第23話 ジャパニーズホラーとよしお君【挿絵あり】
第23話―――①
城かと見間違うほどの大屋敷、その大広間。
重厚なカーテンは閉め切られ、巨大なスクリーンの前には屋敷の関係者ほぼ全員が集まっていた。
お嬢様。
お父様。お母様。
曽祖父母。
執事。メイド一同。
護衛騎士団一同。
「私の可愛い可愛い貴女。今からその「えいが?」というものを見るのね。」
「はい、お祖母様、人間界のホラー映画なんです」
「大奥様。お嬢様が懇意にしておられる地球という惑星の、日本と言う国でとても人気があるシリーズ作品でございます」
「お祖母様やお祖父様とご一緒に見たくて。とても、怖い映画だと聞きましたから」
「まあまあ、なんと可愛いらしいの貴女は。おばあちゃまがいれば何も怖い事などないのよ。ほらーえいが、でしたかしら?」
「しかしそのほらーえいがの、「怖い」というのはどんな感情なのかな?」
大旦那様が不思議そうに言う。
「この映画の紹介文には『これを見た時、あなたは本当の恐怖を知る』と書かれております。大旦那様」
「なるほど、これを見ればそれがわかる仕掛けか」
そこへメイドたちがポップコーンとコーラを運んでくる。
「あら、これは何かしら?」
「お祖母様。映画を見る時は、これらを食べながら見るのです」
「まあ、貴女は物知りなのね、この白いのが食べ物?」
そう言って大奥様は、ナイフとフォークを使って優雅にポップコーンを一粒口へ運ぶ。
「お祖母様、ポップコーンは手で持って食べるのですよ」
「ふむ、手で持って食べるとな? はて、手でどうやって物を食べるのかな?」
「お爺様、こうやってです」
少女がポップコーンをひとつ掴むと、祖父にあーんと食べさせる
「おお、おお、これは素晴らしいわい」
孫娘にあーんをしてもらい、大喜びの大旦那様。
「執事や、この、ぽっぷこーんを考えた人間に褒美を取らせなさい。財宝でも永遠の命でも、望みの物を与えるように」
「仰せのままに」
―――
そして映画が始まる。
タイトルは
『邪怨螺旋リング』
あまりの恐怖に失神者が続出し、公開中止になった幻の作品。
しかも「観た者のもとに“出る”」という、いわく付きの映画だという。
「ふむ、楽しみじゃのう」
「おばあちゃまにもぽっぷこーんを食べさせて頂戴」
少女はずっと曽祖父母にあーんと食べさせ続けた。
メイドや護衛騎士達までもが期待に満ちた空気の中、映画は静かに始まった。
―――
映画も終盤に差し掛かる。
――白黒の映像。
――古い祠。
「……」
そしてその祠の中から白い服を着た、髪の長い女が俯きながら現れる。
「……」
「この可愛らしい女の子、黒くて、ずいぶん長い髪ね」
「どこか体調が悪そうに見えるのお」
「お祖母様、あーん」
「なぜこの女は俯いているのだ。顔を見せぬか!お嬢様に無礼であろうが」
女騎士団長が声をあげる。
剣に手をかけ、画面の中の、異様に髪の長い、陰気で無礼な女を斬って捨てようとする。
「ダメ。これあげるから」
女騎士団長にもあーんでポップコーンを与える銀髪の少女。
「……お、歩き出したぞ」
画面の中の、白い服を着た、髪の長い女が、俯いたままこちらへ歩いてきた。
―――
この映画は呪いの映画と呼ばれ、実際に、見た者が顔を引き攣らせ、気絶する事例が勃発したため、数多くの霊媒師や除霊師がお祓いを行ったが無駄だった。
ある祓い師曰く、とても強力な呪いがかかっており、祓う事はおろか、破壊する事もできぬ、といういわく付きの物。
これを見た者達が、一様に言った言葉。
「お、おんなが、髪の長い女が、あああ、や、やめろ、あああ、来るなあ」
―――
ゆっくりと。
ゆらゆらと揺れながら、こちらへ歩いてくる。
そして――――
女の、異常に長い髪が、画面の縁から、不気味に這い出してくる。
まるでこちらの世界へ侵食するかのように。
続いて、女の上半身が画面からせり出した。
その瞬間――
女―――**貞美**が、正面を向く。
血走った目。
それは、生者のものではなかった。
「きゃあああああああああああああ」
―――悲鳴。
―――貞美は気絶した。
―――
同じ頃、一人のメイドがお代わりのポップコーンとコーラを準備するために、玄関ホールを歩いていた。
二階に伸びる螺旋階段。ふとそこに目をやる。
―――全身が真っ白で、裸の、真っ黒な瞳を持つ幼い少年が俯いて座っていた。
「あら?そんな格好で可愛らしい子ね、どこから来たの?」
幼い少年が、その真っ白な顔を上げる、そして真っ黒で気味の悪い瞳がメイドを捉える。
くぱぁと不気味に口を開け、
