第26話 美少女と異世界列車旅と旅情編
第26話
週末闘技場大会を翌日に控えた朝。
一行は東京駅の隣に新設された巨大ターミナル、**「異世界駅東京」**に集まっていた。
外観は有名デザイナーが手掛けただけあって、現代とファンタジーが融合した独特な建物。駅ビルになっており、利便性にも優れている。
内部の光景も明らかに以前の地球の物ではなく、新時代の到来を実感する。
スーツ姿の会社員と並んで、獣耳を揺らす種族や、魔法装備を身につけた者たちが自然に行き交っている。大きなスーツケースを持ったエルフの一団が入国審査を受けている。
異世界新幹線改札の上にある案内板には、《11:00発 獣人国首都モンボ行き》の文字。
「本当に色々変わりましたね……」
レンが周囲を見回し、そう呟いた。
駅構内にはショッピングモールやレストラン街、ホテルまで併設されており、異世界渡航者向けの駅弁売り場も賑わっていた。
「お姫様も気に入ってたみたいだし、また駅弁買って車中でみんなで食べましょ。さ、こっちよ」
肝試し大会で仲良くなったおかげか、女神こずえは調子に乗って、さりげなく少女と手を繋いで歩き出す。
そして、こずえはポニーテールの美少女の事を、お姫様と呼ぶようになっていた。
『今日の配信は異世界新幹線の移動回か』
『お嬢様今日もポニテだー。うなじが眩しい』
『あの悪霊の二人は仕事が忙しくて行けないみたい』
『お姫様呼びもいいね、実際どこかのお姫様でしょ?』
『ここのホテル泊まったけど、すごいぞ』
売店に並ぶのは、トンカツならぬ、ドラゴンステーキカツ弁当、回復系幕の内、獣人国名物・三日月焼肉弁当。もちろん普通の駅弁も売っている。
「僕はこのドラゴンステーキカツ弁当食べてみます……美味しそうだし」
「お姫様とメイドさんはどれにする?私は普通に鶏めしにしようかな」
「この新幹線弁当にする」
「私はこちらの焼肉弁当を頂きます」
配信コメントが勢いよく流れる。
『ドラステカツ美味いよ』
『全部レビューして』
『異世界うなぎ弁当はオススメ』
一行は、予約してある特別車両へと案内された。
二階建て・24両編成の巨大な異世界新幹線。
特別車両の内装は高級感に満ち、座席は飛行機のファーストクラスを上回る。
「すごい内装ですね」
「貸し切りの一番良い部屋だからね」
「私の席はここ?」
「荷物はこちらに置くようですね」
全員が席に着いた直後、車掌が挨拶に現れた。
銀色の肌を持つ、どこか宇宙人めいた存在――神族の末端らしい。
「麗しきお嬢様と皆様。本日はご乗車ありがとうございます。これより、獣人国首都モンボまで時間軸移行を開始いたします」
―――
異世界駅東京を発車した新幹線は、しばらくは通常の高架を走っていた。
だが、速度が上がるにつれ、窓の外の景色がわずかに歪み始める。
ビル群が引き延ばされ、色が溶け、
次の瞬間——
窓の外は、完全な宇宙空間だった。
漆黒の闇に無数の星。
地球の軌道を思わせる青白い光の帯が、線路の代わりに車両の下を流れている。
新幹線は、まるで真空の中を“滑って”いるようだった。
車体のすぐ横を、彗星の尾が音もなく横切る。
遠くには、ゆっくりと回転する銀河。
星雲が淡く発光し、紫や青のガスが雲のように広がっている。
それでも——
車内は一切揺れない。
「全然振動がないですね」
「それが新幹線なのよ」
ショートヘアのボーイッシュギャルっぽい女神こずえが偉そうに胸を張る。
車掌——人型ではあるが、目が三つある―――が、静かに説明を始めた。
「この路線は“宇宙航路”です。
空間と空間を直線で結ぶ、神族管理下の安全区間となっております」
その言葉を裏付けるように、
列車は巨大な光のリングをいくつもくぐり抜けていく。
一瞬だけ、巨大なブラックホールの縁が見える。
吸い込まれるのではなく、避けるのでもない。
新幹線は当然のように、その重力圏の外側を正確になぞって進む。
