1-6:おっぱい大きかったら助けてあげたいな。
翌日。
ぐっすりと休んで英気を養ったものの、残念ながら予備の弾丸はありませんでした。
精霊銀は高価ですから、ズボラなところのある猟師さんとてロッジに置きっ放しにはしなかったのでしょう。
というわけで手持ちの弾丸は三つ。
一撃で仕留められるとはかぎらないので、無駄にはできません。
「でも代わりに便利なものが見つかってよかったですよね、マロック」
「ひい……ひい……! 今ちょっとマジ余裕ないから……」
ゆったり寝そべりながら、雪原を駆ける相棒くん背中を眺めます。
実はロッジに運搬用のそりが置いてあったので、今はマロックにそれを牽いてもらっているところ。
わたしは荷物といっしょに乗っているだけでいいのですから、これほど快適な旅はありません。防寒のために羽織っているオンボロマントの臭いだけは、我慢しなければなりませんが。
「コンパスとか地形を確認して、魔物の住処がありそうな方向を指示します。あなたはがんばってそりを牽いてください。ああ、楽ちん楽ちん」
「だから……重いんだっつの……」
「えーい」
「痛いってば!! 鞭で叩くのやめて!!」
わりと本気で嫌がっているみたいなので、お仕置き用の鞭は仕舞っておきましょう。
わたしは悪ふざけをしつつもきちんと道筋を見定めていて、
「さっき左に見えた岩が〈雪男の腕〉という目印かも。このまままっすぐ進みましょう。あと、もうちょい速度を落としても大丈夫ですよ」
「ていうかさあ、素朴な、疑問、なん、だけど」
マロックはハッハッと小刻みに息を吐きつつ、そりを牽く速度をゆるめて話しかけてきます。
なのでわたしは彼の言葉が終わるのを、じっと待つことにいたしました。
「どうして〈雪の女王〉を狩らなきゃいけないの? 理由もなしに討伐依頼って出ないものなんでしょ、確か」
「そうですね。冒険者ギルドに依頼を出したのが個人にせよ公的機関にせよ、それなりの報酬を支払うわけですから、単に魔物だからというだけで討伐されることはありません」
雪に隠れた段差があったのか、そこでマロックの牽くそりがガコンと大きく揺れ、わたしの腰が軽く宙に浮きます。
全力で走っていたら思いっきりお尻を打ちつけていたかもしれませんし、さらに速度をゆるめてもらいましょう。わたしはそう指示をだしたあと、
「特定の魔物に討伐依頼が出る主な理由は二つ。皮や鱗が最高級の防具に、あるいは肉が美味しいからといった利己的なもの。もしくは家畜や村、はたまた国を脅かすほど暴れまわるから、という害獣駆除的なもの。ちなみに先日ぶちのめしたドラゴンはその両方でした」
「あいつ何人食ったんだっけ? 五人?」
「九人です。胃袋からほかにも被害者が出てきましたので」
マロックはそりを牽きながら「調子こきすぎたんだなあ」としみじみ語ります。
あなたもわたしに拾われていなかったら、村とか襲いまくって退治されていたでしょうね。
「とはいえ今回の〈雪の女王〉は神に近い存在ですから、一国一城の領主でなければ支払えない額の報酬が要求されます。なので平民が何人か食べられたくらいだと、普通はケチって討伐依頼なんて出さないでしょう」
「うわあ、まさに人間って感じ。でも依頼が出たってことは、相当やらかしたねそいつ」
「ドラゴンに比べたらたいしたことありません。若い女性が一人さらわれただけですし」
「……え? じゃあなんで?」
「被害者が領主の娘」
「なるほどー。ぼくが野良になったら、襲う相手はちゃんと選ぶことにするよ」
あら、いけません。余計な知恵を与えてしまったかも。
ていうかわたし、彼に大切なことを言い忘れておりました。
「そういうわけですから、領主の娘を見つけたら助けてあげなくては」
「もう食べられちゃっているのでは?」
「希望を捨ててはいけません。救出できたら追加で報酬が出るらしいので」
「あくまでお金目当てなんだね。でもそういうところが好きだよ、赤ずきんちゃん」
「どういたしまして。しかし魔物をぶちのめすだけならともかく、被害者の救出となれば面倒が増えるものです。足を引っぱれられたあげく死にたくありませんし、高慢ちきな娘さんだったら迷わず見捨てましょう」
「おっぱい大きかったら助けてあげたいな。……ああ、鞭はやめてっ!」
猟師さんのようなことを言いだしたマロックにきつくお仕置きしていると、ぱらぱらと雪が舞い落ちる道の向こうに、天を突きそうなほど高い建造物が見えてきました。
あれは古代遺物であるティンカーベルと同じ時代に作られた、旧世界の遺跡です。
当時どのように使われていたのかはいまだ判明しておりませんが、冒険者ギルドで聞いたところによると、現在は魔物の住処になっているという話でした。
そう、あの遺跡の中に――今回の標的である〈雪の女王〉がいるのです。
次から毎日連載(夕方6時頃)になります!




