02 押しかけ婚約者は今日も笑顔でやってくる
夜会の翌朝。
私は意気揚々と、特製ベリータルトの山を抱えて王子の執務室へと向かっていた。
「殿下、おはようございます! 今日はタルトをホールで焼いてきましたわ!」
ドアを勢いよく開けると、王子殿下は書類の山に埋もれて眉間に深いしわを刻んでいた。
私の姿を見た瞬間、彼の瞳が大きく見開かれる。
「……貴様、なぜここにいる! 昨日、婚約を破棄したと言ったはずだぞ!」
王子は机をバンと叩き、鬼の形相で立ち上がった。
……ふふふ。相変わらず、殿下の「嫌う演技」は迫真ね。
私は全く動じず、タルトを机の空いたスペースにドカッと置いた。
「ええ、存じておりますわ。でも、婚約を破棄したとしても、殿下のお体が心配なのは変わりませんもの。お茶の時間は必要でしょう?」
「……っ!!」
王子は顔を真っ赤にして、言葉に詰まった。
本当は「君の顔を見ると、計画が狂うから来るなと言っているのだ!」と叫びたいのだろうけれど、きっと「大好きだ」と口に出せない照れくささで、言葉を探しているに違いない。
「……勝手にしろ。ただし、話しかけるな。私は今、非常に忙しいのだ」
そう言って背を向けた殿下の背中から、なんだか「やった……!」という安堵のオーラが漂っている気がした。
やっぱり、殿下は私にタルトを食べさせたくて、ツンデレを演じているのね。
(※ちなみに、この時王子は、本気で執務室が反逆者たちの標的にならないか冷や冷やしており、ヒロインを追い返せないことに頭を抱えている)




