戦争の予兆
7話の続き
一方その頃――
ヴェイル側にも、静かに動きが生まれていた。
ヴェルナが追放されてから、一週間後の夜。
重厚な扉の奥、アルシェイド家の一室。
そこでは会議が行われていた。
集められているのは、ヴェイルの中でも頂点に立つ者たち。
アルシェイド家当主、グライスを筆頭に
ラグナディア家、ヴォルクレイン家、ゼルディウス家、クロムベルグ家。
いずれも長い歴史を持つ、純血の名門。
その空気は、張り詰めていた。
「……やはり、このままではいずれ崩壊する」
低く、重い声が響く。
口を開いたのは、アルシェイド家に次ぐ勢力
ラグナディア家当主。
「現在、ヴェイルと人間は対等などという歪な関係にある」
吐き捨てるように言う。
「だが、我々の中には未だに人間を下に見る者が多い」
「不満は、溜まり続けている」
「このままでは、いつ暴発してもおかしくないだろう」
室内に、緊張が走る。
「ならばやはり力で従わせるべきだ」
誰かが言う。
それに同調する声が、次々と上がる。
「元より人間など家畜同然」
「なぜ我らが抑えねばならん」
「力こそが秩序だ」
その空気は、徐々に過激さを増していく。
だが
「静まれ」
一言で、すべてが止まった。
アルシェイド家当主、グライス。
圧倒的な威圧。
誰一人として、逆らえない。
「……お前たちの意見はもっともだ」
ゆっくりと、口を開く。
「だが」
視線が鋭くなる。
「人間を従わせる具体的な手段はあるのか?」
沈黙。誰も答えない。
「感情論では、戦はできん」
その言葉が、空気をさらに重くする。
グライスは、隣に座る男へ視線を向ける。
「……アルベルト」
名を呼ばれた男が、静かに立ち上がる。
アルシェイド家嫡男アルベルト。
「派遣したヴェイルたちはどうなっている」
淡々とした問い。
アルベルトは一切の感情を見せず、答える。
「現在、ブレイドの調査に向かった者たちは一切の連絡がつかない状況です」
わずかな間。
「……全滅と見てよいでしょう」
「……っ、ブレイドめ……忌々しい」
誰かが、吐き捨てる。
グライスは目を細める。
「昔とは違う、か」
その言葉に、アルベルトが続ける。
「はい」
「現代において、人間を従わせるのは容易ではありません」
「ヴェイルに対抗し得る戦力が、既に存在しています」
ブレイド、その名が空気を冷やす。
「彼らもまた、我々を忌み嫌っている」
「いずれ、衝突は避けられないでしょう」
「……全面戦争、か」
誰かが呟く。緊張が走る。
「ではどうする!」
「このまま黙ってやられるのか!」
再び、場が荒れ始める。
だが
「ご安心を」
アルベルトの一言で、空気が変わる。
静かだが、確信に満ちた声。
「確かに、人間の数は我々の三倍以上」
「未知の武器も、多数保有しているでしょう」
「ですが」
一拍。
「強い人間も、それを知る人間も、ごく一部です」
視線が集まる。
「ブレイドさえ潰せば、戦況はこちらに傾く」
沈黙。
そして
「そのブレイドを、どうにかできていないからこうなっているのだろう!」
鋭い指摘。
だが、アルベルトは動じない。
「私が、直々に調査に向かいましょう」
空気が、変わる。
「ほう……」
グライスが、わずかに笑う。
「それは、面白い」
周囲もざわめく。
「アルシェイドの嫡男が動くのか……!」
期待と狂気が入り混じる。
アルベルトは静かに頭を下げる。
「お任せください」
「必ずや、ブレイドの中枢を暴きます」
グライスは満足げに頷く。
「よかろう」
その一言で、決定された。
戦いは、次の段階へ進む。
だが。このとき。
ヴェルナたちはまだ知らない。
自分たちの行動が
どれほど大きな嵐を呼び寄せているのかを。
そしてそれが最悪の形で、交差することを。




