2-3 さすがに赤ずきんちゃん並にヤバいやつなんていないはず
翌日。バタバタと荷造りをすませたぼくらは、いざ新たな冒険に出発。
前回の討伐依頼で足を運んだ雪原とはほぼ逆方向、南東めざして歩きだす赤ずきんちゃん。
ぼくはその小さな背中に、いくつか気になっていたことをたずねてみる。
「昨日の話を聞いた感じだと、今回もかなり危険な旅になるんだよね? やっぱり料理の食材になるのが厄介な魔物なの?」
「獲物はメインでないものも含めてすべて魔物ですけど、さほど強大な相手はいません。生息数がかぎられているため希少だとか、警戒心が強いため見つけにくいとか、特殊な手段を用いないと手に入れられないとか……まあそんな感じでどいつもこいつも捕獲するのが難しいですから、どちらかというと根気の勝負になります」
「なるほど納得。じゃあティンカーベルを肩に担いでいないのもそれが理由なのかな」
ぼくがそう指摘すると、赤ずきんちゃんはこっくりとうなずきながら、肩にかけた大ぶりのザックの位置をよいしょっと直す。
ポケットやら紐やらがたくさんついた登山用の丈夫そうなやつで、どういうわけか彼女、最大の切り札である古代遺物をその中に仕舞っているんだよね。
「正確に言うなら理由のひとつ、といったところでしょう。ターゲットの魔物はすべて小型の種族ですから、鉛玉を盛大にぶっぱなすとオーバーキルになってしまいます。今回は討伐ではなく食材にするのが目的ですし、原型をとどめないほどぐちゃぐちゃにしてしまうとハンバーグしか作れませんから」
「でも道中でターゲット以外の魔物に襲われることもあるだろうし、もしものときのためにティンカーベルは担いでいたほうが安全じゃない? これを言うともしかしたら怒るかもしれないけど、あの銃があるのとなしで赤ずきんちゃんの強さはだいぶ変わるでしょ」
「まあ、事実ですから認めましょう。彼女を使わないときのわたしは最強の冒険者ではなく、いいとこ超一流の冒険者くらいにまで戦闘力が下がりますもの」
赤ずきんちゃんのザックは見るからにパンパンで、ずきんの裏やエプロンドレスに異常な数の暗器を仕込む収納スキルの高さを考えると、限界まで荷物が詰まっていそうな感じ。
彼女はザックをこちらに向けながら、
「ごらんのとおり現地調達できない食材やらスパイスやらを大量に持ってきていて重量過多なので、平時は携帯性に優れた武器を用いることにいたしましたの」
「あー、だからミスリル銀製のロッドとバックラーって組み合わせなのかあ」
「高価なだけあって軽いですから。威力や耐久性だって申し分ないですし」
赤ずきんちゃんは説明しつつ、腰にかけていた小ぶりのロッドをぶんぶんと振ってみせる。
鈍器の扱いも達者なのは知っているし、わざわざぼくの鼻先ギリギリのところを狙わなくていいから。
ていうか今ちょっと当たったんだけど。危ないなあ。
「それともうひとつ。前回の戦いで弾丸を使い切ってしまいましたので、王都にいる錬金術師さん宛に手紙を送って発注したのですけど……錬成が間に合わなかったらしくて五発ぶんしか送られてこなかったのですよね。前回よりも多いとはいえ心もとないですし、もしものときのために温存しておこうかと」
「いっぱい届くまで待つ、という選択肢はなかったの? 別に急ぐ旅でもなし」
「ところがそうもいかないのですよ。実はメインで狙う魔物はとにかく希少で、最近になって数十年ぶりに目撃情報が出たため、ほかの冒険者も血眼になって探しているる可能性があるのです」
「つまり……ウカウカしていると先に狩られちゃうと」
「ご名答。なので注意してください。今回の冒険では魔物だけではなく、競合相手である冒険者たちとも戦うことになりかねませんから」
赤ずきんちゃんはそう言ったあと、ふっと遠くを見つめてこう言った。
「ぶっちゃけヘタなドラゴンより、よっぽど厄介だったりしますからね、冒険者。命を賭けて魔物と戦おうなんて考えるようなやつ、基本的に頭がどうかしていますもの」
「うーん、君が言うと無駄に説得力があるなあ……」
と呟いてみるものの、さすがに赤ずきんちゃん並にヤバいやつなんていないはず。
こんなに凶暴な生きものが何人もいたら世界が滅ぶよ、まったく。
ぼくはため息を吐いたあと、軽やかにステップを踏んで再び歩きだす赤ずきんちゃんの背中に、やんちゃなお姫さまに仕える従者のごとく静かな足取りでついていく。
◇
これはネタバレになっちゃうけど……旅の途中で出くわすんだよね。
赤ずきんちゃんと同じかそれ以上にヤバい冒険者。




