仲間割れ
12話の続き
「……なんでこんなところにいる、サイカ」
レイが低く言う。
その一言で、相手の名が明かされる。
「サイカ……?」
ヴェルナが小さく呟く。
「たまたま仕事が早く片付いたからさ」
軽い口調。
「善意で駆けつけてあげたのに邪魔するんだ、レイくん」
そう言って。フードを外す。
現れたのは女だった。
白い肌。細い輪郭。
そして、どこか狂気を孕んだ笑み。
「俺の所有物を守って何が悪い」
レイが言い放つ。
「へぇ〜?」
サイカが目を細める。
「人間が、ヴェイルを飼うなんてさぁ」
「そんな発想、なかったなぁ〜!」
楽しそうに笑う。
「でもいいの?」
視線が鋭くなる。
「上の連中、ヴェイルを滅ぼそうと計画してるみたいだけど」
「バレたら許してくれないんじゃない?」
「……っ」
その言葉に。
ヴェルナが反応する。
(……滅ぼす?)
一瞬、思考が止まる。
だが。
「どうでもいい」
レイは即答した。
「滅ぼそうが何しようが関係ない」
「俺の所有物に手を出す奴は」
一歩、踏み出す。
「誰だろうが潰す」
静かに。
だが、明確な殺意。
「ふーん……」
サイカは肩をすくめる。
「さすがのレイくんでもさ」
「ブレイド全体を敵に回すのはキツいんじゃない?」
「いいよ、別に」
即答。
「一人一人、確実に潰すから」
空気が凍る。
「……はは」
サイカが笑う。
「死にたいなら、かかってきなよ」
レイが言う。
その声音に、一切の揺らぎはない。
「狂ってるねぇ〜」
楽しそうに笑うサイカ。
互いに構える。一触即発。
仲間同士とは思えない、殺気。
(……本当に、仲間なの?)
ヴェルナの中で疑問が膨らむ。
だが
「あー……やっぱやめやめ」
サイカがあっさりと構えを解いた。
「ただでさえ人手足りてないのにさ」
「ここで潰し合うとか、馬鹿馬鹿しいでしょ」
ふっと、殺気が消える。
「……」
レイは何も言わない。
「いやぁでもさ」
サイカがくすっと笑う。
「いつも何考えてるかわかんない殺戮マシーンだと思ってたけど」
「そういうこともするんだね〜」
「ちょっとお姉さん、見る目変わったかも」
軽口。
そのまま背を向ける。
「でもさ」
足を止める。
振り返らないまま言う。
「その子の件、本部行った方がいいと思うよ」
「隠し通すとか、絶対無理だから」
それだけ言って去っていった。
静寂が戻る。そこから先の記憶は、曖昧だった。
ボロボロの身体。視界も揺れていた。
気づけばレイに担がれていた。
何も言わず。何も聞かず。
ただ、運ばれて。
ーーーーーーーーーー
目を覚ますと。
そこは、自分の部屋だった。
布団の中。
「……」
天井を見上げる。レイの姿はない。
「……強かったな」
ぽつりと呟く。
初めて戦ったブレイドの人間。
明らかに格上。
(……人間の領域に来てから毎日、色んなことが起きてる)
時間の感覚すら、曖昧だ。
そして引っかかる。
あの女の言葉。ブレイド殺しのヴェイル。
「……何、それ」
理解が追いつかない。
その時。ガチャリ。扉の音。
「……レイ?」
身体を起こす。
しかし聞こえてきたのは
「こんにちは〜」
軽い声。
「……っ!?」
視線を向ける。
そこに立っていたのは白髪のツインテールの女。
「誰?!」
即座に身構える。
「あれ?覚えてない?」
首を傾げる。
「この前、殺し合いしたじゃん」
「……!」
その言葉で、繋がる。
「……もしかして、あの時の」
暗くて見えなかった顔。
だが、この喋り方。間違いない。
「そうそう」
にこっと笑う。
「そんな身構えないでよ」
「もう殺そうなんてしないからさ」
肩をすくめる。
「それに、手出したら私が殺されちゃうし」
「……何しに来たのよ」
警戒は解かない。
「んー?」
少し考えてから。
「だってさ」
楽しそうに言う。
「ヴェイルと話す機会なんて、普通ないじゃない!?」
「だから、話してみたくて」
「いいでしょ?」
「……嫌よ」
即答。
「あなたと話すことなんてない」
「えー、連れないなぁ」
サイカが笑う。
「じゃあさ」
少しだけ、声のトーンを落とす。
「レイくんのこと、教えてあげようか?」
「……!」
ヴェルナの視線が、わずかに揺れた。
「いいね!やっぱ気になる〜?」
こうして、突然押しかけてきたサイカに振り回されることになるヴェルナだった。




