ブレイドとの衝突
11話の続き
レイは、何事もなかったかのように動き始めた。
吊るされていた子供たちの縄を、一人ずつ切っていく。
「……もう大丈夫だ」
短く、それだけ告げる。
だが――子供たちは泣き止まない。
恐怖が抜けきっていないのだろう。
その姿を見ても、レイは取り乱さない。
さっきまで見せていた冷たい表情とは違う。
けれど優しいわけでもない。
ただ、淡々としていた。
「……」
ヴェルナは、その光景をぼんやりと見ていた。
(……あいつ、なんで私だけ殺さなかったんだろ……)
頭の奥に引っかかる疑念。
その時。
「おい」
レイの声。
「何ボーッとしてる」
「応急処置する。手伝え」
「……え?あ、うん」
我に返る。慌てて駆け寄り、処置を手伝う。
布を裂き、止血し、呼吸を確認する。
結果
「……全員、生きてるな」
レイが確認する。
「……よかった」
ヴェルナが小さく息を吐く。
「この子たち、どうするの?」
周囲を見渡す。
「全員は運べないわよ」
「本部に連絡を入れる」
レイは即答する。
「お前は先に帰れ」
「なんで?」
「本部の連中が来た時、お前がいると面倒だ」
「……なるほどね」
ヴェルナは少しだけ苦笑する。
「わかったわ」
そのまま、踵を返す。
外は、すっかり夜になっていた。
人気のない道。静まり返った空気。
向かうのは、レイが取っていた宿。
今からレイの家に戻る気力は、なかった。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
「私、このままでいいのかな……」
ぽつりと、漏れる本音。
その時
「……っ」
違和感。
振り返るより早く、身体が動く。
半歩、横へ。次の瞬間。
銀線が、空を裂いた。
「っ……!」
首筋に、浅い痛み。血が、流れる。
「あっれ?」
軽い声。
「殺せたと思ったんだけどなぁ」
闇の中から、人影が現れる。
「感がいいわね」
ヴェルナは即座に距離を取り、構える 。
(……黒いコート?)
目を細める。
(もしかしてブレイド?)
最初はレイだと思った。
だが違った。
暗くて顔は見えないが、レイじゃないことだけはわかる。
「……あなた、全然気配隠しきれてないよ」
挑発気味にブイレドの人間は言う。
「ねぇ」
「なんでブレイドの服着てるの?」
「もしかしてブレイド殺しのヴェイルって、あなた?」
そう言い疑問を投げかける。
「……」
(……一体何のこと?)
情報が繋がらない。
だが考える時間は、なかった。
「まぁなんでも、いいや」
両手には、長ドス。鈍く光る刃。
踏み込まれる。
「っ……!」
速い。二刀流。
なのに、無駄がない。
俊敏。重い。
ヴェルナは防ぐのではなく、避けることで精一杯だった。
「反撃しないの?」
軽口。
その瞬間
「ぐっ……!」
腹に衝撃。蹴り。
意識が、手に集中していた。
足への警戒が抜けていた。
そのまま、地面を転がる。
「なんか拍子抜けだなぁ」
近づいてくる。
「くっ……!」
(……悔しいけど)
即座に判断する。このままじゃ勝てない。
ヴェルナは立ち上がると同時に、路地へと飛び込む。
入り組んだ道。
「逃げるの?」
背後から声。
(今は少しでも…)
だが。
「遅いよ」
上から。先回り。
「逃げられると思ってる?」
「思ってないわよ……!」
最悪の状況。土地勘なし。
武器なし。体力も削れている。
「何考えてるか知らないけどさ」
人間が笑う。
「意味ないよ」
その瞬間。ヴェルナは何かを投げた。
「……投擲?」
ヴェルナが投げたのは無線機。
しかし人間は意に返さず、迷わず突っ込む。
回避しながら、距離を詰める。
それでも
一瞬の遅れ。
その隙で、ルートが限定される。
ヴェルナの目が、鋭くなる。
集中。来る!
一太刀目。左手の横薙ぎ。
それを半歩引いて避ける。
「さよなら」
間髪入れず。右手での突き。
「っ……!」
避けられるはずもなく血しぶきが舞う。
「……」
けれど
「……捕まえた」
ヴェルナは受けていた。
左掌。
最初から避けるつもりなどなかった。
相討ち狙い。ドスが手を貫通する。
だが、致命には届かない。
「っ……!」
人間は即座に手を離す。
その瞬間。
「っらぁ!!」
強烈な蹴りが炸裂する。
「……っ!」
手応え。
吹き飛ばしたはず。
しかし
「……やるねぇ」
普通に立っていた。
余裕の表情。
蹴られる前に自分から跳んで衝撃を緩和していた。
「ヴェイルがこんな戦いするなんてさ」
笑う。
「驚いちゃった」
(……やっぱり)
ヴェルナは歯を食いしばる。
(簡単にはいかない)
満身創痍。左手は、もう使えない。
「でも、いい線いってたと思うよ」
人間が構える。終わる。
そう思った瞬間
「……っ!?」
気配。上から何かが降ってくる。
人間は即座に反応して後ろに跳ぶ。
その動きを見て。ヴェルナは笑った。
「……はは」
乾いた笑い。
「あはは!面白い」
「なんでブレイドの人間が、ヴェイルを庇ったのかな」
ヴェルナが目を見開く。
そこに立っていたのはレイだった。




