ヴェルナの初任務
9話の続き
翌朝。
ヴェルナは、新しく買った布団の上で気持ちよく眠っていた。
「……ん……」
柔らかい感触に包まれながら、微睡む。
だが
「おい」
現実は甘くなかった。
「……うーん……早くない?」
目も開けずに文句を言う。
「出かける準備をしろ」
その一言で、意識が一気に覚醒する。
「……は」
目を開けると、すでに外出の準備を整えたレイが立っていた。
「仕事だ」
短い説明。
「……ああ、そういうこと」
ヴェルナは体を起こす。
レイの仕事についていくのは、これが初めてだった。
数分後。
二人はコートに身を包み、部屋を出る。
外はまだ肌寒い。
「……で、どこに向かってるの?」
歩きながら問いかける。
「ここから10キロ離れた街だ」
「……は?」
一瞬、理解が追いつかない。
「え? 歩きで行くの?」
「当たり前だ」
即答だった。
「いやいやいや……普通何か使うでしょ」
「使えるが、使わない」
レイは淡々と歩き続ける。
「暗い道や人目の少ないルートを選ぶ」
「パトロールも兼ねている」
周囲を見ながら進むその姿は、確かにただの移動ではなかった。
「……なるほどね」
納得半分、呆れ半分。
しばらく歩いた後、ヴェルナがふと思い出したように口を開く。
「ねぇ」
「あなた以外のブレイドの人間って、どのくらいいるの?」
純粋な疑問だった。
レイは少し間を置いて答える。
「全体でおよそ400人」
「そのうち戦闘科は84人」
「……少なっ」
思わず声が出る。
「圧倒的に人手不足だ」
レイは続ける。
「基本は一人で、半径20キロ圏内を担当する」
「……それ、だいぶブラックじゃない?」
「事実だ」
あっさり認める。
「戦闘科の人間がやられれば、それだけで戦力は大きく削られる」
「それくらい貴重な存在だ」
ヴェルナは少し考える。
「……人間は多いのに、ヴェイルに対抗できる人間は少数ってわけね」
「そういうことだ」
納得はした。
だが、同時に疑問も浮かぶ。
「……そんな重要なこと、私に教えていいの?」
一応、自分はヴェイルだ。
レイは一切迷わず答える。
「問題ない」
その一言で終わる。
だが、嘘をついている感じでもない。
「今のところは回っている」
レイが続ける。
「違法捕食しているヴェイルの数はそこまで多くない」
「多くても一日ニ件程度」
「へぇ……」
「ただし」
レイの声が少し低くなる。
「本質を隠しているヴェイル見つけるのは難しい」
「被害が出る前に対処するのは、ほぼ不可能に近い」
現実は厳しい。
「……なるほどね」
軽くは流せない話だった。
それから。
かなりの距離を歩いた。
外はすっかり明るくなっている。
「……はぁ……」
ヴェルナは肩で息をする。
「あなた、毎回こんなことしてるの……?」
「慣れろ」
たった一言。
(こいつ……!)
文句を言う気力もない。
そのまま歩き続けやがて、一つの建物の前に到着する。
「……ここ?」
「役所だ」
中へ入る。
受付に近づいた瞬間、職員が反応した。
「お待ちしておりました」
レイの服装を見て、すぐに理解したらしい。
対応が変わる。
「今回の件ですが」
淡々と説明が始まる。
「この街で、子供が複数名行方不明になっています」
「現時点で確認されているのは、五名」
「いずれも共通点は少なく、痕跡も残っていません」
「……」
「ヴェイルの関与を疑っています」
「調査をお願いします」
話はそれだけだった。
役所を出る。
外の空気が、少し重く感じる。
「……おかしいわね」
ヴェルナがぽつりと呟く。
レイが横目で見る。
「気づいたか?」
「えぇ」
即答だった。
「血を求めるヴェイルなら、大人を狙ったほうが効率がいい」
「なのに、子供だけが狙われている」
違和感。
「そこが引っかかる」
レイも同意する。
「……ただの捕食じゃない可能性が高い」
空気が少し変わる。
「じゃあ、これからどうするの?」
「地道に聞き込みだ」
シンプルな答え。
「足を使うしかない」
「……はぁ」
ため息をつく。
でも。
「まあいいわ」
軽く肩を回す。
「やるしかないんでしょ」
レイは何も言わず、歩き出す。
ヴェルナもその後を追う。
こうして。
二人の聞き込みが始まった。




