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2-6 今、いやらしい目で見ていませんでした?

 うっそうと茂る樹木をかきわけて先に進んでいくと、やがて視界がぱあっと開き、翡翠色に澄んだ水面がぼくらを迎え入れてくれた。

 赤ずきんちゃんは以前にもこの密林の迷宮を探索したことがあるようで、


「わたしの記憶力もバカにできませんね。地図もなしにこうも簡単に湖にたどりつけるとは思っていませんでした。ざっと見たところ魔物の気配はしませんし、ぐちょぐちょの身体を清めることにいたしましょう」

「わあい! ようやくこの生臭い匂いともおさらばだっ!」


 というわけで仲良く湖の中にダイブ。赤ずきんはねばねばする粘液を、ぼくはギガントードがぶちまけた中身をきれいに水で流して、しばし沐浴を楽しむことにする。


「はあー! さっぱりしますわね! ずきんとエプロンドレス、それからザックについた粘液も洗い落としましたし、中の食材やらスパイスも瓶に入れておいたおかげで無事でした。ティンカーベルや刃物のたぐいは十分に乾かしたあと、油をしみこませた布で拭いておけば大丈夫でしょう。やれやれ……荷物が多いとお手入れが大変ですこと」

「赤ずきんちゃんはただの粘液だったからいいけど、ぼくはえぐい中身をもろに浴びたからなあ。水で流したのにまだ匂いがこびりついている気がするよ」

「あらら、じゃあ離れていてもらえます? えーい」


 そう言って赤ずきんちゃん、クスクスと笑いながら水を引っかけてくる。

 ぼくも口では「やめてよお」とか「お返しだあ」とか言いながら水を引っかけ返すのだけど、実際のところは幸せすぎて天に召されてしまいそうだった。


 うーん……最近はあまり見る機会がなかったのだけど、生まれたままの姿の赤ずきんちゃんはやっぱりきれいなんだよね。

 肌はつるつるのすべすべ、金色の髪は日光を浴びて虹色に輝いているし、額に生えた《《あれ》》も彼女の魅力を損なわせるどころか、魔物であるぼくからするとチャームポイントのひとつのようにも見えてくる。

 本人も気にしているように胸元こそさびしいものの、常日頃から鍛えているだけあって背中から腰にかけてのラインはもはや一級の美術品。

 王都の神殿に飾られている女神像ですら、裸足で逃げだしそうなほどの完成度だ。

    

「……今、いやらしい目で見ていませんでした?」

「そんなことないよ、ぼく狼だし。素直にきれいだなあとは思うけど」

「ふーん、そうですか」


 たまに興奮して本音をぽろりと出してしまうせいか、赤ずきんちゃんはぼくに疑わしげな視線をそそいでくる。

 出発前の会話から無邪気などーぶつを演じていたほうが警戒されないことがわかってきたので、ほとぼりが冷めるまではえっちなことに興味がないふりを続けよう。

 そんなふうにして大自然の中での優雅な沐浴を満喫したのち、ぼくは水面をぷかぷかと浮かんでいる赤ずきんちゃんにたずねる。


「ねえねえ、やっぱりぼくも魔法が使えるようになったほうがいいんじゃないかな」

「急にどうしたのですか。いずれは教えるつもりではありますけど、銀狼は体力や敏捷性に優れた魔物ですから、まずは恵まれた身体能力を活かすすべを学びなさい。……ってこれ、相棒にすると決めたときに言いませんでしたっけ?」

「それはちゃんと覚えているよ。でも〈雪の女王(スノウ・ホワイト)〉と戦ったときもそうだったし、さっきのギガントード戦でも思ったんだけど、物理攻撃が効きにくい相手だと決め手に欠けるんだよね、今のぼく」

「そりゃ単に未熟なだけでしょう。力が足りないからといってすぐにほかのものに目移りしていると、結局は中途半端な強さしか手に入れられませんよ」


 ぴしゃりと厳しい言葉をかけられて、自分の弱さを気にしていたぼくは泣きべそをかいてしまう。

 慌てて湖の中に顔を沈めてごまかそうとしたのだけど、彼女はきっとそれもお見通しのはずだ。

 だって急にすごく優しい声で、こう言ってきたのだから。


「でもまあ、ちょっとくらいなら教えてあげようかしら。身体能力に優れているからといって肉弾戦に特化していくのが最良とはかぎりませんし、もしかするとマロックにすごい魔法の才能があるかもしれませんもの」

「アハハ。じゃあすぐに赤ずきんちゃんの腕を超えちゃおっかな」

 

 ぼくが調子にのってそう返すと、彼女はさっそく魔法で湖の水を操って攻撃してくる。

 猛烈な速さで飛んできた水球が顔面に直撃して、あわやそのまま溺れそうになってしまった。


「……げほっ! げほげほっ! あのさあ、君は加減というものを覚えたほうがいいと思うよっ!! その点についてだけは間違いなくぼくのほうが上だねっ!!」

「あらごめんあそばせ。生意気な口を聞かれたものでつい」  


 赤ずきんちゃんはコロコロと笑ったあと、会話を仕切り直すようにコホンと咳払いをする。

 そして水面にぷかぷかと漂うのをやめて立ちあがると、素っ裸のまま講釈をはじめた。

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