2-17 まあ!! なんてお優しいご主人さまですことっ!!
「貴様らにはどうせ伝わらんと思うが、この身体は恐ろしく不便なのだ。ちょっと油断しただけでフンコロガシにぐるぐると転がされたり、庭でランチしてる最中にスズメにさらわれたり、あまつさえアマガエルの妖精どもに『お前すげーブサイクやな』と侮辱されて笑われるハメになる。最後のは巣穴ごと吹っ飛ばしてやったがの」
親指姫さんは豆粒のような身体のわりに尊大な態度で、呪われてちぢんだあとの苦労を語る。自業自得とはいえ、悲惨すぎる話の数々を聞いていると不憫に思えてくる。
「というわけで元の姿に戻るべく、はるばる密林の迷宮までやってきたのだ」
「なるほど。メグは竜の血晶を採取しにきたのですね」
「ねえねえ赤ずきんちゃん、それはなんぞ?」
「中級以上のドラゴンから採取できる血液で、とくに純度の高いものをそう呼びます。様々な薬草と混ぜ合わせることで、解呪の妙薬を作れるのです」
「貴様に復讐を果たしたいところだが、それよりもまずは呪いを解くことのほうが重要だからの。そのためにわざわざ、こいつを用意してきたのだし」
と、親指姫さんはさきほどまで身につけていた、というより操縦していた黒甲冑を指さす。
見ればスカスカの内側には怪しげな紋様が刻まれていて、ただの防具としての機能だけでなく、なんらかの魔法が宿っていることがわかった。
「この〈くるみ割人形〉は着用者の魔力に反応して自在に動かすことができる、フランケン工房の魔導装甲だ。実を言うとまだ世に出ていない試作品で、本来ならもっとぎこちない動きになるのだが……そこは神童である親指姫さまが工夫して補っておる。前進するときに加速魔法を併用するのもそのひとつだな。貴様には遅れを取ったが、近接戦闘をこなすくらいなら魔力の消耗もすくないし、知能の低いドラゴン相手ならどうとでもなるぞ」
「フランケン工房の試作品……てことは相当にレアな防具ですね。わたしもちょっと欲しいかも」
便利そうな道具を見ると物欲を抑えられない赤ずきんちゃんは、羨ましそうに黒光りする甲冑を眺める。
ブツブツと「強奪……いえ、さすがにそれは……でも」と呟いているので、再び決闘の火種があがる前に、別の話題を変えたほうがよさそうな感じ。
「ちなみにぼくたちは魔物めしの食材を集めにきたんだよ。幸運の象徴とかいう〈青い鳥〉という魔物を狙っているのだけど」
「デュフフフ。貴様らはあんな信憑性に乏しい噂を信じて、こんなところまでやってきたのか。古い文献を紐解いてもほとんど情報らしい情報すらない、実在しているかしていないかもわからん魔物をよく狙う気になるものだな」
「……そうなの!? ねえねえ赤ずきんちゃん、君から聞いた話とちがうんだけど」
「最近になって目撃情報が出たのは事実ですよ。猟師さんも昔、見たことがあると」
「いずれにせよ幸運を招くとか願いを叶えるというのはガセネタじゃろ。ていうか赤ずきんよ、そんな縁起のよさそうな魔物を焼いて食うつもりなのか? バチが当たるぞ?」
「焼きません。煮る予定です」
「彼女はたぶん、そういうことを言っているわけじゃないと思うよ……」
と、そこで会話が途切れたので、ぼくはひとつ思いだしたことをたずねる。
「ていうか親指姫さん、横からくすねたランバージャックを返してくれないかな。あの魔物はぼくが食べる予定の料理に使うんだし、赤ずきんちゃんとのケンカのとばっちりで奪われるのは勘弁してほしいんだけど」
「おおう、そういえばパクった覚えがあるな。うまそうだしあとで食おうと思っていたのだ。クソずきんはともかく相棒のワンちゃんは礼儀正しいし悪いやつでもなさそうだから、ちゃんと返してやるぞ。だからご主人さまに愛想尽かしたら我のところに来い」
「はあ……。でもどっちの相棒になっても苦労しそうだしなあ……」
ぼくの返答を聞いた赤ずきんちゃんが憮然とした表情を浮かべる中――親指姫さんは再び甲冑姿になってから、横取りした獲物を返して去っていた。
彼女の姿が見えなくなったあと、赤ずきんちゃんがぽつりと、
「あいつ、ほんとにヤバいやつですよね」
「君と同じくらいかな」
「……そろそろ日が暮れますし、今日はここにキャンプを張りますか。ランバージャックも無事に手に入りましたし、夕食ついでにちょこっと味見しておきましょう。まあ!! なんてお優しいご主人さまですことっ!!」
赤ずきんちゃんはそう言って、ぼくの様子をチラチラとうかがってくる。
うわ、あからさまに好感度をあげようとしているなあ……。
思いのほか信用されていないことがわかって、ショックだったのかも。
日頃の行いって大事だよね、うん。




