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若葉の苦悩


 モンスターを倒した時。

 イゾウさんとリョウマさんのライフは半分程になっていました。

「武器なしがこれほど辛いとは思わなかったよ」

「ああ、まっこと大変だったせよ」

 二人ともボロボロで、私だけ何もしてない。

 何にも出来なかった。


「だけど何でパンを選んだが? ライスって言ったろうが?」

 違うの、私はちゃんとライスを選んだんだよ。

 でもいつの間にかパンになってたんだよ。

「ま、まぁ済んだ事だし、しょうがないよ。緊張すれば間違っちゃう事あるし」

 違うよ、ちゃんと選んだんだよ。

 確認したもん。間違いないもん。

「次からは気をつけるぜよ。またこんなの出たら全滅ぜよ」

「気を取り直して先に進もう。若葉も気にしないで」

 両手をいくら振ってみても、私の思いは届きません。

 間違ってないのに、絶対おかしいよ。

 でも、それを伝えることは出来ない。

 何だかとても胸が苦しい。



――図書室――


 

 食堂のドアを開けると、そこには山の様な本が所狭しと積まれていました。

 食堂の隣に図書室? そんな疑問は忘れましょう。

 ここはルミエスタですから。

「本がこじゃんとあるぜよ。わしは本が苦手きに、頭が痛くなりそうじゃ」

「すごい量だな。まさかこの中から探せとかじゃないよな」

 イゾウさんの予想は見事当たりました。

 私も何となく嫌な気はしていたんだけど。


「まいったなぁ、どうしようかな。何処に行ったのかなぁ」

 ぶつぶついいながら、一人の男性が現れました。

「おお、君達いい所に。いや、大事な本を失くしてしまってね。良かったら探すのを手伝ってくれないか?」

「わしは嫌ぜよ、自分で探せばよか」

「そんな事NPCに言ってもしょうがないよリョウマ」

 途方も無い、宝探しの始まりでした。


「本の表紙は赤くて、中には何も書いていません。うっすらと光る、魔道書なんですよ」

 NPCさんはそれだけ言うと、スーッと消えていきました。

「おいおい、それだけが? ヒントが少なすぎて分からんぜよ」

「うっすらと光るって言ってたから、意外と見つけやすいかもしれないよ。とりあえず手分けして探してみようか」

 おー! って言いたいけど言えません。

 とりあえず手を上げるだけ。本当に不便です。


 三人バラバラで、本を探し始めます。

 それにしてもすごい数の本ですね。

 リアルの私じゃ絶対届かない高さの本棚。

 ぎっしり詰まってます。床にも落ちてます。

 小さい頃はよく宝探しして遊んだな。

 今じゃ出来ないから、少し楽しいです。


 あれ、あの本今光ったような気がする。

 近づいてみると、確かにうっすら光っていました。

 赤い表紙、中には何も書いてない。

 もう見つけちゃった。意外とあっさり。

 でもこれでさっきの失敗は取り返せますね。

 二人とも褒めてくれるかな。


 いたいた。イゾウさん。

 声を掛けたいけど出来ません。急いで駆け寄ります。

「あ、もう見つけたの? すごいじゃん!」

 へへん。私だってやれば出来るんですよ。

「見つけたが? もうわし探しとうないぜよ」

 リョウマさんも来ました。

 ふふん。腰に手を当ててドヤ顔です。

 尻尾もいつもより多く振っています。ぶんぶん振ってます。


「若葉、これ違うぜよ。中身白紙言うちょったやろ」

 えっ? そんなはす無いよ。だってさっき何も――。

 イゾウさんの手に広げられた本には、文字がびっしり。

 どうして? 絶対おかしい。

「まぁ、めげずに探そう。頑張ればすぐだよ」

 違う、違うよ。絶対おかしいの!

 ちゃんと確認したよ! 書いてなかったもん!

 あ、行っちゃった……。

 全然伝わらない。言葉ってこんなに大事だったんだ。


 何だろう、面白くないな。

 久しぶりの宝探しなのに。

 折角三人で集まれたのに、全然面白くない。

 あ、あそこの本光ってる。

 赤いし、書いてない。間違いないよね。

 もう一回確認。うん、間違いない。


 リョウマさんとイゾウさんが同じ列の本を探してる。

 何か、いいな。

 楽しそうにお話して、仲間はずれになった気分。

「お、若葉見つけたが?」

「ちょっと見せてくれる? あ、それ違うよ」

 何で中も見ないで分かるの?

