10 愛されヒロインと疲労する仲間たち
「……というわけで、殿下が命がけで婚約破棄の演技をされていた理由、ようやく理解しました!」
執務室のティーテーブルで、私は満面の笑みで宣言した。
私の目の前には、げっそりとした表情のゼノンと、呆れ顔のエドワード、そして尊いものを見る目で私を見つめるイザベラが座っている。
「……やっとかよ。殿下のあの不器用な空回りに、こっちの寿命がどれだけ縮んだことか」
エドワードが紅茶を煽る。ゼノンはさらに追い打ちをかけるように、私に分厚い書類の束を突き出した。
「お嬢様、お願いですからこれからは少しだけ『王妃としての自覚』を持ってください。殿下が『俺の婚約者を狙う不審者リスト』を更新するたびに、私の仕事が倍増するんです」
「えっ、不審者リスト?」
私が首を傾げると、イザベラが目を輝かせて割り込んできた。
「お嬢様! 殿下はね、あちこちの貴族令息に『お嬢様に近づいたらどうなるか分かっているだろうな』という殺気立った親書を送りつけているのですよ! そのせいで、今や王宮内では『お嬢様に話しかける=命がけの試練』という伝説が生まれています!」
「ええっ、そんな! 殿下ったら、またそんなに私を……!」
私が感動して胸を押さえると、ゼノンが「違います、これは溺愛です!」と即座にツッコミを入れた。
「それに、お嬢様。あなたが殿下の作った『婚約破棄』という名の檻の中に、自ら進んで飛び込んでいたせいで、我々も随分と苦労しました。……あ、お嬢様、そのお菓子、一口いただいても?」
「あ、いいですよ! イザベラさんも食べます?」
私がみんなにお菓子を配り始めると、殺伐としていた執務室の空気が、途端にピクニックのような穏やかさに変わる。
「……はぁ。この人の天然パワーの前では、どんな策略も無力だな」
エドワードが観念したように笑う。
王子が執務室に戻ってきて、私と他の男たちが談笑しているのを見て「……おい、なぜ貴様らがここにいる!」とまた嫉妬で顔を真っ赤にしているけれど。
「殿下、おかえりなさい! 皆さんとお茶をしていたんです。……あ、今日は殿下の分もちゃんと取っておきましたよ」
私が殿下の分を取り分けると、殿下は「……フン、別に欲しくないが……」と言いつつ、私の隣に座り、結局一口だけ私のフォークからケーキを食べる。
「……お嬢様。もう、殿下のその『ツン』はどこへ行ったんですか」
ゼノンの呆れた声が響く中、今日も王宮は、私を中心にして平和な(そして騒がしい)ティータイムが流れていくのでした。
「……ふん、俺たちの様子がもっと見たいなら、ブックマークと高評価を寄こせ!」
「あら殿下、そんな言い方をしたらダメですわ! 皆様、もしよろしければ応援いただけると嬉しいです!」




