01 王子『婚約破棄だ!』→ ヒロイン『まぁ、そんなに恥ずかしがらないで!』
王宮の大広間にて、シャンデリアの光が優雅に揺れる夜会。
私は今日一番の関心事である「特製ベリータルト」の配分をどう確保すべきか、真剣に頭を悩ませていた。
「おい、貴様!」
不意に背後から、怒鳴り声が響いた。
振り返れば、婚約者である第1王子殿下が、この世の終わりのような形相で立っている。
「……えっと、殿下?」
「今日限りで、貴様との婚約を破棄する!」
王子殿下の声は、会場の音楽をかき消すほど大きかった。
……ん? 今、なんて?
私がきょとんとしている間に、彼はさらにヒートアップしていく。
「貴様のような教養も色気もない、ただのんびりとした女は、次期王妃として全くふさわしくないのだ! 見ているだけで吐き気がする!」
会場が水を打ったように静まり返る。
周囲の貴族たちが息を呑む音が聞こえた。
……あぁ、そうか。なるほど。
私はパァッと顔を輝かせた。
「まぁ、殿下! それほどまでに私を想ってくださっていたのですね!」
「……は?」
王子殿下が、見事なまでにキョトンと口を開けた。
私は感動で胸をいっぱいにしながら、殿下の両手をぎゅっと握りしめた。
「お忙しい公務の合間に、そんなに激しい『照れ隠し』の台本を練習してくださっていたなんて……! 殿下の不器用な愛の表現、しっかり受け取りましたわ!」
「い、いや、違う……! 貴様、耳が腐っているのか!?」
「もう、恥ずかしがり屋さんなんだから。今日のおやつに、タルトを多めに差し入れしますね!」
「だから、聞いていない!!」
王子殿下は真っ赤な顔で絶叫したが、周囲の貴族たちは「……結局、またいつものノロケか」という呆れ顔で、スッと関心を失っていった。
殿下の必死な演技は、今日も今日とて私の天然フィルターという名の最強の壁に阻まれ、空回りしているようだった。




