第36話 私をスノボに連れてって ③ 釜井達の夜
第36話 ③
「吹雪の夜、洋館にて」
吹雪だった。
ワイパーが必死に雪を払い続けているにもかかわらず、視界は白く閉ざされ、闇の中に何かが潜んでいるような錯覚を覚える。
「こずえ先輩、道は本当に合ってるんですか?」
「ナビ通りよ。このペンション、レビュー★4.9なのよ?」
女神こずえが、やけに軽い声で言った。
「“雪の日こそ最高の思い出が”ってレビューに書いてあったし、ちょうどいいじゃない」
そんな中、ライトに照らし出されたのは――
山奥に佇む、古びた洋館だった。
黒ずんだ石壁。
尖った屋根。
窓という窓が、まるでこちらを見下ろしているかのように暗い。
「……なんか、雰囲気、ありますね」
レンが思わずそう呟く。
『これは何か起きそうな予感』
『スキー、吹雪、洋館( ペンション )と来ればあれか?』
『昔の有名なサウンドノベル思い出すんだけど……』
『あのゲーム懐かしいな』
キャンピングカーを敷地内に停め、一行は吹雪を避けるように急いで車を降りた。
そのときだった。
レンは、ふと足を止める。
「……ん?」
洋館の入口付近。
柱の陰に、釘で打ち付けられた不気味な藁人形がいくつもあった。
さらに、その周囲には――
明らかに人間のものではない、大きな足跡。
雪に残るそれは、異様に深く、重々しい。
「……嫌な感じがするな」
胸の奥に、じっとりとした違和感が広がる。
洋館の中は、外の吹雪とは対照的に、妙に静かだった。
出迎えたのは、若いがどこか陰気な雰囲気をまとった女性スタッフ。
「……いらっしゃいませ」
低く抑えた声で頭を下げる。
「本日は、当館をご利用いただき――」
部屋へ案内されようとした、その瞬間。
「きゃああああああっ!!」
館内に、女性の悲鳴が響き渡った。
「奥さま! 奥さまが……奥さまが死んでる!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
第1発見者は、年配の女性スタッフだった。
「お客様が到着されたので、奥さまにご報告しに行ったんです……
そしたら、部屋の中で倒れていらして……」
そこへ、厨房から中年の料理担当の男性が駆けつける。
「……まさか。
数日前に届いた、あの手紙と関係してるんじゃないか?」
一同が息を呑む。
「手紙……?詳しく話してください」
「はい。数日前に届いた、
『こんや、19時、だれかが、しぬ』
とだけ書かれた、不気味な手紙なんですが」
時計を見る。
――ちょうど、19時を回ったところだった。
料理担当の男が、一行を鋭く睨む。
「あなたたちが到着したのも、19時。
奥さまが発見されたのも、19時。
……タイミングが良すぎると思いませんか?」
『やっぱり事件が起きたな』
『今回は推理回か?』
『視聴者の中に、金田市少年か、湖南君はいませんか?』
『うおっほん、私がいればすぐに解決してみせましょう』
配信を視聴中の視聴者達も騒ぎ出す。
「ちょっと待って!」
陰気な女性スタッフが、声を荒げた。
「お客様が来てから、何も不審なことはなかったわ!
これは……怪物の仕業よ!」
「怪物?」
「この地方には、昔から噂があるの。
猛吹雪の夜、イエティという猿の化け物が現れて、女を食い殺すって……」
「……そういえば」
レンが、思い出したように口を開く。
「入口の近くで、大きな足跡をいくつも見ました」
「いやあああああっ!」
陰気な女性スタッフが、恐怖に耐えきれず悲鳴を上げる。
その空気を、静かに切り裂く声。
「……本人に聞いてみれば、どうですか」
メイドが静かに言った。
「は?
あんた、何を――」
次の瞬間。
――むくり。
倒れていたはずの奥様が、普通に起き上がった。
「……あ」
「あ、蘇生させたんですね」
「せっかく私が推理しようと思ったのに!」
『たしかに、本人に聞くのが一番だね』
『考えてみると、お嬢様がいるしw』
『現場再現ってスキルがあったはず』
『過去を見通すスキルもあるぞ』
『湖南君の仕事無くなっちゃうじゃん』
一行も視聴者達も、妙に軽いノリだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
生き返った奥様は、事情を語り始めた。
「本日のお客様の車の音が聞こえまして……
窓から拝見したんです」
そして。
「……お恥ずかしいのですが、そちらの銀髪のお嬢様を見た瞬間、あまりの“存在感”に、気を失いました」
どうやら、そのまま倒れて頭を打ったらしい。
「お騒がせしました。
それと……生き返らせていただき、感謝いたします」
そこで、僧侶サマンサが一歩前に出る。
「……あなたたち、人間じゃないですよね?」
瞬時に、レンは霊刀《富士山》を構えた。
「お、お待ちください!」
奥様は慌てて説明を始める。
この洋館の者は全員、吸血鬼の末裔。
奥様自身は、300年以上生きる純血の吸血鬼。
「怪しいことはしておりません!
ほそぼそとペンション業を営んでいるだけで……
たまに、その、若いイケメンのお客様から少し血をいただく程度で……この牙の、ほんの先っちょだけ」
ちらっとレンを見て、舌なめずりする奥様。
『ちょびっと吸ってるのか』
『言ってくれれば、少しくらいはあげるけどね?俺イケメンだし』
『吸血鬼が経営するペンションが怪しくないだと?』
『僕ここに泊まったことあるけど、何も無かったぞ』
『血を吸われる( ただしイケメンに限る ) 』
後輩女神エアリスが納得できない顔で言う
「じゃあ、さっきの話の手紙は何なのさ?」
「近くに住む一人暮らしの釜井さんの嫌がらせでしょう……以前、告白された事があるんですが、お断りしてからたまにこんな嫌がらせが」
『嫌なやつだな、その釜井ってやつ』
『私の苗字も鎌井だが』
『お、奇遇だな。私も蒲井だ』
『どこかで聞いた話だな?』
「入口付近にあった、あの不気味な藁人形は何ですか?」
レンが鋭く詰問する。
「あれはお客様から頂いた物です。呪いの藁人形だと仰っていました。一応、私たちは吸血鬼なので、そういう物は逆に縁起が良いと言いますか」
「じゃあ、足跡は?」
「……それは、分かりません」
不穏な余韻を残したまま、話は終わった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その後、遅い夕食。
美味な料理に、場の空気は一旦和らぐ。
部屋割りは――
レンと配信ドローンが同室。
女性陣は二部屋に分かれた。
そして、お待ちかねの温泉。
「ぜひ、ごゆっくりお楽しみください」
夜は、静かに更けていく……はずだった。
温泉上がりの少女に女神こずえが興奮したり、レン、女性陣、視聴者達で恋バナをしたりしてと、楽しい時間を過ごしていた。
そして、そろそろ各自の部屋に戻ろうとした、そのとき。
「きゃあああああっ!!」
再び、悲鳴。
「奥さま、奥さまが死んでる!」
「えー、あの人また死んだの?」
一行が顔を見合わせる。
吹雪は、まだ止まない。
――次話へ続く。
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