1-19:赤ずきんちゃん――いざ、突撃ですっ!!
「やってやる!! ぼくはやってやるぞ!! ご褒美をゲットするんだあああ!!」
「バカバカバカ、無闇に突っこみすぎです!! ああ、暴走しちゃって……」
急に目の色を変えて戦いはじめたマロックを見ていると、頭が痛くなってきます。しかし決死の覚悟で女王に立ち向かう相棒くんを援護するべく、わたしは呪文を唱えました。
祈るように、歌うように。おバカでスケベな狼に愛をこめて。
「風神のごとく駆け、雷神のごとく轟きなさい。――|吹きすさぶ雷雲の行進曲」
「きたきたきた!! どんどん身体が軽くなっていくよ!!」
「それではもう一曲。慈愛の腕に抱かれて踊れ。――星女神の交響曲」
「まさかの重ねがけ!? これでぼくは無敵だね!!」
身体強化と再生能力付与。これだけ強化すれば、女王と渡りあえるでしょう。
まばゆい光を浴びて魔力の加護を得た銀狼は、さきほどまでの気弱な姿はどこへやら、迫りくる触手の群れを次々となぎ払っていきます。
一方、連続で魔法を唱えたわたしの消耗は並大抵のものではなく、できることなら座って休んでいたいところでした。
しかしさすがにこの状況で、気を抜くわけにはまいりません。
こうしている今もうごめく触手は次々と再生し、わたしの身体を突き破ろうと鋭い先端を伸ばしているのですから。
乱戦の気配が漂う中、祭壇のうえに立つ女王はわたしたちを見下ろして、
『賑やかに踊るお前たちの姿は、なかなか飽きがこないものだ。できればもうすこし、華があるとよいのだが』
「あら、ごめんあそばせ。でしたらわたしが女王さまを地べたに這いつくばらせて、広間の床にまっかなお花を咲かせてあげますわ」
『フフフフ……。自分の身体でやってみるといい。さぞかし愉快な余興となるであろう』
女王はそう言ったあと、再び魔力の気配を感じさせ、空中に幾重もの氷の刃を生みだしました。
わたしは慌てて円月輪を投げて触手の群れをなぎ払い、ずきんの裏から二振りのナイフを取りだします。そして両手に構えた直後――氷の刃が矢のように飛来。
「あっぶな……また魔法ですか!! あなたも懲りない方ですわね!!」
あわや命中というところで弾き飛ばし、思わず悪態をついてしまうわたし。
しかし女王は無言で一瞥したあと、マロックに視線を移します。
こちらに気を取られている間に怒濤の勢いで迫ってきた巨大な狼を、より脅威に感じたのでしょう。
となれば次は間違いなく、彼を攻撃するはずでした。
しかしそれは、わたしたちの狙いどおり。
銀狼は元々生命力が高い種族ですし、今は魔法の効果によって傷を受けても回復しますから、よほどの重傷にならないかぎりは倒れません。
こうして彼が攻撃を引きつけているうちに、今度はわたしが一気に距離を詰め――祭壇の傍らにあるティンカーベルを奪い返す手はずなのです。
囮役を引き受けてくれた相棒くんに、力のかぎり声援を送りましょう。
「今が勝負どころです!! 誇り高き銀狼の力をお見せなさい、マロック!!」
「うおおおおおおおおっ!! 裸エプロンだあああああ!!」
クソみたいな煩悩にまみれたマロックは高らかに叫ぶと、全身の毛を逆立てて爪を一閃。
触手の群れは竜巻に巻き込まれたように吹き飛ばされ、銀色に輝く獣はみるみるうちに女王との距離を詰めていきます。
その鬼気迫る姿に虚を突かれたのでしょうか、女王は慌てた様子で再び氷の刃を出現させ、近づいてくるマロックめがけて射出します。
しかし彼は避ける仕草すら見せません。
暴れ馬のごとくうしろ脚で立ちあがると、全身の筋肉に力をこめて攻撃を弾いてしまいました。
「むううっ!! なんのこれしき!!」
『まったく、呆れるほどしぶとい獣だな……。しかしいずれはひれ伏して、頭を垂れることになるであろう。そのときは毛皮を剥いで、ゴーレムたちに絨毯を作らせようぞ!!』
女王は続けざまに氷の刃を生みだし、幾度となく攻撃を浴びせていきます。
するとマロックもたまらず動きを止め、雹のごとく飛んでくる無数の刃を防ごうと、爪牙を振るいはじめました。
今のところ再生付与の魔法のおかげで持ちこたえていますが、その効果が切れたら最後。マロックの身体は穴だらけになってしまうでしょう。
あの子がなんとか耐えているうちに、ティンカーベルを取り返さなくては。
(赤ずきんちゃん――いざ、突撃ですっ!!)
わたしは小声で息巻くと、祭壇の傍らに放置されたティンカーベルにじりじりと近づいていきます。
普段はちんちくりんな自分に劣等感を抱きがちですが、こういう状況において小柄な身丈は立派な武器になるのです。
女王の視界に入らないよう姿勢を低くしたあと、相手の注意が完全に逸れた瞬間を見計らって……一気にダッシュ!!
くっさい黒のオンボロマントを頭からかぶっていますから、赤いずきんが目立つこともありません。わたしは触手の間をすり抜けるように走り、ティンカーベルのもとに駆け寄ります。
あとすこし。あとすこし近づくだけで――。
ところがふいに言いようのない胸騒ぎを覚え、慌てて足をとめました。
しかし時すでに遅し。
ティンカーベルまで、あと数十歩。
足元にふっと青白い光を放つ魔方陣が現れたのを見て、呟きます。
「げ、トラップ……」
道中であれほど警戒していたというのに、まさかここに来て引っかかるとは。
わたしたちがティンカーベルを取り返しにくることを予想して、女王は途中の床にあらかじめ魔法の罠を仕組んでおいたのでしょう。
となれば確実に、致命的な仕掛けが施されているはずでした。
「――赤ずきんちゃあああああああんっ!!」
マロックの悲痛な叫びが、広間に響く中。
魔方陣から突きあがってきた氷の槍が、わたしの小さなお腹を貫いていきました。
待ってください。
こんなのは絶対にいやです。
最強の赤ずきんちゃんとしては、あまりにお粗末な最期ではないですか。




