01│でも、誰も彼女を見ない -01-
春の光が王都ルミナリアを包みこんでいた。
王城を中心に白い街並みが並んでいる。
大通りには店が軒を連ね、人々の声と笑いが絶えない。
パンを焼く香ばしい匂い。
商人の呼び込みの声。
色とりどりの布や魔道具を並べた露店の間を、人々が楽しそうに行き交っている。
王都はいつも活気に満ちている――と、村で聞いていた通りだった。
その北の丘に建つのが、王国最高峰の魔法学院――
ルミナリア王立聖学院。
三日月の弧を描くように連なる学舎の塔。
その足元に広がるレクシア湖は鏡のように澄み、宙に浮かぶ魔法灯をゆらりと映していた。
この国――ルミナリア王国は、魔法によって栄えた国だ。
王家を中心に、四つの公爵家がその力を支えている。
アストレイド、ノクティル、ヴァルガ、ヴェリアス。
その子弟たちもまた、この学院で学ぶ。
つまりここは、王国の未来が集まる場所でもある。
「……ここが、ルミナリア王立聖学院。」
フィーナ・セレスは、胸の奥でそっとその名を繰り返した。
言葉にした瞬間、心臓が少し強く打った。
今日はこの学院の入学式。
フィーナは特待生としてここに通うことになっていた。
奨学生とはいえ、この光に満ちた世界の中に自分が立っていることが、まだ夢のようだった。
(私、本当に……来たんだ)
風が頬を撫で、制服のスカートを揺らした。
湖面に映る塔がゆらりと揺れる。
その揺らぎを見つめていると、胸の奥に残る熱がそっと灯った気がした。
思い出すのは、あの夜のこと。
*
村に届いた学院からの特待生試験の招待状。
そこに差出人の名はなかった。
けれど、そこにはこう書かれていた。
「ルミナリア王立聖学院で学べば、きっとこの土地を豊かにする方法が見つかるだろう。」
その言葉を思い出すたび、胸が少し熱くなる。
あの夜、森で暴走した私を助けてくれた神さま。
まるであの人が言っているかのように聞こえた。
村を救いたい。
私に、それができるのかもしれない。
その思いだけで、私は夢中で魔導書のページをめくり続けた。
眠るのも忘れて、何度も何度も。
そして今、ここに立っている。
*
学院の門前の広場には、新入生たちが集まっていた。
「ねぇ、あなたも新入生?」
振り向くと、赤みの強い茶色の髪を高く結んだポニーテールがふわりと揺れた。
「私はミア・カルディナ!あなたは?」
「……フィーナ・セレスです。」
「フィーナね!よかった〜、話せる人がいて!私、さっきから緊張しっぱなしで!」
「えっと…カルディナって……貴族の、あの商家の?」
フィーナは恐る恐る尋ねる。
当然だ。シルヴァリアには貴族はいないからしきたりが分からない。
失礼があったら大変だ。
その言葉を聞いてミアは目を真ん丸に見開き、くすくすと笑った。
「うん。でも、この学院では身分なんて関係ないんだって。
貴族も平民も、みんな同じ生徒。だから仲良くしてよ!」
ミアはまたふわりと笑った。屈託のないその笑顔に、フィーナの肩の力がふっと抜けた。
「二人とも、入学式はそっちじゃないわ。」
背後から落ち着いた声がした。
「湖の方の聖堂が会場ですって。案内板を見てきたの。」
灰青の髪を整えた少女が、静かな瞳でこちらを見る。
「ありがとう!私はミア!こっちはフィーナ!」
ミアが軽やかに返事をする。
「ラナ・ヴェイル。……一緒に行きましょうか。」
三人は並んで歩き出す。
光に満ちた学院の回廊を進みながら、フィーナは胸の奥の鼓動を感じていた。




