2-5 えんがちょ……。ひどいめにあいましたわ……
『――ゲロゲロゲロッ!!』
騎兵のごとき勇ましさで駆けだしたぼくを見て、迎え撃つギガントードは全身をぶるぶると鳴動させる。そして真っ向から攻撃を受け止めようと、背中を丸めて防御の構えを取った。
イボイボの生えた表皮はぬめぬめと怪しいきらめきを放ち、ぶ厚い脂肪に包まれた身体は堅牢な肉壁となって目の前に立ちふさがる。
おかげで助走をつけた突進攻撃はぼよんと弾かれ、ぼくは衝撃の反動で宙を舞う。
やはり打撃は通用しない。
でも――。
「それは狙いどおりなのさっ!! 君の弾力を利用させてもらうよっ!!」
『ゲロッ!?』
ぼくは空中でくるりと反転、手近にあった木のうえに着地する。
細い幹がギガントードに弾かれた反動を受け止めて、ミシミシと軋むような音を立てて大きくしなる。そして木製のバネのように、ぼくの身体を勢いよく弾き返した。
気分は王都に行ったときに見た大型の弩砲だ。雷火のごとき速さで射出されたぼくは、両前足の爪を垂直に立ててギガントードに突っこんでいく。
『――ゲッロオオオオオオッ!!』
「やった!! どうにか攻撃が通用したぞ!! あとはこれで……でええ!?」
困ったことにギガントード、わずかの間だけ悶絶していたものの、すぐに何事もなかったようにぷるぷると身体を振るわせる。
そのうえ地面に着地したぼくをじっと見つめたあと、まるで「ん? これで終わりかい?」とでも言うように一声、ゲコッと鳴いた。
「くそ、ふざけやがって……っ! でも負けないぞ、赤ずきんちゃんを助けるんだから」
『ゲロゲロゲロ、グワッグワッグワ』
ぼくは狼だしカエルの言葉はわからないけど、なんとなくバカにされているような気がする。
さて、どうしよう。困ったことに倒す方法がまったく思いつかないぞ。
ところがそう思った直後、ギガントードに異変が起こる。
再び身体を小刻みに震わせると、みるみるうちにお腹が数倍以上にふくれあがったんだ。
まさか……特殊攻撃!?
ぼくはとっさに身構えるものの、次の瞬間、
『――ギェロオオオオオオオオッ!?』
ずぱああんと大きな音を立てて、ギガントードは四散した。
破裂した腹からぐちょぐちょした中身が盛大に飛び散り、唖然とするぼくの全身にグロテスクな雨あられとなって降りそそぐ。
そして得体の知れない小さな影が血煙の中から現れて、
「えんがちょ……。ひどいめにあいましたわ……」
「赤ずきんちゃん!? 無事だったの!?」
なんと彼女、巨大なカエルの腹から自力で出てきちゃった。
消化液で全身ぬるぬるのぐちょぐちょ、見るからにひどい姿をしているものの傷ひとつなく、目を丸くするぼくにしかめっ面を向けて、
「爆裂魔法。中から」
「なるほど……。実にえげつない攻撃だね……」
「あーもう、ほんと最悪。どうせ出てきやしないと思って油断してましたわ。おかげでこのようにみじめな有様になってしまいました。ええと、あなたも」
赤ずきんちゃんはそう言って、クソでかキモガエルの肉片ジャムを盛大に浴びたぼくを見て眉をひそめる。
お願いですから近寄らないでくださいね、とでも言いたげな表情だ。
「だけど無事でよかったよ。もうダメかと思ったし」
「ま、今のあなたでは勝ちめは薄かったでしょうからね。しかし見たところ逃げずに戦ってくれたみたいですし、その勇気だけは称えてあげます」
「うーん、やっぱりもっと強くならないといけないよなあ」
お互い全身ぐちょぐちょ。そのうえぼくはギガントードにまったく歯が立たなかったし、生臭いしばっちいしでまさに最悪の気分。
冒険がはじまったばかりだってのに早くも自分の無力さを自覚して、尻尾を地面に垂らしてうなだれていると、赤ずきんちゃんはため息を吐いてこう言った。
「さすがに不衛生ですし、どこかで沐浴でもしようかしら」
「えっ!? それってぼくもっ!?」
「……当たり前でしょうに。まさかあなた、ずっと今の有様でいるつもりですか?」
「いやだって、最近はいっしょにお風呂もいやがるし、そばにいていいのかなあと」
「でも沐浴しているときに魔物と出くわす危険もありますし、やはりマロックの護衛は欲しいところ。恥ずかしくないと言えば嘘になりますけど、今回ばかりは我慢します」
「そ、そっか。じゃあ今度こそ、赤ずきんちゃんを守ってみせるねっ!」
思いがけずめぐってきた超ラッキーな展開に、興奮してパタパタと尻尾を振る。
そして周囲に飛び散ったミートパイの中身を見つめると、ぼくは心の中で黙祷した。
ギガントードさん。君は存在価値のないゴミ以下の魔物なんかじゃないさ。
だってほら、おかげで最高のご褒美がもらえたよ……。




