第24話 肝試し大会ときてぃさん
第24話―――②
悪霊といえば、元邪神のゼラリスなら詳しいだろう。
そう考えた一行は、週末の闘技場大会に向けて準備を進めている堕ちた神ゼラリスと、その恋人である下級女神エアリスのもとを訪れた。
「『恐怖』ですか。それなら、例えばサタン様はどうでしょう。あの方の前に立つと、震えが止まりませんし」
「サタンって、あの人でしょ? 超美形じゃない。あれは逆に、女のほうから襲われるわよ」
「こずえ先輩、怖いというなら執事様はどうですか? ボクも、あの方の前だと震えが止まらないですし」
「そうね。暗闇から執事さんが、あの白い顔が急に、ぬっと現れるのを想像してみて。
きゃあああ、ってなるより、あまりの恐怖で恐慌状態になって痙攣を起こし、泡を吹いて失禁して気絶するだけじゃない?
そういうガチモンとは、ちょっと違うのよね」
『怖いにも色々あるけど、俺は死への恐怖が一番怖いな』『俺も。死ぬの怖い』『僕は高い所が怖い』
「死の恐怖ですか。
でも、お嬢様の場合、そういうのは無いんじゃないですかね?記憶からでも蘇生できるんですし」
「高い所が怖い?空を飛んだり、転移すればよいのでは?」
メイドは不思議そうに頭を傾ける。
「難しいですね。
一応こちらでも、邪神仲間から下級ゴーストまで、色々声をかけて集めてみます」
―――
迎えた当日。
辺りは暗くなり、不気味な雰囲気に包まれている。
天候は女神こずえが何とかしたらしく暖かいため、参加者たちは浴衣姿だった。
お嬢様、女神こずえ、地球・異世界からの一般参加者、元勇者パーティーの面々など、多くの人々が集まっている。
今回、レンやメイドは実行委員会のメンバーとして裏方業務に就いている。
ルールは単純。
ペアを組み、それぞれ目的地まで向かい、そこにある物を持ち帰ってくる。
配信ドローン先輩は分裂し、各ペアの様子を同時配信。
会場の巨大スクリーンでもリアルタイムで観戦できる。
なお、緊急医療チームや、ギブアップ時の救助チームなども政府の協力により配置され、万全の体制が整えられていた。
目的地までのルートは数十通り。
―――
そして各ペアが一斉にスタートする。
―――ある一般参加者ペア
「ダイジョーブだって。俺がついてるからよー」
「さすがタカシ♡ ちょーイケてる」
草むらから、突然現れる特殊メイクを施された魔犬ケルベロス。まさに地獄の番犬。その凶悪な顔で唸り声を上げる。
「……」
白目をむいて倒れるチャラ男とギャル。
即座に救助チームが回収に入る。
『俺もチビった』『これはチャラ男に同情』
『モフモフの欠片もない』
―――獣人男性と日本人女性のペア
突然現れる、特殊メイクのアークデーモン――A級モンスター。まさに悪魔の中の悪魔。
「逃げろ! 俺が何とか時間を稼ぐ!」
「で、でも……」
「お前のために死ねるなら、本望さ!」
アークデーモンに立ち向かう獣人。
「いやあああ、ギザリスーーー!」
救助チーム出動。
―――元勇者パーティー。戦士ダレンと魔法使いニーシャ。
「こんな暇があるなら、ジムで体を鍛えたいのだが」
「私だって嫌よ。家でヤーチューブ見たいのに」
小岩の上に、全身が白く、黒い瞳をしたパンツ一枚の幼い少年が座っていた。
少年は顔を上げ、不気味に口をくぱぁと開ける。
慌てて駆け寄るニーシャ。
「どうしたの、君?
