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1-2:おバカさんね。盛大にぶっ放したほうが楽しいじゃない。

 さくっとドラゴンをお肉に変えましたので、相棒のマロックを従えて町に戻ることにいたします。

 白いエプロンドレスに身を包んだ美少女が、赤いずきんから伸びる金髪おさげを揺らしつつ、巨大なドラゴンの角を抱えて歩いているのですから、誰もがその愛らしくも勇ましい姿に見惚れてしまうことでしょう。


「ごきげんだね、赤ずきんちゃん。ステップなんて踏んじゃってさ」

「やっぱり大物に鉛玉をぶっ放すのは最高です。喉の火焔袋に引火して、ばああんっと華々しく散っていく姿も壮観でした。ああ素晴らしきかな、冒険者っ!」

「でもお肉はイマイチだったね。あれなら山蛇を食べたほうがまだマシだよ」

 

 ドラゴンといっても飛竜ですからね。最上位の真龍ウィルムになるとまた変わるかもしれませんが、飛竜の肉は固いうえに臭みが強く、お世辞にもおいしいとはいえないものでした。


「とはいえ竜族のお肉は内なる魔力マナを育てる効果があります。一人前の銀狼になりたいならやはり食べておくべきですよ、マロック」


 すると従順な相棒くんは、返事のかわりに「わん」と鳴きました。

 拾ったときは犬のようにちいさくかったのに、今やその身体はわたしの三倍ほど。

 魔物って成長が早いんですよねえ。強くなってくださるのはありがたいのだけど、かわりにどんどん可愛くなくなってしまうのが残念に思えます。


「そうだ。町に着いたらわたしに話しかけないでくださいね」

「魔物ってばれるとめんどくさいからだっけ。狼ってだけでもだいぶ怖がられるし、おとなしくしてるよ。ていうか赤ずきんちゃんのほうがよっぽどヤバイのに不思議」

「……どういう意味?」

「ええと、ヤバイくらい可愛いってことさ」


 マロックは尻尾をふりふりしながら近寄ってきて、わたしのご機嫌をとろうとします。スラムの悪ガキみたいに生意気なところも、実はけっこう気にいっていたりします。

 そうやって話をしながら草原を歩いていると、やがて赤レンガづくりの道が見えてきました。もうすぐ町に着くということです。


「さてさて、やることはいっぱいあります。とにかくまた魔物退治の依頼を受けて日銭を稼がないといけませんし」

「……ドラゴンぶっ殺したんだし儲かったんじゃないの? 解体しにきてもらった職人ギルドの人が、飛竜はお肉だけじゃなくて皮や骨も最高級だって、ウハウハ笑ってたじゃん」

「倒したのわたしですから卸値の三割ほど懐に入ります。加えて依頼達成の報奨金もありますから、合わせればかなりの額になるでしょう」

「じゃあなんで、すぐにまた稼がないといけないの?」


 わたしは肩に担いでいる装飾銃ティンカーベルを傾けて、マロックにお見せいたします。

 この銃は恩人であり師でもある猟師さんから譲り受けたものでありまして、由緒正しき古代遺物フォークロア

 前の持ち主にならって『鉛玉』と呼んでいるもの、その弾丸は精霊銀ハルモニウムで作られた特注品です。王都にいる腕利きの錬金術師さんに精製してもらわなければ手に入りません。


「ぼかすか撃ちましたからねえ。経費を考えるとギリ黒字といったところ」

「ええ……ぶっちゃけ余裕だったじゃん。弾代を節約しようとか考えなかったの?」

「おバカさんね。盛大にぶっ放したほうが楽しいじゃない」


 するとマロックは呆れたようにふんと鼻息を吐きました。

 本当にどんどん可愛くなくなってきますわね、あなた。




 

 町に着いたわたしたちは、とりあえずドラゴン退治の報告に向かいます。

 偉業を成し遂げた勇者を道ゆく人々も歓迎してくれるかと思いきや……巨大な乳白色の角を抱えて歩くわたしを目にしても、彼らはヒソヒソとなにごとか囁きあいつつ、野鼠のようにさっと通りすぎていくのです。

 思っていた反応とちがいます。赤ずきんちゃんを称える賛美歌とかありませんの。

 すると隣のマロックが小声で、


(……怯えてるんじゃない? 君みたいな女の子がさくっとドラゴン狩ってきたら、得体が知れないバケモノみたいでかなり怖いと思うよ) 


 またまたご冗談を。そんなふざけた話があってたまるもんですか。

 わたしは愛らしく小首をかしげつつも、冒険者ギルドのカウンターに足を運びます。そして受付のおじさまの前にどんと、ドラゴンの角を置いてみせました。


「お、おい……。本当にお前だけで狩っちまったのか?」

「わたしだけではなく、この子も手伝ってくれましたよ」


 その言葉に反応して、隣のマロックが得意げにわんと吠えます。

 受付のおじさまはこちらを見て、しばらく頭を抱えて考えこんでおりました。

 目の前に角という立派な証拠があるにもかかわらず、わたしたちがドラゴンを退治した事実をいまだ受けいれていないご様子。


「うーん。しかし、こんなちっちゃなお嬢ちゃんがなあ」

「信じられないから報酬はなしで、なんて言うおつもりではありませんよね? 職人ギルドに問い合わせれば裏は取れますし、お約束を反故にするのであれば、こちらとしても態度を改めなくてはなりません」


 わたしはそう言って銃を構えます。

 さすがに受付のおじさまも慌てたようでした。

 

「ま、待ってくれ! 落ちついて話をしようぜ!」 

「容姿でナメられるのだけは我慢ならないのです。別にちっちゃくないですよね、わたし。どこからどう見てもナイスバディですよね」

「……冗談だよな? それともお嬢ちゃん、鏡を見たことがねえのか」


 銃口を向けられているのにそう呟いた勇気あるおじさまは、わたしの殺気に気づいて「しまった!」というように口を押さえます。


 しかし残念ながらあなたの命運は尽きました。

 天の神さまによろしくお伝えください。


 わたしはまっかなお花を咲かせるべく引き金に指を当て――たところでうしろからぺちんと頭をはたかれてしまいました。


「あぺっ!」

「……なにやってんのお前。いくらなんでも手が早すぎるだろ」


 誰っ!! ぶっ殺しますわよ!!