「……」
―――そのまま気絶した。
―――
真っ白い顔、黒い瞳の幼い少年が目を覚ますと、そこは。
ふかふかのベッド。
清潔な客間。
隣のベッドには、見覚えのある長髪の女性。
「貞美さん?」
「よしお君!?」
二人は思わず抱き合い、ガタガタと震え、えんえんと泣き始めた。
そこへ、静かに扉が開く。
「お二人とも、気が付かれましたか?」
にこやかな笑顔で、お嬢様付きのメイドが入ってくる。
「め、めいどが、髪の長いメイドが、あああ、や、やめて、あああ、来ないでええ」
痙攣を起こし、恐慌状態になるよしお君。
床を這うように逃げ出そうとする貞美。
「ひ、ひいい、た、助けてえ」
―――
「落ち着かれましたか」
「は、はい。すみません」
貞美とよしお君は、ふたりは何者で、決して怪しい者では無いこと、恐怖の呪いを拡散する、そういう役割だと告白し、命ばかりはと懇願した。
「そうでしたか、なるほど。
結局、屋敷の誰一人として、恐怖という物が何なのか分かりませんでした。
あのお嬢様のとても残念そうなお顔。お嬢様の学びの為にも、お二人にはぜひ協力をお願いしたいのです」
―――
東京某所。
カフェで女神こずえと、レンが話している。
もちろん配信ドローン先輩と、いつもの視聴者達も一緒だ。
「女神様、次の、あのお嬢様の案内企画はどういたしましょうか? 」
「やだ、レン君。私のことは今まで通り、こずえでいいわよ。あと普通に話してね? 」
「そうですか、わかりました。じゃあ遠慮なく。
そういえば元々のこずえさんは元気でやっていますか?」
「直接電話する?はいこれ、あの子の電話番号」
「スマホ持っていけるって本当に便利ですよね」
「昔はだめだったんだけどね。今はほら、自分が死んで異世界に行っても、残された、悲しむ者はいないって言う理由付けの為に、親がもう他界してるとか、そんな設定が多いじゃない?」
「たしかに」
『なるほど』『これ俺らも聞いていい内容?』
『異世界新幹線とかあるし、今更じゃね?』
「とにかく、そういうのが問題視されてね、スマホで、いつでも連絡できればそんな設定要らないじゃない?」
二人がそんな事を話していると、そこへメイドと、陰気そうな女とパンツ一枚の白い子供が現れる。
―――
「ということで、お嬢様に恐怖という感情を知ってもらう為に、ホラー映画のような恐怖体験を考えてほしいのですが。
何か良いアイデアはございますか?」
「時期が違うけど、肝試しなんていいかも?一般の参加者も募って。肝試し大会をやればどうかしら」
「夏によくやる、ペアで目的地まで行って、道中で色々と怖い体験をするやつですよね」
『浴衣着てやろうぜ』『肝試しと言えば浴衣』
「さすがに寒いのでは?」
「それいいわね、天候くらいこっちでチョイチョイっといじるわよ。
そっちの二人は悪霊ね?そんな見た目じゃ誰も怖がらないわよ?私がメイクしてあげる」
「……はい。一応私達もそれなりに有名な悪霊というか…」
『貞美さんワロタw』『よしお君、映画見たよー』
『やっぱあの映画呪われてたか』
『ワタシワ、アノエイガ、コワクアリマセーン』
「わかったわ。もっと恐ろしい悪霊がたくさん必要ね、メイドさんや、みんなも何か心当たりない?」
「悪霊、ですか…バフォメットとかアスタロトとかアークデーモンとか、そういう系ですかね?」
「ひいいい」
悪霊の二人が、挙げられた名前を聞いて怯える。
業界の大大大先輩だった。
「なんか弱いわね、その程度じゃ 怖がるのは子供だけよ、頑張って世界中から色々ヤバいのを集めましょ♪」
このイベントに誰よりも乗り気な女神こずえ。
(あの子と私でペアを組んで……キヒヒ、怖がるフリして抱きついちゃお。匂いも嗅いでやるわ)
悪霊のよしお君は、真っ黒な、キラキラした眼差しで女神こずえを見つめていた。
(この綺麗な女の人…すごく…邪悪な感じがする)
『廃墟の遊園地にある人形不気味じゃね?』
『お、廃墟のきてぃさん、結構イケるかも?』
『並の悪霊じゃ、そっちが逃げ出すからなー』
―――
お嬢様に内緒で、お嬢様に恐怖を教える計画が始動した。
第24話に続く。
余談ですが、私達日本人は夜、人気の無い道を歩けば、不気味さを感じますよね。お化け的なのが怖いというか。
ある外国の方に聞きましたが、その国では、そういう幽霊的な怖さは全く無く、人攫いや変質者など、物理的に何かしてくる人間が怖い、と言っていたのを思い出しました。
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