↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
揺らぐ光を宿す少女は、闇の継承者に選ばれる ― ノクタ・ルミナ:優しい光の降る場所 ―  作者: 雪ノ燈子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/23

06│君の願いが叶うように -01-

訓練を終えたあと、金の光がゆっくりと消えていく。


静けさの残るドームの中で、フィーナは小さく息を吐いた。

以前より、暴走への不安は減っていた。

隣にいる闇の魔力が、不思議なくらい自然に光を落ち着かせてくれる。


向かいでは、ルークランが黒い手袋を外しながら小さく息を吐いた。


「……君の魔力は落ち着くな。」


琥珀色の瞳が、わずかに揺れる。


「え?」

「疲れが和らぐ。」


淡々とした口調だった。まるで事実を確認するみたいに。

フィーナは少し心配そうに眉を寄せる。


「……疲れてるんですか?」


ルークランは少しだけ沈黙したあと、頷いた。


「ああ。夏至祭が近いからな。」

「夏至祭?」

「……誘いを受けている。」


フィーナは首を傾げた。


「学院、最近その話ばかりですね。」

「ああ。」

「灯籠を流すお祭りですよね?」

「そうだ。」

「……どうして、お誘いを?」


フィーナは不思議そうに続ける。


「シルヴァリアでは、灯籠って一人で静かに願い事を込めて流すものなので、不思議で……。」


ルークランは一瞬だけ黙った。


説明するのが、少し面倒だった。というより、自分で言いたくない。

数日前から続いている女子たちの誘い文句が脳裏をよぎり、ほんの少し眉間に皺が寄る。


「カルディナに聞いてくれ。……俺が説明するより早い。」


フィーナはますます不思議そうに首を傾げた。


*


昼休み。


フィーナはミアとラナと一緒に中庭のベンチへ座っていた。

春から初夏へ移り変わる風が、木々を揺らしている。

周囲では、夏至祭の話題でもちきりだった。


「ねえ聞いた?」


ミアが身を乗り出す。


「ルークランさん、お誘い今のところ全部断ってるんだって。」

「全部?」


フィーナが目を丸くする。


「うん! 誰と花火を見るのか、女子たち大騒ぎだよ。」


ミアは楽しそうに笑う。


「さすが“闇の王子様”。」


フィーナは少しだけ困ったように視線を落とした。

昨日の訓練を思い出す。


“疲れが和らぐ”

