表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
揺らぐ光を宿す少女は、闇の継承者に選ばれる ― ノクタ・ルミナ:優しい光の降る場所 ―  作者: 雪ノ燈子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/11

04│少なくとも、俺にとっては -01-

錬成区画は、学院の奥まった場所にあった。


透明な結界柱が高く天井へと伸び、床には魔力を導く紋様が刻まれている。

淡い光がドームの中をゆるやかに循環し、空気そのものが澄んでいるようだった。


今日は五つある区画のうち、第三ドームだけが解放されていた。


フィーナ、ミア、ラナの三人が第三ドームへ足を踏み入れると、先に来ていた四大公爵家の面々がそれぞれの場所に立っていた。


リーザは静かに床の文様を観察し、ガレスは腕を組んで壁際に寄りかかっている。

クローディオはガレスの脇に立ち、どこか楽しげに周囲を見渡していた。

そして――ルークランは、リーザのすぐそばで、静かに立っていた。


フィーナは一瞬だけ足を止める。


(……この人たちの前で、訓練。何かあったら…どうしよう)


頭の中に、魔力を暴走させた過去が浮かんだ。もしこの人たちに怪我をさせてしまったら?


ミアは「噂になる」と言っていたけれど――こんな面々を前にするくらいなら、二人きりの方がまだ良かったのではないか。


そのとき、ルークランの視線がこちらへ向いた。


「緊張しているのか。」


低く、静かな声だった。距離があるのに、よく通る。

フィーナは思わず背筋を伸ばした。


ルークランはリーザの横に立ったまま、動かない。

その距離が、なぜか少し遠く感じた。


――そういえば、クラスメイトが噂していた。二人は婚約者候補だと。


(……ああ。ミアが心配していたのは、そっちか)


二人きりはまずかった。来てもらって良かった。


「……大丈夫です。」


ルークランは短く頷いた。


「訓練の前に、自己紹介だけしておこう。改めて言うまでもないが、ルークラン・アストレイドだ。」


そう名乗ると、クローディオがくすりと笑った。


「クローディオ・ノクティル。見学係かな。」

「リーザ・ヴェリアス。補助は任せて。」

「ガレス・ヴァルガ。暴れたら押さえる。」


淡々とした紹介のあと、ミアが勢いよく手を挙げた。


「ミア・カルディナ!えーっと……応援します!」

「ラナ・ヴェイル。……水で冷却はできます。」


場が少しだけ和んだ。

自己紹介を終えると、ルークランはフィーナへ向き直った。


「セレス。まずは呼吸を合わせる。」

「呼吸……?」

「そう。自分の呼吸と、魔力の呼吸を合わせる。吸うときは、魔力を胸の奥に集めるように。吐くときは、それを指先に流すイメージだ。」


真剣な声。


「まずは手を下ろし、指先まで流すイメージを。」


フィーナは頷き、ゆっくりと目を閉じ、呼吸に集中した。


魔力の呼吸。そんなものを、今まで意識したことがあっただろうか。


だけど目を閉じ息を整えていくうちに、光の気配と鼓動がゆるやかに溶け合い、空気の振動が指先へと集まっていく。


「……流れてる、気がします。」

「気のせいじゃない。感じ取れている。」


低い声が、すぐ返ってくる。


「そのまま止めるな。」


ルークランの闇の魔力が静かに広がった。

押さえ込むのではなく、空間を整えるように。


「次に、左手を前へ。」


フィーナは目を開き、ゆっくりと左腕を真っすぐ前へ伸ばした。


「指先まで流れている魔力を、今度は手のひらに集めろ。」

「集める……?」

「そう。指先に集まった魔力を身体に流さず手に留める。」


フィーナは集中する。

指先から身体に戻りかけていた光が、ゆっくりと手のひらへ集まってくる。


「……いい。」


ルークランの声が少し低くなる。


「そのまま、放つな。留めておけ。」


淡い金の光が、フィーナの手に灯った。

魔力の縁がぐらりと大きく揺れる。


少し、不安がよぎる。


(また、暴れたら……)


「大丈夫だ。」


すぐ後ろで声が落ちる。


「俺が制御する。」


まっすぐな声だった。

ほんの少し、肩の力が抜けた。


気づけば、ルークランはすぐそばに立っていた。


視線だけをそっと横へ動かすと、リーザがこちらを静かに見ていた。表情は変わらない。ただ、真剣な目で。

フィーナはわずかに身を引こうとした。


「動くな。」


低く、静かな声。


「……乱れている。」


フィーナはぴたりと止まった。


闇の魔力が、金の光の縁をなぞった。


暴れない。

逃げない。


光は、闇の輪郭の中で静かに揺れている。


クローディオの瞳が細くなる。

リーザがわずかに息を呑む。


ルークランはそのまま、静かに続けた。


「そうだ。その感覚を覚えろ。」


金の光が、ゆっくりと静まっていく。


フィーナの手のひらに灯っていた光は、揺れることもなく、静かに消えた。


ルークランはしばらく黙ったまま、フィーナの手元を見ていた。

やがて、小さく息を吐く。


「……成功ですか?」

「……ああ。」


短い言葉だった。

だが視線はまだ、フィーナの手元に向けられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