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2-30 あ、図鑑のイラストみたいなポーズしていますよ。

「そんなヤバいやつ、ぼくたちだけでどうにかできるの……?」

「今ならまだなんとかなるやもしれぬ。見たところ、あやつは完全な真龍となったわけではなさそうだしの。成長するための力を蓄える段階にもかかわらず、生命の危機を感じて強引に肉体を変異させたのだろう」

「不完全な進化、というわけですか。猟師さんたちが討伐した〈蒼天の暴君(シャフリヤール)〉は空を埋めつくすほどの大きさだったという話ですし、それに比べれば全然ちっちゃいですものね」

「なりそこないにしちゃ大仰な名前であるから、成体と区別する意味で〈青髭ジルドレ〉とでも名づけておくか。実は我、一度でいいから魔物に名前をつけてみたかったのだよな」


 なんて会話をしながら、ふたりは武器を構える。

 赤ずきんちゃんはようやく出番がきたティンカーベルを肩がけの状態から右手に移し、親指姫さんは巨大な大剣ドロッセルマイヤーを大きく掲げる。

 ぼくとしては正直かなり帰りたくなっていたのだけど、淑女のみなさんがこうもやる気だと今さら尻尾を巻いて逃げるわけにもいかない。

 ケンカを売る相手を選ばないのが、彼女たちの共通した流儀みたいだ。


「今は寝ているみたいですから、まずはティンカーベルでご挨拶いたしましょう。そのまま脳天をぶちぬくことができれば最高に笑えますし」

「変態クソ教師の寝床に闇討ちを仕掛けたときのことを思いだすのう。煉獄の魔女(クリムゾン・ウィッチ)と呼ばれて恐れられていた我らの手にかかれば、真龍ウィルムとて無事ではすまぬぞ。デュフフフフ!」

「……なんだかんだで今でも仲良しじゃん、君たちって」


 ぼくが横でそう呟くと、赤ずきんちゃんと親指姫さんは顔を見合わせて肩をすくめる。

 そのやりとりも戦友って感じで無駄に様になっていて、うっかりすると憧れちゃいそう。

 てなわけで戦う準備が整ったところで、赤ずきんちゃんが指示を出した。


「初撃はわたしが担当します。不完全な状態で物理遮断の結界を使えるかどうかは不明ですけど、使ってくるようなら攻撃魔法は防がれますから、メグもドロッセルマイヤーで戦ってください」

「了解した。しかしこの響剣はお前のティンカーベルのように、常になんでもぶちこわせるわけではない。必殺の一撃はひとたび発動すればしばらく使えぬゆえ、とどめをさすとき以外は弱体魔法で援護するとしよう」

「あら、いいことを聞きました。あなたと決闘するときはその弱点を狙いますね」

「ねえねえ赤ずきんちゃん、ぼくは? やっぱりまた囮役なのかな」

「マロックは持ち前の機動力を活かしてください。つまり乗り物です」

 

 なにそれ? と聞き返すよりも先に、彼女がモフモフの背中にまたがってくる。

 あ、そういうことね。

 女王との戦いでそりを牽いたときに、マロックくんの新たな活用方法を見いだしたらしい。でもこれだと騎士というよりは騎馬じゃないの、ぼく。


「さあ楽しい狩りの時間です。お願いしますね、ティンカーベル」


 赤ずきんちゃんはそう言うと、鼻歌まじりに神殺しの一撃をぶっ放した。



 ◇



 直後、すさまじい勢いで弾丸が射出され、最強の古代遺物フォークロアから膨大な力が解き放たれる。 

 視界があっというまに白一色に染まり、ぼくの目をチカチカとさせたものの、


「――ッ!」


 背中に乗った赤ずきんちゃんが、息を呑むのがわかった。

 屋根のうえを見れば巨大なドラゴンの姿はなく、まるで煙になったみたいに消え失せていた。

 だけどティンカーベルの一撃を食らって灰燼を化したわけではなさそうだ。

 状況が見えない中、親指姫さんの声が響く。


「上だ! あやつめ、直前で空間転移テレポートを使いおったぞ!!」

「な、なんですって……!?」


 ぼくと赤ずきんちゃんは慌てて、夜空を見あげる。

 月明かりがないので目をこらさないとわからないけど、かすかにサファイア色の羽毛がきらめいたように思えた。


「なりそこないでも真龍は真龍、ということかの。クソ高度な空間転移の魔法を使うということは当然、物理遮断の結界も扱えるはずだ。あるいはそれ以上の攻撃もな」

「ソニックブラストもぶっ放してきますかね……。だとしたら相当ヤバいですよ」

「なにそれ? いかにも強そうな技名だけど」

「真龍だけが扱える最強のブレスです。口内で凝縮した魔力を衝撃波にしてぶっぱなすだけの単純な攻撃なのですけど、あいつらの内なる魔力って桁が半端ないですからね。王都の城壁を一撃で粉砕する程度には威力が出てしまいます」

「あの城壁ってめちゃくちゃ広くて厚いのに……。もう無理じゃんそれ」

「ぶっちゃけ防ぐ手段もありませんからねえ。直撃しないことを祈りましょう」

「しかしまあ、さすがに使ってこないであろ。なにせ不完全な状態だからのう」


 親指姫さんはそう言ってコポコポ変な声で笑うけど、ぼくはめちゃくちゃ嫌な予感がしていた。

 高地エリアは身を隠すものがすくないし、上空にいる〈青髭〉からすれば今の位置は絶好の的。

 ひとまず距離を取って、相手の能力を把握してから攻撃に転じよう。

 なんてことをあえて言わずとも――ぼくらと親指姫さんは事前に打ち合わせでもしていたように走りだす。

 足場が悪いとはいえ、遮蔽物の多い沼地エリアで戦うのが得策だ。

 ところが、


「あ、図鑑のイラストみたいなポーズしていますよ」

 

 モフモフの背中に乗っている赤ずきんちゃんは、ぼくや親指姫さんとちがって走る必要がない。

 おかげで夜空を舞う〈青髭〉に目を向ける余裕があったらしい。

 魔物図鑑なんて一度も見たことないけど、真龍がどんなポーズを取っているかは大体のところ予想がつく。

 ドラゴンといえば、ブレスを吐く姿に決まっているじゃないか。


「ふっ……終わったな」

「終わりましたね」

「ちょっ!? 諦めるの早すぎでしょ!!」


 だけど次の瞬間――ティンカーベルをぶっぱなしたお返しとばかりに、上空のドラゴンが最強のブレスをぶっぱなしてきた。

 世界の終わりがやってきたのかと思うほどの衝撃波が後方から巻き起こり、ぼくは恐怖のあまり両目を瞑りながら、どうにかして助かろうと必死に走り続ける。


 困ったことに、あとは天に祈るくらいしかやることがなかった。

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