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1-4:ああ、最高です。鈍器で殴るのってきもちいい。

 毛皮を着こんだ山賊のような風体ですが、人間のように見えて人間ではない――いわゆる亜人種に属する魔物でありました。

 岩のような顔に白と茶色のまだら模様が浮かんでおり、その姿は醜悪のひとこと。


 わたしはふうと息を吐き、すこし遅れて狩人の瞳になったマロックに告げます。


「この辺りに生息している〈泥雪鬼《スノウマン》〉というゴブリンの一種です。脂肪を多く含んだ分厚い体皮に覆われており、冷気に強いというだけでなく、刃物や牙もやや通りにくいとのこと」

「脂がのっていて美味しそうだね。食べちゃっていい?」

「ご自由に。ただし武器に毒が仕込まれておりますから、紫色にならぬよう気をつけて」


 その言葉を合図に二手にわかれ、泥雪鬼の迎撃に入ります。

 ざっと見た感じ、数は六体ほど。

 伏兵がいる可能性もありますが、今のところその気配は感じられません。


 豪快にぶっ放して鏖殺したいのはやまやまですが、弾薬の残りがすくないので雪の女王との戦いまで温存しておきたいところ。今回は肉弾戦といきましょう。


 そうと決まれば動きの邪魔になるので、肩に担いだ装飾銃《ティンカーベル》を雪原に放り投げます。

 雑に扱っているようですが弾は装填してありませんし、泥雪鬼に奪われることもないのでご安心あれ。

 古代遺物《フォークロア》である《《彼女》》は、所有者として認められたものにしか扱えないのです。


「ババオッ!」「ババッ!」「バババオッ!」「アバアッ!」

「わたしってば大人気ですわね。こんなに大勢からお誘いを受けるなんて」


 奇声をあげながら迫りくる四匹のこぶた。あとの二匹はマロックに任せますか。

 わたしは投げナイフを使って牽制したのち、ずきんの裏から別の暗器を取りだしました。

 それからエプロンドレスの裾をつまみ、丁寧におじぎをいたします。


「さあ、優雅にダンスを踊りましょう」


 わたしの右手から伸びるのは、折りたたみ式のフレイル。

 先端に鉄球がついており、取り回しのよさと殺傷力を兼ね備えたグッドデザイン。

 こんなものをどうやってずきんの裏に仕込んでいるの? とよく聞かれるのですが、女の子には秘密がいっぱいなのです。

 

 さて、ぶちのめしますか。


 突出してきた一匹が鉈のようなものを振りまわしてきましたので、身体をななめにして回避。最小限の動きからそのまま攻撃に移り、手首のスナップを効かせて相手の脇腹にフレイルを打ちつけます。


 骨が砕かれる心地のよい音を響かせつつ、うしろに一歩ステップ。すると相手の刃が空を斬りましたので、その隙をついて脳天に一撃をお見舞いしてあげました。


「ギャバアッ!」

「まずは一匹、ご招待」


 さきほどまではわたしの力を侮っていたのでしょう。

 先陣をきったお仲間が一瞬にして頭の中身を雪原に散らしたのを見て、泥雪鬼たちの表情が険しくなっていきます。


 接近戦というものはダンスに似ており、銃を使った戦いとは別の趣があります。

 リズムを取りながらステップを踏み、相手の呼吸に合わせて手足を動かす。

 しかしあくまでリードするのはわたし。主導権を握らせてはいけません。


 スタタ、タン、タタン。くるりくるりの、タタンタタンと踊りましょう。


「アパッ」「ぐっど」「ギョパッ」「ぐれーと」

「キョバンッ」「えくせれんとっ!!」


 くるくると回るわたしを彩るように、ピンク色の中身が雪原に踊ります。


 醜悪な魔物とて贓物はカラフルで美しく、まるで一面お花畑。

 頭蓋骨が砕かれる音が愉快なメロディを奏で、手首から伝わるじんじんという響きがわたしの心を高揚させました。


 ああ、最高です。鈍器で殴るのってきもちいい。

 自然と笑みがこぼれてきます。


「あはは! あはははは!! 生きているって感じがしませんか!?」


 泥雪鬼のみなさまに問いかけるものの、当然ながら返事はありません。

 しかし遠くでほかの二匹のお相手をしていたマロックが、こう叫びました。


「赤ずきんちゃん笑うのやめて! 本気でこわいから!!」


 なんとまあ失礼な。

 これほど愛らしい女の子が、ほかにいますでしょうか。



◇



 散らかしたあとはおかたづけ。それがお遊戯の作法です。


 泥雪鬼の頭に突き刺さった投げナイフを回収し、血のりを雪でこそぎ落としてから、油をしみこませてある布で丁寧に拭いておきます。

 ついでに彼らの武器で使えそうなものがないか調べておきましょう。

 道具を大切にするのは、よき淑女の嗜みですから。


 その作業をあらかた終わらせ、雪原に放り投げたティンカーベルを拾いあげたところで、


「――べっくし!」

「うわ、すごいくしゃみだね。そんな格好でいるからだよ」


 と、泥雪鬼の亡骸を骨ごとバリゴリかじっているマロックが笑います。


 なにせ赤いずきんにエプロンドレス。

 白のタイツこそ履いているものの、寒さ対策は万全とは言えません。

 ですか厚着をすると動きが妨げられますし、なにより、


「着ぶくれするのが嫌なのです。だってこどもっぽく見えるでしょう」

「今さら……?」


 どういう意味ですか。返答によってはぶん殴りますわよ。


 しかし雪原のクソ寒さは、気合いでどうにかなる範囲を軽く超えておりました。

 オシャレで凍死したら笑えませんから、早めに上着を手に入れるべきでしょう。


 わたしは鼻水をすすりつつ、マロックにこう言いました。


「猟師さんが若いころに使っていたというロッジが、この先にあります。結界がはられていて普段は見えませんが、合い言葉を教えてもらっていますので」

「じゃあそこで一旦、休むわけだね」

「ええ。たぶんそこに彼のコートがあるはずです。……もしかしたら弾丸の予備も」


 わたしはそう言って、肩にかけたティンカーベルの位置を直します。

 すると銃身に装飾された妖精《フェイ》の彫刻が、嬉しそうに笑い声をあげた気がいたしました。

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