1-8:もしかして完全にやばいやつだと思っています? わたしのこと。
「我が一撃に屈するがいい!! ――月牙煉獄衝ッ!!」
「KABOOOOOM」
「ぎゃあああっ!! こいつ目からビーム出してきたよ赤ずきんちゃあんっ!!」
自分で考えたっぽい技名を叫びながらゴーレムに体当たりを浴びせたマロックですが、あっさりと弾かれて返り討ちにあっておりました。
「だっさ」
「うるさいなあ!! ぼくだって真剣にやってるの!!」
とてもそんなふうには見えませんでしたけども。
わたしと会話している間にもゴーレムは黄金色の腕を振りまわし、遺跡の侵入者であるマロックの排除にかかります。
全身が超導金で作られているにもかかわらず動きは俊敏で、軽めのパンチですら岩を粉砕する破壊力をもつ、まさしくパワータイプを絵に描いたようなお相手。
そのうえ目から怪光線を出して遠隔攻撃もしてくるのですから、隙がありません。
「元々この遺跡に眠っていた古代兵器かもしれませんね、そいつ。だから普通のゴーレムよりも性能がよろしいかと。王都の魔法研究所に持っていけば、さぞかし高値で……」
「ねえ、これ倒せるの!? ぼくだけで倒せるの!? やっぱり無茶じゃない!?」
マロックはうだうだと文句を言いながらも、ゴーレムの素早い動きに対応できているようでした。連続パンチやビームをかいくぐり、体当たりや牙による一撃を浴びせていきます。
しかし……どうにも効いている様子がありません。
一般的なゴーレムよりも上位の個体で、古代の謎技術によって防御力が強化されているのであれば、今のマロックにとっては格上どころか、まず勝ちめのないお相手となってしまいます。
わたしはふうと息を吐き、
「できれば魔力も温存しておきたかったのですけど、しかたありませんね。今からあなたに術をかけてあげますから、それでもうちょっとだけがんばってみてください」
「やった!! パワーアップだ!!」
そう、最強で可愛いわたしは魔法も嗜んでいるのです。
敵の防御力がクソ高い。でもティンカーベルは節約したい。
こういった状況で便利なのは、武器に精霊の力を付与する魔法でしょう。
わたしは歌うように、祈るように、古の呪文を唱えます。
「気高き銀狼よ、思うがままに踊りなさい。――吹き荒れる嵐の狂想曲」
詠唱とともに口から内なる魔力が解き放たれ、空気を伝ってマロックのもとに届きます。すると彼の身体は青白く光り輝き、その牙や爪に精霊の加護が宿ったことを示しました。
「ゴーレムは土属性の魔法で生みだされた人工生物です。なので今回は相反する風精霊のお力を借りることにいたしましょう」
「さすがは赤ずきんちゃん!! これでなんとかなるかもっ!!」
マロックが勇ましく咆哮をあげて、再びゴーレムに突っこんでいきます。
猛烈な速さで振りおろされたパンチをギリギリのところで回避すると、そのまま鋭い爪で一撃。すると風精霊の力で衝撃波が発生し、ゴーレムの右腕を吹き飛ばしてしまいました。
精霊の加護を受けた安心感からでしょうか、こころなしか動きのキレもよくなっているような。あの子は狼のわりに臆病なところがありますから、この機会に自信を得てもらえば、さらなる成長が見こめるかもしれません。
そう考えたわたしは、マロックに内緒でもうひとつ魔法を唱えることにいたします。
今度はゴーレムめがけて小声で、
(太古に作られし魂よ。永劫の渦へ還るがよい。――疫病神の抱擁)
次の瞬間、バチバチバチッとゴーレムの身体から激しい火花があがります。
ちょうど攻撃を仕掛けようと構えていたマロックが驚いて、
「うえっ!? 急にどしたのこいつっ!?」
「た、たぶん……あなたの攻撃が効いているのではないかと」
「よおし!! じゃあ次で終わらせてやるっ!!」
今こそ好機と見たマロックが、ゴーレムにとどめの一撃を放つべく勇ましく駆けていきます。わたしはその勇姿を見守りつつ、ひきつった笑みを浮かべてます。
うへえ、やっちまいましたよ。
ちょいと弱らせようくらいの感じで唱えた闇魔法が思いがけずクリーンヒット。
ゴーレムさん即死です。
つまりすでにわたしの手によって、倒されていることになるのですが……。
「うおおおおおっ!! やった!!! ぼくはやったぞ!! 成し遂げたぞ!!」
「……よ、よかったですねえ。わたしとしても嬉しいです」
「赤ずきんちゃんの力をちょっと借りちゃったけど、それでも格上の敵をやっつけることができたよ!! これが強くなるってことなんだね? 成長の喜びなんだね?」
「そうですそうです。がんばったですねーなでなでしてあげますよー」
「わあい、わあい!!」
マロックがボコボコにしたゴーレムの残骸を嬉しそうに持ってきて、つぶらな瞳をキラキラさせながらそう言うので、真実は心の中に仕舞っておくことにいたしましょう。
……さて、無邪気な相棒くんの頭をひとしきりなでたあと。
赤いずきんやオンボロマントについた銀毛を払いつつ、わたしはすっと立ちあがります。
そしてため息を吐きながら、
「うっかり魔力を使いすぎました」
「じゃあ、次からは魔法も温存しなくちゃいけないわけ?」
「……残念ながら、そういうことになりますね。属性付与や攻撃系の魔法は〈雪の女王〉の結界に通用しないでしょうけど、身体強化や防御魔法はティンカーベルで狙撃するときに必要ですから」
というより、命綱になるかもです。
道中の消耗も考慮しなければならないというのが、魔物の討伐においてもっとも冒険者の頭を悩ませるところ。
わたしは一抹の不安を覚えつつ、ゴーレムが守っていた扉を見つめます。
いちいち冒険者の相手をするのが面倒だからなのか、強大な魔物ほど手下をダンジョンの入り口に配置して、自らは奥に陣取っているものです。
ヴァンパイアのように来客を歓迎したがるタイプは稀ですから、標的である〈雪の女王〉もきっと、遺跡の深層付近にいるはずです。
なのでやはり扉の先は宝物庫。
あるいは領主の娘が囚われている部屋。
「罠が仕掛けられていたらとか、中に入るとまた魔物がいるかもとか、諸々のリスクを考慮すると、この扉は無視して先に進みたくなりますよね」
「せっかくゴーレムを倒したんだし調べてみようよ。宝物庫だったら無視しちゃってもいいけど、清楚で優しくておっぱいが大きい美少女が待っているかもしれないんだからさ」
……美少女うんぬんはどこから出てきたのやら。囚われのご令嬢だから?
とはいえ冒険者ギルドの話によると、さらわれた領主の娘はたいそう見目麗しいらしく、その美貌ゆえに〈雪の女王〉に狙われたとのことでしたので――マロックの妄想めいた期待も、あながちまちがいではなかったりするのですけど。
しかし個人的には、
「わたしより可愛かったら、それはそれでイラっとしてしまうかもしれません」
「……嫉妬して銃ぶっぱなしたりしないでよ?」
「やりませんて。完全にやばいやつじゃないですか、それ」
マロックはなおも不安げに見つめてきます。
もしかして完全にやばいやつだと思っています? わたしのこと。