そう言っていたルークランの顔。


本当に疲れていたんだな、と今さら実感した。


「……でも、どうしてそんなに?」


フィーナが素直に尋ねる。

ミアはきょとんとしてから、ああ、と頷いた。


「そっか、フィーナ知らないんだ。」


それから声を少し潜める。


「アストレイドってね、高位貴族では珍しく、結婚相手を自分で選ぶ家なんだよ。」


琥珀色の瞳がまるくなる。


「自分で……?」

「うん。身分とか政治とかより、“本人が選ぶこと”を大事にしてるらしいよ。」


ミアは肩をすくめた。


「だからみんな、ルークラン・アストレイドに選ばれたいんだよね~。」


その言葉に、フィーナは何となく視線を上げた。

ちょうど中庭の向こう側。

黒髪の少年が、何人もの女生徒たちに囲まれているところだった。

ルークランは困った様子もなく、いつもの落ち着いた顔で話を聞いている。


穏やかに返事をしている。きっと、断っているのだろう。

遠目からでも分かるくらい、周囲の女生徒たちの視線は熱っぽかった。


――別世界だ。


ふと、そんな言葉が頭をよぎる。

フィーナは小さく視線を落とした。


「……夏至祭と、関係あるの?」


ミアとラナが同時に「え?」という顔をした。


「フィーナ、ジンクス知らないの?」

「有名ですよ。」


ラナが静かに続ける。


「夏至祭の花火を一緒に見た相手とは、“縁が結ばれる”と言われています。」


フィーナの肩がぴくりと揺れた。


「えっ……。」


ミアはにやにやしながら続ける。


「だからみんな必死なの!特にアストレイド様は本命中の本命だし!」


フィーナはもう一度、囲まれているルークランを見る。


遠くからでも目を引くくらい綺麗で、眩しくて、手の届かない世界の人みたいだった。


「……そうなんだ。」


ぽつりと呟いた声は、自分でも驚くくらい小さかった。

そんなフィーナをよそに、ミアが明るい声で尋ねる。


「フィーナはどうするの?誰かと参加するの?」


フィーナは少し考えてから、小さく頷いた。


「……私は一人で行こうかな。シルヴァリアでは、灯籠って一人で静かに願いを流すものだから。」


その言葉に、ラナが穏やかに目を細める。


「……それも素敵ですね。」


吹き抜ける風が、灰青の髪をさらりと揺らした。


「私も、そうしようと思います。」

「ええー!まさかの二人とも、単独参加!?」


ミアがベンチの背にぐったりともたれかかる。


「私はどうしよう~!一人で見るの寂しいんだけど!」


すると、その時。


「おっ、ミア!」


明るい声が中庭へ響いた。

振り向くと、焦げ茶の髪の少年――カインが片手を上げながら近づいてくる。

同じBクラスのミアは、すっかり打ち解けているらしかった。


「夏至祭の話?」


カインは楽しそうに笑った。


「なになに?俺と参加したいって?」

「言ってませーん!」


ミアが即座に返す。

カインは「ひっど!」と大げさに肩を落としてみせた。


そのあと、フィーナに気づく。


「あ、フィーナじゃん。」


ぱっと笑顔になる。


「ミアと仲良かったんだ?」


フィーナも自然に笑い返した。


「うん。カインこそ。」


そのやり取りを見て、ミアがぱちぱちと瞬きをする。


「えっ、なに?」


ぐいっと身を乗り出した。


「二人ってどんな関係?」


カインはあっけらかんと答える。


「友達になったんだよな。」


フィーナもこくりと頷いた。


「うん。」


ミアは数秒固まったあと、急に顔を輝かせた。


「えっ!? いつの間に!?」

「いいだろ、別に。あっ!そうだフィーナ!」


突然、カインがぱっと顔を上げた。


「夏至祭、俺と参加してくれない?」


中庭に響くくらい大きな声だった。


「えっ?」


フィーナが目を丸くする。


その瞬間。


少し離れたところで、ルークランがふと顔を上げた。

淡い水色の瞳が、まっすぐこちらを見る。

カインはそんな視線に全く気づかず、ぐいっとフィーナへ身を寄せた。


「な、頼む!」


そして急に声を潜める。


「実はさ、クラスの奴らが賭けしてんだよ。」

「…賭け?」

「俺が夏至祭、女子と参加できるかどうか。」


カインは真顔で続けた。


「で、全員“できない”に賭けてる。」


フィーナが思わず吹き出しそうになる。


「ええ……。」

「ひどくね!?」


カインは自分の太腿を叩いた。


「だからここでフィーナが来てくれたら、俺一人勝ちできるじゃん?」

「そういう理由なの!?」


フィーナはとうとう苦笑した。


「ええー……。」


困ったように笑うフィーナを見ながら、カインは「頼むって!」と拝み始める。

その様子をルークランが静かに見ていた。


「……ちょっとだけなら、いいよ。」


フィーナは困ったように笑った。


「灯籠は一人で流したいから、最初の方だけでよければ。」


カインがぱっと顔を輝かせる。


「マジ!?」


次の瞬間、勢いよく立ち上がった。


「やったーー!!」


声が大きい。

中庭の視線が一斉にこちらへ向いた。


「えっ、カイン、誰かと夏至祭参加するの!?」

「うそでしょ!?」

「相手誰!?」


ざわざわと空気が揺れる。

フィーナは恥ずかしくなって小さく肩を縮めた。

その少し離れたところでルークランの動きが、ぴたりと止まっていた。

だが誰も気づかない。

カインはまだ嬉しそうに騒いでいる。


「助かったー!」


その声を聞きながら、ルークランは無意識に視線をフィーナへ向けた。

ちょうどフィーナが困ったように笑っている。

周囲のざわめきで、細かな会話までは聞こえない。


だが。


カインが夏至祭へ誘ったこと。

フィーナが断らなかったこと。


それだけは分かった。


胸の奥が、妙にざらつく。理由は分からない。

ルークランは小さく視線を落とした。


*


翌日。


教室へ入ったフィーナは、すぐに違和感に気づいた。


――今日は、ルークランさんが囲まれてない。


ここ数日、休み時間になるたび女生徒たちに囲まれていたのに、今日は妙に静かだった。

代わりに、教室のあちこちでひそひそ声が飛び交っている。


「聞いた?」

「ルークラン様、リーザ様と参加するんだって。」

「えっ、やっぱり?」

「あの二人、すごくお似合いだもんね。」

「じゃあこのまま婚約するのかな……。」


フィーナは思わず窓際を見る。

ルークランの隣には、いつものようにリーザが座っていた。


白金の髪。

整った横顔。

自然に並ぶ姿。

あまりにも絵になっていた。


まるで最初からそう決まっていたみたいに。


「……そっか。」


フィーナは小さく呟く。


「やっぱり、ヴェリアス様なんだ。」


胸が少しだけ、きゅっとした。

けれど、それが何なのかは自分でもよく分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。