そんな格好じゃ寒いでしょ? お姉さんがギュッと抱きしめてあげる」
異様によしお君をベタベタと触るニーシャ。
『よしお君、けっこうそっちの人に刺さるしな』
『ニーシャさんの顔ニヤケてない?』
―――土呂野勇者と僧侶サマンサのペア
夜の山道を進む二人は、並んで歩いていた。
サマンサは少しだけ逡巡した後、意を決したように土呂野の腕にそっと絡む。
「……勇者様。わ、私……すごく怖いです」
「え? サマンサがこういうの苦手だったとは意外だな」
「もう……私だって女の子なんですよ?」
「はは、ごめんごめん。それより――浴衣姿、すごく似合ってるよ」
その一言に、サマンサの頬がわずかに赤く染まった。
二人とも人気者だ。
土呂野には女性ファンが、サマンサには男性ファンが多い。
当然、配信は荒れる。
『あの女! 私のヨシヒトさんとベタベタしやがって!』 『何が「すごく怖いです」だよ! だったら召喚でシンペイ呼べよ! そこら一帯血の海に変わるわ!』
『サマンサちゃあああん……』『暗闇に紛れて土呂野を何とかできないものか』
そんな二人を、木の影からじっと見つめる存在があった。
白い服、長い髪。そして血走った目。
特殊メイクによって、さらに恐怖度が上がったゾンビ女――ゾンビ貞美。
「きゃあ♡」
ここぞとばかりに、サマンサが土呂野に抱きつく。
『わざとらしい!』 『それを浄化する専門家でしょアンタ!』 『貞美さんじゃ土呂野は殺れないかー』
土呂野は真剣な表情で一歩前に出た。
「君、怪我をしているね! 大丈夫かい? 安心して、今すぐに手当を!」
即座に放たれるサマンサからの完全回復魔法。
貞美の身体は淡く光り、傷一つ残らず癒える。
「……勇者様、あの女性はもう大丈夫です。先を急ぎましょう♪ 」
貞美はその場に立ち尽くしたまま、頬を赤くし、血走った目で二人を見ていた。
―――銀髪の美少女と女神こずえのペア
「手を繋いで歩くのがルールなの」
そう告げられ、二人は自然に手を繋いで進んでいた。
それを物陰から見ている存在がいる。
特殊メイクを施された高位の邪神――ボズズ。
少女の姿を見た瞬間、ボズズの足は震えた。
(あれは、ヤバいな……帰りたい……)
だが、かつて面倒を見てやった後輩の、堕ちた神ゼラリスからの頼みと、
あのメイドの有無を言わせぬ依頼を思い出し、歯を食いしばる。
「……くそっ、やけくそだ」
邪神が二人の前に飛び出し、仰々しく睨みつける。
「きゃああ!」
明らかに嘘っぽい悲鳴を上げ、女神こずえが少女に抱きつく。
たっぷり、遠慮なく、匂いを嗅ぐ。
『嘘くせーー!』 『いや、あれ相当ヤバい邪神じゃない?』『モノホンの邪神じゃん』
『あんな高位の邪神をどこから連れてきた!? 』
ボズズはしかし、内心で苛立っていた。
こんな茶番に付き合わされていること。
この誰もが恐れる邪神―――大神魔王ボズズが!
そして――
ほんの一瞬。
時間にして、0.00001秒にも満たない刹那。
苛立ちから、殺気が漏れてしまった。
次の瞬間――
誰も、何が起きたのか認識できない世界。
少女以外の全てが止まった世界で、
少女の護衛の任につく女護衛騎士団長が邪神ボズズを三百回、殺して消滅させた。
三百回で済んだのは、
「お嬢様に“怖い”という感情を教えるためだった」と
涙ながらに弁明したからである。
時間が動き出す。
女神こずえにも、視聴者にも――
ただ、ボズズが消えたようにしか見えなかった。
「……きゃあって、あれ?」
『消えた?』『あれ、ヤバい気配も消えてる』
その後、少女によって蘇生されたボズズは感謝し、地獄へ帰って行った。
―――
二人はさらに先へと進む。
そして、人形の中に入って動かすことしか能のない下級ゴーストが入った、廃墟のテーマパークにありそうな、ボロボロに朽ち果てた等身大のきてぃさん。
かつて人々に愛された愛猫が、長年誰にも見向きもされず、打ち捨てられたように、悲しげに、そこにあった。
ほんの一瞬だけ、こずえの手を握る少女の手に力が入る。不安そうな顔をした美少女。こずえはそれを見逃さなかった。
即座に、きてぃさんの等身大人形は完全に完璧で綺麗な状態へともどる。中のゴーストは幸せそうに浄化されていった。
ギュッと少女を抱きしめるこずえ。
「怖がらないで、大丈夫よ」
(よっしゃあああ、でかした下級ゴースト! 浄化されちゃったけど、あとからいい所へ転生させてあげる)
そして高速世界で作戦室にいるレンへ、念話で指示を飛ばす。
「下級ゴーストを集めて、きてぃさん人形に入れて。ゾンビきてぃさんや、色んなパターンでね」
―――
お化け役控え室。
「パイセン、そこ邪魔なんでどいてくれません?」
下級ゴーストが、上級悪魔バフォメットに偉そうに言う。
「パイセンたちはそこで見ててくれません? じぶんら、上に行くんで」
指で天を指さす下級ゴースト。
――
少女の前に次々と現れる、ゾンビきてぃさんや腹から綿の飛び出した、朽ち果てたきてぃさんなど。
少女の女神を握る手に、再び力が入る。
次々と浄化され昇天するゴーストたち。
新品以上に輝きを増す、回復されたきてぃさん人形たち。
騎士団には、動かないようにとメイドから伝令が伝わっている。
少女を抱きしめながら、「大丈夫、大丈夫」と繰り返す邪悪な笑みを浮かべる女神こずえ。
『たしかに、大好きなキャラクターのこんな姿を見たら、怖いというか複雑な気持ちになるわな』
『回復された人形、ちょっと笑顔になってるよね』
『ごめん、俺さ、何か罪悪感を感じるわ』
『これは、禁じ手だったね。みんな反省しよか』
『後でお嬢様に謝ろうよ』
この催しに関わった全ての関係者が、お嬢様ときてぃさんに誠実に謝ったという。
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