06 刺客、推しを尊ぶ
執務室の窓の影から、イザベラが鋭い短剣を握りしめて現れた。
ターゲットは、私の背後。
王子はそれに気づき、「そこまでだ!」と身構える。
だが、私は目の前に現れた可愛い令嬢に気づき、ぱあっと笑顔になった。
「あら、あなたは誰? こんなところまで私に会いに来てくれたの?」
「……えっ?」
イザベラは、キラキラとした私の笑顔に、短剣を持つ手が震え出した。
(……なんて純粋な……。この方は……なんて尊いの……っ!)
「あ、あの! ケーキ、食べますか? 今日はマドレーヌをたくさん焼いてきたんです」
私が差し出したのは、先ほどの残りのマドレーヌ。
イザベラはそれを受け取り、一口食べると、その場で目から大粒の涙を流した。
「……ッ、美味しい……! こんなに優しいお菓子……今まで食べたことがない……ッ!」
イザベラは短剣を捨て、私の足元に膝をついた。
「お嬢様、私……貴女をお守りします! こんな場所、もう危険ですわ! 私が貴女をこの国からお連れします!」
「……は?」
王子とエドワード王子が同時に固まる。
「待て! なぜ貴様がそっち側に回る!」と王子が叫ぶ。
「いや、俺が彼女を連れ出すはずだったのに!」とエドワード王子が抗議する。
側近のゼノンは、もはや床にへたり込んでいた。
「……もうダメだ。殿下、諦めましょう。お嬢様は、もはや『王宮のアイドル』です……」
私はキョトンとして、みんなを見回した。
「ええと、みんな、そんなにケーキが食べたかったのかしら?」




