09 悪役なんて脱ぎ捨てて、溺愛に溺れる
反逆者たちが王宮騎士たちに連行されていく中、中庭にはまだ緊迫した空気が残っていた。
しかし、そんなことは私には関係なかった。
殿下は私を抱きしめたまま、離そうとしない。先ほどの矢で負った傷も顧みず、彼は私の首元に顔を埋めて、深く、何度も息を吸い込んだ。
「……殿下、傷が……」
「黙れ。……お前が俺の目の前から消えるかと思った。あの瞬間、俺は……自分が王であることも、全てどうでもよくなった」
殿下の腕が、私を折れんばかりに強く抱きしめる。
その声はかすかに震えていて、私の胸を締め付けた。
「俺は、お前を遠ざけようとした。お前を誰よりも愛しているのに、守るためには突き放すしかなかった。……だが、もう二度としない。お前が俺を愛してくれるなら、俺は一生お前を離さない。俺のそばから一歩も出すな」
「……殿下」
私は殿下の頬に手を添えた。
彼は、さっきまでの「冷徹な王子」なんて影も形もない。ただ私だけを求めて、切なげに瞳を揺らす一人の男の子の顔をしていた。
「……大好きです、殿下。私、殿下となら、どこへだって行きますわ」
そう告げた瞬間、殿下の瞳に情熱の炎が宿った。
彼は私のあごを掬い上げ、周囲にエドワード殿下やイザベラ、ゼノンが見ていることも完全に忘れて、深く、貪るようなキスを落とした。
それはもう、「婚約破棄」だなんて言葉が遠い昔の出来事のように思えるほど、甘く、熱い愛の刻印だった。
「……殿下、見てます……!」
ゼノンが遠くで盛大に咳き込んでいる。
「……しらん。今、この瞬間、俺の視界にはお前しかいない」
殿下は私の耳元でそう囁くと、もう一度、今度は優しく、愛おしげに口づけを重ねた。
「……悪役の演技は終わりだ。これからは、俺が死ぬまでお前を溺愛してやる。覚悟しておけ」
真っ赤になって、でも嬉しくてたまらなくて、私は殿下の胸に顔を埋めた。
周囲の視線なんてどうでもいい。
私の王子様は、今日も今日とて、私を愛してくれている。
世界で一番「下手な婚約破棄」から始まった私たちの恋は、こうして、誰も邪魔できない甘い蜜月へと変わっていったのだった。




