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1-18:よっしゃ!! めちゃくちゃえっちなことさせるぞっ!!

 周囲の冷気が険しさを増していく中、わたしは切迫した声で指示を出しました。


「とにかく全力で逃げましょう。たぶんとんでもない規模の魔法がきます」

「……うええええ!? やっぱりヤバいじゃん!!」

「いやほんと、ごめんなさい」


 しかしマロックに謝ってみたところで、状況が変わるわけではありません。

 祭壇のうえに立つ女王のドレスの裾から白い触手があふれだし、無数に生えた先端の一本一本が、うねうねと踊るようにうごめきはじめます。


 神に近しき力を持つ魔物は、臨戦態勢になることで余裕を取り戻したのでしょうか。

 無礼を働いた客人に優しくほほえみかけると、静かに極刑を言い渡しました。


『凍てつく世界に抱かれ、永劫に続く苦しみを味わうがよい。……冬の静寂(ホワイトミュート)


 直後――広間の床がピキピキと悲鳴をあげて、瞬く間に凍りついていきました。

 慌てて逃げようにも足の裏にびっしりと霜が張りついて、まるで身動きがとれません。


 そうこうしているうちに槍のように巨大な氷柱が、広間の天井に次々と生えていきます。

 隣のマロックが呆然と顔をあげて、わたしにこう呟きました。


「……あれが降ってきたら死ぬよね」

「そうならないように、天の神さまにお祈りしなくては」


 しかし当然のように氷柱の雨は、わたしたちめがけて降りそそいできたのです。



 ◇



 即死確実の氷柱が、広間全体に降りそそぐまで――時間の猶予はおよそ数十秒ほど。

 わたしは刹那の狭間で命を繋ごうと、懸命に頭を働かせます。

 一方のマロックは、


「うわああっ!! 終わりだああ!! ぼくたちクソみたいな死に方しちゃうよおっ!!」

「ああ、もう……落ちつきなさいっ!! わたしが今、なんとかしますから!」


 女王の攻撃を避けることができないのなら、魔法に頼るほかありません。

 しかし防御系の魔法は難易度が高いうえに、切迫した状況で使うことが多いため、とにかく失敗ファンブルしやすいものなのです。


 ゆえに重要なのは、死の恐怖に直面してもなお、取り乱さずに意識を集中させること。

 つまりクソ度胸が取り柄の赤ずきんちゃんの、得意分野でございます。


「燃えさかる煉獄の帯よ、我が身を守る傘と為れ。――緋焔防御輪ポローニアス!!」


 わたしが詠唱を終えると、周囲を覆うように燃えさかる火柱があがり、幾重にも折り重なって真っ赤な傘を作ります。

 そして魔法の発動とほぼ同時に巨大な氷柱が頭上から降りそそぎ、火焔の傘と激しく衝突し水蒸気と化していきました。 

 

「た、たすかったあ……」

「安心するのはまだ早いですよ。女王の攻撃がこれで終わるはずもありませんから」

「ええ? うわ、マジだ。やばいやばいやばいまたなんか来るよ!!」

 

 すんでのところで大規模の攻撃魔法を防いだかと思いきや、壇上に立つ〈雪の女王〉はいまだに余裕の笑みを浮かべたまま。

 続けて彼女は無数の触手を蔓のごとく這わせると、わたしたちのお腹をズタズタに突き破ろうと、鋭い先端をこちらに伸ばしてきます。


「このままでは防戦一方になってしまいますね。わたしたちも攻撃を仕掛けなくては」

「……でも普通の攻撃って、女王に効かないんじゃないっけ!?」

「あら、よく覚えていましたね。褒めてさしあげますわ」


 わたしはずきんの裏に仕込んでおいた暗器のひとつ、黄金色に輝く円月輪チャクラムを構えると、祭壇に立つ女王めがけて勢いよく投擲。

 しかし彼女の身体にぶつかる瞬間――見えない壁に阻まれたように弾かれ、円月輪はあらぬ方向にくるくると旋回していきました。


 あれこそ最上位の魔物だけが使うことのできる、物理攻撃を遮断する完全防御インビンシブルの結界。

 その驚異的な力をはじめて目の当たりしたマロックは、


「げええ、あんなの反則じゃん!?」 

「予想していたとおりの最悪さですこと。とはいえ、結界が張られているのは本体だけのようです。……ほら、円月輪が通ったところをよくごらんなさい」

「あ、すごい。ぼくらの前に道ができてら」


 そう、女王に当てたのは結界の効果を確認しただけのこと。

 円月輪の狙いは最初から、間近に迫りつつあった触手の群れだったのです。


 さすがの女王といえど無数に生えた触手の末端にまで、結界を張りめぐらせることはできないようです。

 こちらに向かって伸びていた白い蔓のごとき触手は、旋回する円月輪によって短く刈りとられ、今やわたしたちと祭壇の間に道ができておりました。


「こうして触手をなぎ払いつつ近づいていけば、ティンカーベルを奪い返すチャンスもあるでしょう。さあ、そろそろ本気で行きますわよ、マロック」

「じゃあ先陣は任せて! ここらで君にいいところを見せないと、あとでご褒美をもらえないからね。……無事にあいつを倒せたら、ぼくのお願いを聞いてくれる?」


 いよいよ反撃というときになって、どさくさにまぎれておねだりしてくるマロック。

 その浅ましさに呆れながらも、わたしはにっこりと笑ってうなずきます。


「命をかけてくださるのですから、ひとつくらいなら構いませんよ。なにがお望みですか」

「よっしゃ!! めちゃくちゃえっちなことさせるぞっ!!」

「ちょ、待っ」


 相棒くんは不穏な言葉を吐いたあと、円月輪で切り開かれた道を猛然と駆け抜けていきました。

 もしかしてわたし今、とんでもない約束をしてしまったのでは……。

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