2-4 一点突破の攻撃を仕掛けるしかないっ!!
「これから向かうのはネバー・ネバーでも屈指の魔物群生地帯。多種多様な植物が生い茂る密林の迷宮です。メインで狙う獲物こそ脅威になりえませんが、同じ生息域にほかの強力な魔物が潜んでいますから、一瞬の油断であっという間に冥府に引き込まれてしまいます。女王討伐のときにも語りましたけど、目当ての魔物と戦うまでの道のりで死亡する冒険者は決して少なくないのですから」
「そだね。前回はぼくの不注意でピンチになったことがあったし、せめて赤ずきんちゃんの足を引っぱらないように心がけるよ。ちなみにどんな魔物が危ないわけ?」
「うーん……密林の迷宮はこの前の雪原以上に広大で、とにかく魔物の数が多いですからねえ。エリアごとによって注意すべき相手が変わりますから、まずは最初に足を運ぶ低地エリアから例をあげるなら、主に爬虫類系の魔物が脅威となります」
「バジリスクとかリザードマンとか? あと低級のドラゴンかな。羽が生えていないタイプで、ワニみたいにのそのそと地面を歩いてくるやつ」
思いつくかぎりの名前をあげると、赤ずきんちゃんはにっこりとうなずく。
旅をするたびに彼女から冒険の知識を教えてもらっているから、最近ではぼくもだいぶ魔物について詳しくなってきている気がするよ。
「中でもバジリスクは石化毒があるから厄介ですし、普段なら余裕でぶちのめせる低級のドラゴンとて、不意打ちを食らった場合は脅威となりえるかも。ですが……低地エリアでもっとも厄介な魔物は、なんとカエルさんです」
「え? ゲロゲロ? ヘビとかトカゲとかドラゴンより強いの?」
「ギガントードと言いまして、ドラゴンを丸呑みしてしまうほど巨大なやつ」
「うわ、超キモそう。ぼくカエルって苦手」
「確かにブツブツでぬるぬるでぶっさいくではありますが、よおく見るとけっこう愛嬌のあるお顔をしていますけどね。といってもギガントードは生息数が少ないレアものですから、滅多に出会うことはないはず」
「じゃあ倒すといいことある? レアものだし」
「いえ、お肉はマズくて骨や皮もなにかの素材に使えることもないわりに、無駄に強いから襲われた時点で最悪なだけです。マジ存在価値のないゴミ以下の魔物」
「愛嬌があるって言ってたわりにボロクソに言うなあ……。ギガントードだって赤ずきんちゃんのために生きているわけじゃないだろうに」
「いずれにせよ道を歩いていたら鳥の糞が頭に降ってくるくらいの確率でしか遭遇しませんから、やはりバジリスクとか低級のドラゴンのほうを警戒しときましょう。もし出会ったら悪い意味で引きが強いことになりますよ、わたしたち」
赤ずきんちゃんはそう言ってアハハと笑うけど、その時点でなんとなく嫌な予感がしたんだよね。
だっていつも悪い意味で引きが強いじゃん、ぼくたち。
で、そんな話をした数分後。
いよいよ低地エリアに足を踏みいれたぞってところで、案の定ギガントードに出くわした赤ずきんちゃんがあっさりと食べられちゃったわけ。
「でえええええっ!? ちょっ!? どゆことおっ!?」
とっさに状況が理解できなくて、ぼくは間抜けな声を出してしまう。
地面に潜っていたのか土煙をぶわっとまき散らしながら巨大なカエルが飛びだして、背後から赤ずきんちゃんの小さな身体をぱっくんちょ。
おかげで彼女、悲鳴をあげる間もなく丸呑みにされちゃった。
あまりのことに呆然とする中、ぼくの身体と同じくらいあるかな?ってサイズの顔がゲロゲロっと鳴いたあと、つぶらな瞳でこちらをじっと見つめてくる。
……やばい。まだ物足りねえなって雰囲気を出してるや、こいつ。
『ゲロゲロゲロゲロッ!!!!』
「ぎゃああ!! こっちにきたきたきたっ!! なんとかしてよ赤ずきんちゃん!!」
あ、ダメだ。彼女はすでに食べられちゃったのだし。
ドラゴンより巨大なギガントードに追いかけられて、ぼくはひいひいと逃げまどいながら、必死に頭を整理しようとする。
なにせ今いる場所は野生植物の楽園、密林の迷宮だ。
狼のくせに自然の環境に慣れていないものだから、生い茂る草木をかきわけて走るだけでも一苦労。
そのうえギガントードは見ためのわりに俊敏で、王都式の戦車みたいな体躯を活かして木々をなぎ倒しつつ迫ってくる。
油断するとすぐにでも追いつかれてしまいそうだ。
「――いや、そうじゃなくて!! 赤ずきんちゃんを助けないとっ!!」
自分よりでかい魔物だからって、泣きべそかいて逃げている場合じゃない。
こういうところ、こういうところがぼくはダメ。
食べられたといってもまだ丸呑みにされただけだし、赤ずきんちゃんは異常なほどたくましいから絶対に生きているはず。
とにかく急いでこいつをぶっ倒せば、きっと助けられるはずなんだ。
そのことにハッと気づいたぼくはきびすを返し、見上げてしまうほど巨大なカエルの魔物と対峙する。
すると相手も殺気を感じたのか、一度ぶるっと身体を振るわせた。
「待っててね!! ぼく、がんばるから!!」
『ゲロゲロゲロッ!!』
ぼくは勇ましく声をあげると、草木の茂る地面を踏みしめ勢いよくジャンプ。そのまま空中でくるりと回転、後ろ足で蹴りの一撃をお見舞いする。
ところがまったく手応えはなく、イボイボの表皮につるんと弾かれてしまった。
「――うわ!? 岩みたいな感じかと思ったら柔らかいし、ぬめぬめしてすべるっ!?」
『ゲコッ!』
ギガントードの身体の意外な感触に戸惑っていると、お返しとばかりに長い舌が飛んでくる。丸太で横殴りにするような強烈な打撃をもろに食らって、ぼくは後方に吹っ飛んだ。
「げふっ……! ほんとに最悪だこいつ……。なまじ弾力があって衝撃を吸収するぶん、固い鱗に包まれたドラゴンより厄介かもしれないぞ……」
おまけにぬめぬめとした粘液に包まれていて表面がすべるから、爪や牙で切り裂くことも難しそう。
見た感じ炎系統の魔法に弱そうだけど、困ったことに赤ずきんは相手の胃袋の中。ぼくはまだ魔法が使えないから、打撃と斬撃に効果がない以上、残された手段は刺突しかない。
相手は例によって格上、しかも相性だって悪い。
だけど早く倒さないと赤ずきんちゃんがでろでろに溶かされちゃうし、いちいち怖じ気づいてなんていられない。
覚悟を決めたぼくはギガントードめがけて猛進をする。
こうなったら後先のことなんて考えずに、一点突破の攻撃を仕掛けるしかないっ!!
「うおおおおおおおっ!! 見てろよクソでかキモガエル!! お前が存在価値のないゴミ以下の魔物だってことを今から教えてやるっ!!」




