第25話 美容室と校則違反の髪型【挿絵あり】
第25話
肝試し大会終了後、悪霊の貞美が、意を決したように髪を切りたいと言い出した。
ちょうどレンもそろそろ髪を切りに行く時期だったので、それならみんなで行こう、という話になった。
翌日。
東京でもかなり有名な美容室は本日の予約のお客様を迎える準備で大忙し。
あの銀髪の美少女や人気配信者レン、女神こずえ様などをお迎えするため、他店からもカリスマ美容師が集められていた。
「地球、そしてガイアの皆さん。おはようございます、ダンジョンハンターのレンです。本日はですね、みんなでイメチェンするために美容室に来ました」
『今日は美容室回か』『レン、イメチェンするの?』
『貞美さんやよしお君もいるじゃんw』
『お嬢様も?』『お嬢様はそのままでいい!』
「配信ドローンには分身してもらい、それぞれのカットの様子をお伝えしますね」
『よしお君まだパンイチか』『貞美さん髪切っちゃうのか』
『お嬢様の髪触りたい』『お嬢様は今が完璧』
それぞれが担当の美容師の席へ案内される。
◆ レン ◆
レンの担当はイケメンカリスマ美容師。
椅子に座るレン。
カリスマ美容師のお任せでカットが進む。
「レン君はすごく素材がいいよね」
そしてワックス、スプレーでセットが完成する――
鏡に映ったのは、すっきりと垢抜けた、ちょっとチャラそうなイマドキの青年だった。
『すげえイケメンじゃん』『レンは元々イケメン枠だからね』『ウホッ、いいメンズ』『やらなika』『オレはSランクだってかまわないで食っちまう―――』
『変なのがいっぱい湧いてきたぞ』
『コメント欄が地獄w』
『レン君逃げてー』
レン自身も、少し驚いた顔をする。
「……似合ってますかね?」
◆ 貞美 ◆
不気味な長い髪で顔が隠れて見えないが、少し不安そうな貞美。
担当はオネエっぽい、筋肉質な男性カリスマ美容師。
そしてカリスマオネエにより、貞美のイメチェンが始まる。
オネエは躊躇なく、不気味な長い髪をばっさり切り捨てる。
床に落ちた髪が、まだ生きているかのようにウネウネと不気味に動く。
プロのオネエはそれを気にする事もなく、貞美に顔を近付ける。
「アナタすごくイイわ、こんなキレイなんだからしっかりカオを見せなきゃダメ」
肩口まで揃えられ、前髪が作られる。
重さが消え、輪郭がはっきりしていく。
髪にカラーを入れる。
わずかに赤みを含んだブラウン。
光が当たると柔らかく透ける色。
どうしても目がぐりんと白目を向いてしまうので、カラコンを入れてみる。
そこには垢抜けた飛びきりの美人がいた。
「新しいアナタが始まるのよ」
「……」
生まれ変わった貞美は鏡をじっと見つめていた。
『貞美さんクッソ美人ワロタw』
『え、今あの映画見ると、この貞美さんが出てきてくれるの?』
『もうビデオとDVDの値段上がってる』『ホント綺麗』
『貞美ちゃん、今から呪いのビデオ見るよ。ブヒヒ』
『拙僧も呪ってほしいな』
『貞美さん逃げてー』
◆ よしお君 ◆
若い女性カリスマ美容師が担当。
おかっぱみたいな髪を芸術的なテクニックで切り揃えていく。
ハサミが入るたびに、床に落ちていく黒い髪と一緒に、あの不気味さも削ぎ落とされていった。
それだけで、今まで影に沈んでいた目元が、驚くほど穏やかに見えた。
元々白い肌。そこに軽く血色が足され、瞳には落ち着いた色のカラコンが入る。
誰がどう見ても、とんでもないイケメンに仕上がっていた。
画面の向こうで、視聴者コメントが一気に流れ始める。
『これは刺さる』 『お姉さんが飼ってあげる』
『よしお君、めっちゃイケメンだな』
『よしおくん♡お姉ちゃんって呼んで』
『ここにも変なの湧いてきたー』
『よしお君逃げてー』
よしお君は困ったように視線を逸らした。
「……みゃ、みゃあ」
◆ 女神こずえ ◆
担当は女性のカリスマ美容師。
「じゃあ、適当にばっさりお願い」
長かった髪が静かに切り落とされていく。
毛先は肩の少し下で揃えられ、重さを残しつつも量は軽く調整された。
前髪は目にかからない位置で薄く整えられ、額がわずかに覗く。
それだけで表情がはっきりし、視線の強さが際立った。
ドライヤーが止まった瞬間、
そこにいたのは人間が一般的にイメージする「神秘的な長髪の女神」ではなく、
ボーイッシュなギャルっぽい現代的な女神だった。
「時代の流れよね。イメチェン成功よ」
『女神様っぽくないのが良いよね』
『オタクにも優しそう』
『女神様も本当に綺麗』『お嬢様にベタベタしてる時の、あのだらしない顔とのギャップよw』
◆ お嬢様 ◆
鏡の前に座るお嬢様を見て、
女性カリスマ美容師は息が止まった。
「……なんて美しい髪」
櫛を入れ、髪の流れを確かめる。
「この美しい髪を切るなんて私には出来ません。“セット”だけにしましょう」
そう言って、美容師はごく自然に、
長い銀髪を低い位置でゆるく束ねた。
あえて少しだけ、顔まわりに後れ毛を残す。
「嘘みたいにサラサラな髪」
指先で後れ毛の量を調整しながら、美容師は続けた。
最後に、黒いリボンを結ぶ。
結び目は飾りすぎず、
それでいて確かな存在感。
「……どうでしょうか」
鏡が、そっと正面に向けられる。
一瞬、誰も言葉を発さなかった。
落ち着いた、優しいポニーテール。
柔らかく揺れる後れ毛。
誰も目を逸らせない。
しばらく無言だったコメントが高速で流れる。
『お嬢様好きーー』『空気変わった』
『ポニテは反則』『お嬢様とポニーテール』
『ありがとうございますありがとうございます』
『美少女×ポニテは死人が出るぞ』
『うなじ見ちゃったら、心臓止まったわ』
『成仏してくれ』
『うちの学校は校則でポニテ禁止だった』
『どこの鹿児島だよ』
『お嬢様写真集予約始まった? 』
『これ生で見たら死ねるわ』
お嬢様は、少しだけ首を傾げた。
「変じゃない?」
◆帰り道◆
街を歩く一行。
通行人が振り返り、足を止め、スマホを落とす。
勇気を出したチャラ男が、美しくなった貞美をナンパする。
イケメンになったよしお君に邪な視線を向ける一部の女性たち。
ボーイッシュギャルとなり、話しかけやすくなったのか、一緒に写真を撮ってくださいと声をかけられる女神こずえ。
ポニーテールの少女はあまりにも神々しく、畏れ多くて皆手を合わせて拝んでいた。ぶつぶつと願い事を言う者もいる。
イメチェン企画は大成功だった。
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