『アレ、落ちたらどうなるんですか?』
軽い調子の問いに、車掌は即答する。
「魂だけが到着予定地に先着します」
誰もそれ以上は聞かなかった。
やがて進行方向に、宇宙空間に浮かぶ巨大な光の構造物が見えてくる。
それは駅だった。
ドーム状の駅舎が、星々を背景に浮かび、
その内部には商業区画、レストラン、ホテル、展望ラウンジまで揃っている。
「途中停車駅・中継ステーションです。今回は停車はしません」
駅に入る瞬間、
宇宙空間だったはずの外が、再びガラス越しの“夜景”のように変わる。
窓の外を漂う 宇宙クラゲ や 神族の作業員
車内放送が
「現在、中継ステーションを通過中です。撮影は自由ですが、神話級存在の映り込みにはご注意ください」
―――
次に窓の外に現れたのは、
巨大な恐竜が大地を闊歩する太古の世界だった。
鬱蒼とした原始の森、地鳴りのような足音。
だが、その光景は数秒と続かず、流れるように後方へと遠ざかっていく。
さらに先には、崩壊した未来都市の影が映し出された。
崩れ落ちた高層ビル、空を覆う黒い雲、人の姿のない街を、無人のドローンだけが静かに巡回している。
それらすべては、窓の向こうを“通過していくだけの風景”だった。
「初めて飛行機で異世界に行った時もそうでしたが……。
宇宙だけじゃなく過去や未来なんかも通るんですよね」
『新幹線からの方が車窓の景色が楽しめるね』
『しかし理屈がさっぱりわからん』
『次元の狭間みたいなもんでしょ』
『生きている間に、こんな時代が来るとはね』
『違う時間軸の地球の未来?』
―――
一行は買ってきた駅弁を広げる。
レンが頑張って食レポを開始。
「ドラゴンステーキカツ、すごくジューシーで、大きくて食べ応えがありますね」
「あっちの食材を使った料理も色々と登場してるわよね」
「エビフライ美味しい」
「お嬢様、焼肉も少し召し上がりますか?」
―――
食後は、二階のカフェスペースで飲み物を頼み、視聴者達とも談話し、大いに盛り上がっていた。
その時だった。
レンが、窓の外を見たまま動かなくなる。
そこに映っていたのは――
すでに亡くなっているはずの、彼の祖父母の姿だった。
「おじいちゃん?おばあ…」
レンが思わず呼びかけようとした時、カフェの扉が自然に開く。
「レン坊じゃないか」 「レン、お久しぶりね」
レンの祖父母は、何事もないかのように店内へ入り、隣の席に腰掛けた。
いつもの事だが、あまりに唐突な展開に椅子から転げ落ちそうになる。
「レン坊、配信、ずっと見てるぞ」
「配信ドローンさんのおかげで、あの世でも問題なく視聴できるようになったのよ」
『!?』 『レンのおじいさんとおばあさん?』
『そう言えばあの世も通過するよねw』
『本当にどうなってるんだw』
レンは言葉を失い、ただ驚いたように二人を見つめていた。
「麗しきお嬢様、レンの祖父母でございます。お会いできて光栄でございます」
「レンには色々お世話になってる」
「有り難きお言葉」
「女神様もご機嫌うるわしく」
「あの世での生活はどう?」
「とても充実しております」
レンの幼い頃の話などを聞きながら、和やかな雰囲気で時間が過ぎていった。
―――
「では、そろそろこれで失礼いたします」
「レン、まだこっちには来るんじゃないよ」
二人は微笑んで手を振ると、再び窓の向こうへと消えていった。
カフェに、短い静寂が訪れる。
やがて、車内アナウンスが流れた。
「まもなく、獣人国首都モンボに到着いたします。モンボを出ますと次は―――」
お嬢様は窓の景色を満足そうに眺め、最後の異世界新幹線アイスクリームを口にする。
レンは一度だけ深く息を吐き、静かに前を向いた。
「降りる準備をしましょうか」
――旅は、まだ始まったばかりだった。
―――次話に続く。
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