「若葉、表紙は赤だって言ったろう。これ真っ黒ぜよ」

 どうして、さっきは赤かったのに。

 確認したのに、ちゃんと見たのに。

「頼むぜよ。わしは一時も早くここを出たいんじゃき」

 私だって、早く出たいよ。早く皆とおしゃべりしたいよ。

「ま、まぁ。しょうがないよ。見間違えたんだよ、ほら、ここ薄暗いしさ」

 そうじゃないよ。見間違いなんてしてないよ。

「それにしても酷すぎるぜよ。さっきは死に掛けたし、もっと真面目にやってもらわんと」

 何で私だけなの。

 話せないし、おかしいのも伝えられないし。

 もう嫌だ、もう嫌だよ!


 気がついたら、頭が真っ白になってた。

 持ってた本を、思いっきり床に叩き付けた。

「わ、若葉さん……」

 やっちゃった。私また。

「あっ! わかばん待って!」


 逃げました。

 出ちゃった、私の悪い癖。

 もうしないって思ってたのに。

 嫌われちゃったかな。折角仲良くなれたのに。


 座り込んだ瞬間、目の前にまた光る本がありました。

 これ、どうせ偽物なんだ。

 また見せに行けば違うって言われる。

 もう行けないよ。

 あ、イゾウさんがこっちに来る。

 どうしよう、見せた方がいいかな。

 とりあえず見せて、また違ったらもう探すのやめよう。

 イゾウさん、これ――。

 

――役立たず。

 私の手から、本を叩き落し一言。

 それだけ言って、イゾウさんは行ってしまった。

 怒ってるんだ。さっきの事。

 もう、どうしていいか分からないよ。


「わかばん!」

 リョウマさんが走ってくる。 

「わかばんごめん、アタシちょっと言いすぎたよ」

 口調がりょうこさんに戻ってる。

 いいんです。私が悪いんです。

 私、役立たずだから。

 ゲームでも、リアルでも。


「あ、その本……」

 さっきイゾウさんに叩かれた本。違うやつなんだよ。

「これだよ! これこれ! お〜いイゾウ! 本があったぜよ〜!」

 え? だってさっきイゾウさんが……。

「本当? どれどれ? おお! 間違いないよ! よくやったな若葉」

 イゾウさん、さっきの冷たい顔は嘘の様。

 許してくれたのかな。

 もう怒ってないのかな。

 少し、ホッとしました。


「おお! 見つけてくださったのですね。ありがとうございます」

 NPCに本を渡すと、また新たな扉が開きました。

 本当に良かった。

 心が折れそうだったから。

 次からはちゃんと頑張ろう。

 負けるな若葉。

 もう逃げない、ってあの日決めたんだから。



――鏡の間――



 扉を抜けると、そこは一面鏡張り。

 あれ? 二人がいない。

 どうやら別々の所に飛ばされたみたいです。

 何だか目が回りそう。

 それにしてもやっぱりこの洋服可愛いな。

 狐さんの耳と着物。そして尻尾。

 尻尾なんてもふもふで、すごい気持ちいいんです。

 自分で言うのも何だけど、若葉も可愛い。胸も大きいし。

 足も長くて、綺麗で、ちゃんと動く。

 いいなぁ。


 って自分の姿に見蕩れている場合じゃありません。

 早く二人を探さないと。

 それにしてもここ迷路みたい。

 自分の姿がいっぱい反射して、たまにちょっとビックリします。

 あっ、あの長い金髪はリョウマさん。

 どっちだろう。こっちかな。

 鏡だらけで全然分かんないよ。


「それにしても――」

 あ、イゾウさんの声。

 やっと見つけた! イゾウさ――。

「あいつ邪魔じゃない?」

「確かに、役に立たないもんな全然」

 二人の会話、私の事……?

「ぶっちゃけあいつ置いて、二人でパーティー組んだほう早くないか?」

「言えてるわ。このままじゃクリア出来そうにないし、正直邪魔だよな」


――邪魔。

 確かにリョウマさんはそう言いました。

 そ、そうだよね。私邪魔だよね。

 元々、最初から私は誘われてなかったし。

 勝手に現れて、勝手に付きまとってるだけなのかも。

 迷惑、してたんだな。


 リアルでもゲームでも、私は何も出来ない。

 二人に迷惑かけてたんだ。

 馬鹿みたいだな私。

 勝手に仲間になったつもりで。

 勝手に友達だなんて思ったりして。


 そうだった。

 昔からそうだったんだ。

 私と一緒にいるのは同情。

 皆そうだったね、忘れてたよ。

 ごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい。

 邪魔してごめんなさい――。


 

   



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