パンとライス
――裏切りの館、食堂――
まず最初に入った部屋は広い食堂だった。
大きなテーブルの上には、三人の名前が書かれたネームプレートが置かれている。
「ここに座れ、ちゅうことが?」
「うん、多分そうなんじゃないかな」
いち早く席に着いた若葉さんが、ナイフとフォークを手にテーブルをトントンと叩いている。まるで子供の様だ。
「あー! めんどくさいめんどくさい!」
テーブルについてすぐ、奥の部屋から恰幅のいい女性のNPCが現れた。
ぶつぶつ言いながら僕達の方に近づいてくる。
「ちょっと聞いてよ! 奥様と主人はいつもいつも別々の料理を頼むのよ! 作る私達の身にもなってほしいわまったく!」
目の前で止まると、早口でまくし立てる。
設定は食堂のおばさんだろうか。
「そんな事言われても困るぜよ、なぁイゾウ」
「あ、ああ。まぁそういう設定だから仕方ないよ」
若葉さんは相変わらずフォークとナイフを握っている。
お腹でも空いているのだろうか。
「パンとライス! あんた達はどっちにするの!?」
NPCがそう言うと、テーブルの上に二枚の皿が現れた。
片方にはパン、もう片方にはライスが乗っている。
「なんだろうこれ、選べって事かな」
「ふむ、わしはライスぜよ」
そう言って、リョウマがライスの皿に手を伸ばす。
若葉さんもライスを取っていた。
フォークですくおうとしているけど、フォークはすり抜けている。
残念ながら食べれるものではないらしい。
「じゃあ、僕はパンにしようかな」
そう言ってパンを手に取った瞬間、NPCの顔が変わった。
「ああああああああああ! また別々に頼むの!? 分かった! 嫌がらせなんでしょ!?」
「お、おいイゾウ。何か怒ってるぜよ」
「あ、あはは。怒らせちゃったのかな」
地団太を踏みながら、顔を真っ赤にして叫ぶNPC。
そのまま元来た部屋に走って行ってしまった。
「な、何ぜよ、あいつ」
「もしかして一緒の選ばないといけないのかな? パンならパン、ライスならライス。三人一緒に、みたいな」
「そうだったのかもな、だけどこれどうなるが?」
呆然とする僕ら。いつの間にかテーブルの皿は消えていた。
その時だった。
「あー! めんどくさいめんどくさい!」
先程と同じように、奥の部屋から恰幅のいい女性のNPCが現れた。
ぶつぶつ言いながら僕達の方に近づいてくる。
「ちょっと聞いてよ! 奥様と主人はいつもいつも別々の料理を頼むのよ! 作る私達の身にもなってほしいわまったく!」
「どうやらもう一回出来るみたいだね。じゃあ皆でライスにしよう」
「了解ぜよ」
若葉さんも頷いていた。
「パンとライス! あんた達はどっちにするの!?」
テーブルの上に二枚の皿が現れる。
さっき決めた通り、目の前のライスを選択。
リョウマもライスを手に取った。
これで先に進めるのかな、そう思った瞬間。
「ああああああああああ! また別々に頼むの!? 分かった! 嫌がらせなんでしょ!?」
NPCが騒ぎだす。
どういうことだ? 確かにライスを選んだはず。
リョウマもライスを取っていた。
若葉さんの方を見る。
彼女の伸ばした手は、パンの皿を掴んでいた。
「あ、若葉さんそれ……」
「あ、若葉、何やっちょるが。ライスって言うたがねや」
キョトンとした顔で、彼女が皿を見た。
間違ったことに気付いたらしく、身体全体を使って謝罪する。
「ま、まあしょうがないって。間違いは誰にでもあるさ、次はちゃんとライスにしようね」
しょんぼりとした顔で頷く。
気を取り直して、僕達はまた席に着いた。
「あー! めんどくさいめんどくさい!」
三度目の登場。そりゃあめんどくさくもなるな。
皿が現れ、さっきと同じようにライスを選ぶ。
リョウマもライスを選んだ。
若葉さんも、今度はしっかりとテーブルの上を見ている。
これなら大丈夫だろう、そう安心した瞬間だった。
「わかばん! それ――」
「ああああああああああ! また別々に頼むの!? 分かった! 嫌がらせなんでしょ!?」
NPCの絶叫が響き渡る。
一部始終を見ていた僕らは驚いた。
一呼吸置いて、まっすぐパンの皿を取る若葉さん。
その衝撃はリョウマの口調が元に戻るほど。
困惑した表情で固まる若葉さん。
その時、NPCの様子が変わった。
「嫌がらせ! 嫌がらせ! ゆるさないいいいいいいいい!」
見る見るうちにその姿を変え、モンスターが現れた。
もはや人間の原型も留めない、おどろおどろしい姿。
顔に当たる部分、幾多もの目がせわしなく周りを見渡し、背中から生えた二本の腕には大きなナイフとフォークが握られている。
「ま、マジっすか……」
「とりあえず出口に走るぜよ!」
一目散に扉へと向かう。
しかし扉は堅く閉ざされ、ビクともしなかった。
「開かんぜよ! とりあえずやるしかないき! 行くぞイゾウ!」
リョウマの合図で敵に突っ込む。こうなったら戦うしかない。
先に攻撃を仕掛けたリョウマに、敵が気を取られた隙にスキルを準備。
――スキルが発動しない?
そういえば僕は素手じゃないか。
スキルが使えないとなると、正直きつい。
「若葉! 歌ってくれ!」
こうなったら攻撃力を上げてひたすら殴るしかない。
彼女の方を見ると、彼女は悲しそうな顔で首を振っていた。
そうか、若葉さんはサイレントだった。
そう思った次の瞬間、身体に衝撃が走る。
振り回した敵の拳が、僕の顔面に叩き込まれた。
攻撃をまともにくらって吹き飛ばされる。
ライフが三分の一程削られた。
普通の敵より攻撃力が高い、ボス級だ。
「大丈夫か!?」
「ああ、ちょっと油断しただけだ!」
冷静になれば大丈夫。武器が無くたって戦えるさ。
体勢を立て直し、モンスターに殴りかかった。