 怒りのあまり頬をふくらませて背後を見ますと、そこには見知った男性が立っておりました。わたしと同じ金髪碧眼――ただし枯れ木のように老いた冒険者。


「げ、猟師さん」

「師匠と呼べよ言っているだろう、ウエンディ」


 かれこれ半年ぶりでしょうか。今となってはこの世界で唯一、わたしのことを本名で呼ぶお方。猟師さんは呆れたようなお顔でこう言いました。


「このあたりは辺境の辺境だ。赤ずきんちゃんなんてふざけた名前の冒険者なんざ誰も知らねえし、そりゃ簡単には信じてもらえねえよ。俺と組むのをやめて独り立ちする道を選んだのはお前だ。そんなら一から信用つくっていけや。……こいつとな」

 

 と言ってマロックを指さします。

 ええ、そうですとも。猟師さんの言うことはごもっとも。

 これは自分で選んだ道なのです。しかし――。


「わたしはちっちゃくないです」

「そこかよ。ほんとに成長しねえな、お前」


 反論できずぷるぷる震えるわたし。もちろん落ちこんでいるわけではなく怒っています。

 すると猟師さんは、毒気を抜かれたようなお顔でこちらを見ている受付のおじさまにこう言いました。 


「と、いうわけでだ。一応こいつは俺の弟子にあたる。自慢するつもりはないが名前くらいなら知っているんじゃないか? 今、君の前に立っている男こそカスパールだ」

「……な、なんと! ではあなたが伝説の――」


 異形の契約者カスパール。

 今より百年前、天上より召喚されし幼き七人の勇者とともに闇の軍勢を打ち破った魔狩人。このネバー・ネバーがいかに広くとも、その名を知らぬものはいないはず。


 圧倒的な知名度、あるいはその身から漂うオーラの差でしょうか。

 受付のおじさまは猟師さんの言葉をあっさり信じたようでした。

 おかげでわたしに対する態度も改まりますが、なんとなく釈然としないものがあります。

 そんなにちがいますかね、師と弟子で。


「依頼を受けてこの町に立ち寄ったところ、不出来な弟子の背中を見かけたものでね。こいつは道ばたで馬の糞つっついてケタケタ笑ってるガキんちょにしか見えないが、しばらく俺とコンビを組んでいたくらいには一人前の冒険者だよ」

「はあ。人は見かけによらないものですなあ」

「ご、誤解ですっ! わたし、うんこで遊んだりなんてしませんっ!」

「そうだったな。馬ではなく牛の糞だったかもしれん。師として甘やかすつもりはないのだが……独り立ちしたものの容姿のせいか行く先々で過小評価され、可哀想なことに性根がねじ曲がってしまった。昔は素直で可愛かったのになあ」

「い・ま・も! か・わ・い・い・で・す!」


 隣のマロックがくしゃみをするように、けふ、けふ、と変な鳴き声をあげています。

 笑いをかみ殺しているようですから、あとでお仕置きしなければ。

 それはさておき、猟師さんはわたしにこう提案しました。


「お前らだけでドラゴンを退治した、というのが信じてもらえないのであれば、もう一回くらい大物を退治してやればいいじゃないか。さすがに二度目となれば先方も納得するほかないだろう。……ちょうど俺が受ける予定だった依頼があるし」

「さては猟師さん、わたしに丸投げして楽しようとか考えていません?」

「気のせいだろ。紹介料は報酬の二割でいいぞ」


 うわあ、最悪。

 何もせずに弟子から金を取る気だこの人。


 すると受付のおじさまは、慌てて奥の事務所に引っこんでいきます。

 猟師さんが受ける予定だった依頼の内容を確認しにいったのでしょう。

 再び戻ってきたと思ったら、今度はなんとも複雑そうな顔で、


「いやあ、やめといたほうがいいと思いますがね。カスパール様ならばともかく……仮にお嬢ちゃんが腕利きだとしても、この依頼はこなすのは無理だと思いますよ」

「問題ない。こいつはレベル99まで鍛えてやった」


 猟師さまはそう言って、わたしの頭をぽんと叩きました。

 受付のおじさまは、きょとんとしたお顔でこちらを見つめます。

 隣を見ればマロックも、似たような様子で首をかしげています。


 レベル99ってどういう意味? とたずねたいのでしょう。

 だからわたしは猟師さまにかわって、彼らに教えてあげました。


「天上から召還されし勇者たちの故郷――つまりネバー・ネバーとは別の世界の言葉で『ものすごく強い』って意味らしいですよ。ね、猟師さん」

「うむ。だから〈雪の女王(スノウ・ホワイト)〉くらい倒せるだろ、ウエンディ?」


 簡単に言っていますけど、それってドラゴンどころか神の領域に片足つっこんでるような魔物だった気がします。


 でもまあ……やれと言われたのなら、やってやろうではありませんか。    

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