかないから。そいつを少しでも理解できたほうがいい絵が描けると思ったんだ。」

「、、、まぁできるとこまで考えてみるよ。まずは絵の整理から始めよう。この絵には何が描かれているかどんどんあげてみて」

「開いた窓、紅葉、カーテン、手に持った花。これは彼岸花だろうな。あいつの描く花は癖が強くて分かりづらいんだがこれは彼岸花だ。」


カーテンが揺れているのは窓から入り込んだ風のせいだと推測できる。手に持った彼岸花の花言葉はたくさんあって特定は難しそうだ。


「じゃあ、488という数字に関することを挙げていこう。」

「とは言っても488なんて数字は特に思いつかないんだよな。思い当たる節がない」


僕らは頭を抱えた。488なんて数字は調べても何も出てこない。わかるのは偶数ということだけ。僕たちは488の数字をひたすら調べたがただ時間は過ぎていった。

 早く戻らないと朝霧さんが拗ねてしまうのに。

「そろそろ戻らないと朝霧が心配するだろう」と藤沢が言ったことで僕は絵の写真だけ撮らせてもらって僕は茶道室へと戻った。

部室に戻って朝霧さんにも絵を見てもらった。朝霧さんは独特な視点で物を見るのでもしかしたら絵と題名の関係性がわかるのではないかと期待した。

 朝霧さんは絵を一目見て僕に質問してきた。


「ねえ、篝くん。この絵を描いた人は今どこにいるの?」

「この絵を描いた人は今昏睡状態らしいから病院じゃないかな。」

「そう、、、」


説明すると朝霧さんは黙りこくってしまった。もしかするとあまりいい意味ではないのかもしれない。彼岸花の花音葉には死別がある。もしかしたらあの絵はもう自分が長くないことを伝えるための絵だったのかもしれない。そんな根拠が薄い妄想をひたすら考えていると朝霧さんが僕の目を見てつぶやくように教えてくれた。


「あのね篝くん、おそらくだけどこの絵は、、、」


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