1-16:お友だちとひとつ、約束を交わしただけのこと。
というわけでマロックの案内で通路を進みますが、敵らしき姿はどこにもありません。
このエリア内のゴーレムは、さきほど倒したやつらがすべてだったのでしょう。
おかげで道中は平和なものでした。
「して、どこに向かっておりますの」
「なんて言えばいいのかな、仕分け部屋? ぼくは厨房で調理されかかっていたんだけど、その隣の部屋にゴーレムがいっぱいいてさ、女王が手にいれたものを選別していたんだ」
「つまりそこに、わたしの装備もあると」
「たぶんお宝になりそうなものは宝物庫か寝室、いらないものは外の雪原に捨ててくるんだと思う。あの女王、手下のゴーレムを使って遺跡の中のものを集めているみたいだよ」
そういえばヴァージニアさんの日記にも、〈雪の女王〉は収集癖があると書いてありました。ドラゴンなど一部の種族はお宝を集める習性があるので、彼女も骨董品を集める高尚なお趣味があるのでしょう。
「で、赤ずきんちゃんの服とかはゴミ出しされちゃうかもしれないけど、すくなくともティンカーベルは捨てないはずでしょ。なにせ古代遺物だし」
「誰の服がゴミですって?」
「ぼくがそう思ってるわけじゃないよ!! 女王からしたらってこと!!」
なんて話をしていると、すこし先の通路にゴーレムが転がっていました。
見ればその左右に扉がふたつあり、右側が厨房、左側が仕分け部屋のようでした。
「ここいらのゴーレムは倒してあるから、警戒しないで大丈夫だよ」
「あなたがやったのですか? わたしがいない間にずいぶんと大活躍ですね」
「う、うん……ぼくだってやるときはやるさ」
なぜか急に、しどろもどろになるマロック。
わたしが近づいてゴーレムの亡骸を確認すると、装甲に傷らしい傷はほとんどなく、たった一撃で仕留めたかのようでした。
驚きました。ほんのちょっと見ていないうちに、ずいぶんと腕をあげたものです。
「赤ずきんちゃーん! あったよあった! 君のずきんとエプロンドレス」
「ああ、よかった。これで一安心です」
「やっぱりゴミに分別されていたみたい。でも……うーん、女の子のいい匂いがする」
狼だから無自覚でしょうけど、変態ちっくなことを言っていたので慌ててお洋服をひったくります。そしてゴソゴソと着替え、ようやく普段のわたしに元通り。
マロックは続けてオンボロマントも持ってきて、
「このくっせえボロ布はどうしよ。捨てちゃう?」
「そうしたいのはやまやまですけど、一応は猟師さんの持ち物ですし。それに女王が冷気系の魔法を使ってくるかもしれませんから、防寒対策は必要でしょう」
「うえ……えんがちょ」
「お黙り。わたしだって我慢しているの」
しかし身につけるとツーンと匂いが漂ってきて、早くも心が折れそうになります。
他の装備を探すついでにマロックと部屋を漁っていますと、前に女王を討伐しにきた冒険者の遺品でしょうか、幸運にもマジックポーションが見つかりました。
おかげで消耗した魔力も全快。
革のポーチに精霊銀の弾丸、お洋服に仕込んでいた暗器の数々も無事に出てきましたので、あとはティンカーベルだけなのですが……。
もっとも大切なものが、どこを探しても見あたりません。
「困りました。あれがないと女王の結界を破れないですよ」
「さては……あいつもそれがわかってて隠してるとか? あるいは気にいって大事にしてるとか。キラキラしててきれいだし、あの銃」
「どちらもありえますわ。いずれにせよ、かなり厄介なことになるやも」
装飾銃ティンカーベルを、ほかでもない女王が持っているとしたら――わたしたちは攻撃の通用しない強敵の懐に飛びこんで、唯一対抗できる切り札を取り返すところからはじめなければなりません。
ただでさえ強敵なのに、この条件で倒せというのはあまりにも無茶な話。普段であれば撤退も考えるところですが……当然、わたしに帰るつもりはありません。
師匠から譲り受けた古代遺物を奪われたままにはしておけませんし、それになにより、今は女王を倒さなければならない理由もありますから。
「道のりが困難であればあるほど、目的を達成したときの感動は得がたいものになりましょう。ということでマロック、このまま先に進みましょう」
「なんだか燃えているね、赤ずきんちゃん。……なにかあったの?」
「たいしたことではありません。お友だちとひとつ、約束を交わしただけのこと」
隣の相棒くんが不思議そうな顔をするので、女王のもとへ向かう道すがら、話してあげましょう。
今なお遺跡の片隅で美しく眠り続ける、ひとりの女の子のことを。




