1-15:ていうか赤ずきんちゃん、やけに刺激的な格好だね。
ヴァージニアさんの亡骸をその場に残し、わたしは再び遺跡の奥に向かいます。
彼女の手がかりのおかげで隔絶されたエリアから脱出できたとはいえ、時間の猶予はそうありません。
とにかく急いで、囚われたままのマロックの安否を確認しなくては。
わたしは内心の焦りを押さえつつ、トラップに引っかからないよう慎重に進みます。
しばらく道なりに歩いていますと、通路の先からカキンカキンと、なにかがぶつかりあうような音が響いてきました。
やがて見覚えのある銀色の毛玉がひょっこりと現れ、わたしの姿を見るなり、
「――赤ずぎんぢゃあああああんっ!! だずげでええええっ!!」
「無事だったのですね、マロック!」
なんと、彼も自力で抜けだしてきたようです。
女王の手下のゴーレムが黄金色の腕を振り回して追走してくる中、牙と爪で必死に迎撃し、こちらに向かって駆け寄ってくるではありませんか。
「やばいやばいやばい……ぼくだけじゃ無理! ぼくだけじゃ無理!!」
そう泣きわめきながらもマロックの攻撃は鋭く、ゴーレムはもはやボロボロの状態。
弱点を狙うコツでもつかんだのでしょうか。
これならあえて加勢しなくとも、なんとかなりそうな雰囲気です。
「やるじゃないですか、マロック。見直しましたよ」
「ねえ!! ぼーっと見てないで手伝って!! マジやばいんだからさあ!!」
しかたがないのでアリアドネの糸を構え、ひゅっと手首を返します。
極細の刃物はゴーレムの装甲の継ぎ目――関節と間接の間にするりと巻きつき、わずかに指に力をこめるだけで、黄金色の四肢が瞬く間に分解されていきました。
目の前の敵が完全に沈黙したのを確認し、わたしはマロックのほうに振り返ります。
すると彼はゴーレムとの戦いで疲れているのか、仰向けになって寝転んでいました。
「どうせなら最後まで、自分でやりなさいな」
「う、うん……。次からそうするよ。ていうか赤ずきんちゃん、やけに刺激的な格好だね」
「身ぐるみを剥がされましたから。そんなにじろじろ見ないでください」
まったく、狼のくせにわたしの下着姿にいやらしい視線をそそいでくるなんて。
そういうところはパパに似なくていいのですわよ、マロック。
とはいえ……無事でいてくれてほっといたしました。
「あなたのほうは変わりないので面白みに欠けますね。てっきり全身の毛がむしられて、グリルにでもされているものかと」
「ええ……。もうちょっと心配してくれていいと思うんだけどなあ」
「バカ言いなさんな。これしきの試練、乗り越えてもらわなければ困ります」
「まあいいや。君のそういうところも好きだし」
なんてとぼけたことを言ってくるので、わたしはクスリと笑います。
ところがマロックはひょいと物陰に隠れて、ひとこと。
「じゃあ、あとはよろしく」
「はい……?」
次の瞬間、通路の奥から再び激しい物音が響いてきます。
ガシャンガシャン、ガシャンガシャン、ガシャンガシャン……。
ゴーレムが走ってくる音。
あきらかに複数。
やがて姿を現した敵の数、ざっと見て――二十体ほど。
「ちょっ! 待っ……! わたし今、糸しか武器がないのですけどっ!?」
「大丈夫。赤ずきんちゃんならやればできる」
さすがにキツいですって。
しかしすでにゴーレムの大群は間近に迫っていて、マロックのように隠れることはできそうにありませんでした。
見直したと思ったらすぐにこれですから、ほんとにもう……呆れてしまいますわ。
◇
「はあ……はあ……。ひさびさに死ぬかと……」
「さすがは赤ずきんちゃん! 君なら倒せると思ったよ!」
隣で調子のいいことばかり言いやがるので、尻尾のついたお尻を蹴飛ばしてやりました。
マロックは「ぎゃふん!」と叫んで悶絶するものの、その声はどこか嬉しそう。
わたしは床に散らばったゴーレムの残骸を眺めながら、連戦の途中でぐしゃぐしゃに乱れた髪を手ぐしで整えます。
アリアドネの糸は酷使しすぎて限界がきたのか、たぐりよせたときにぷつりと切れてしまいました。
これでもう手元には、ひとつも武器がありません。
わたしは深々とため息を吐いてから、隣のマロックに言いました。
「ひとまず……奪われた装備を探さなくては」
「ああ、それなら任せて。君の装備があるところまで、ぼくが案内するよ」
「本当ですか? ていうかどこにあるのか、わかっていますの?」
「捕まってるときにね、色々と探りをいれておいたんだ」
まあ、なんと気が利くこと。
〈雪の女王〉に捕まって泣きべそをかいたときのことは、これで水に流してあげましょう。
あのときは見て見ぬふりをしましたけど、びしゃびしゃにお漏らししていましたし。
「なんでだろ。赤ずきんちゃんに今、鼻で笑われたような……」
「うふふ、気にしないでください」




