諒子の訪問
――イベントフィールド――
「おっ? どうしたと? 戻って来たぜよ」
「あれ? 何でここに居るんだ?」
さっきまで館の中にいたはずなのに。
アタシ達は外にいた。いや、戻されたのかな。
「どうなっちゅうが。ん? 若葉が居らんぜよ」
「本当だ。あ、ログアウトしてるよ」
パーティーメンバーにわかばんの名前が無い。
フレンドリストもログアウトになってる。
「若葉の回線が切れたのかな? だから戻されたんだと思うよ」
「ふむ、それじゃあしばらくここで待つぜよ」
回線の調子でも悪いのかな。
あんまり切れる事って無いんだけど。
その場でしばらくわかばんの帰りを待つ。
落ちてから一時間か、ちょっと心配だな。
「一旦落ちてみようかな。リアルで連絡来ちょるかもしれんき」
もしかしたら何か理由があってログイン出来ないとか。
それだったら連絡が来てるはず。
「あ、うん。じゃあとりあえず待ってるよ」
「ほいたら、すぐ戻るきに」
「行ってらっしゃい」
――諒子自宅――
電話もメールもなし、か。
とりあえずメール送ってみよう。
鏡の間ではぐれたっきりだし。
もしかしてモンスターにやられた?
いや、それじゃあログアウトはしないか。
どうしたんだろう、ちょっと心配だな。
しばらく待っても返事はなし。
電話を掛けても留守番。
何か嫌な感じするなぁ。
さっきのわかばんの態度、ちょっとびっくりした。
突然本を投げたりするなんて、アタシのせいかな。
キツい言い方に聞こえたのかもしれない。
もっと気を使ってあげれば良かった。
――イベントフィールド――
「おかえり。若葉どうだった?」
「メールも電話もダメだったぜよ」
「そっか。どうしたんだろうね」
「うん。ちょっと言い過ぎたのかなって思っちょる。そんなつもりはなかったんだけど、ほら、この口調だとキツく聞こえたのかなって」
「う〜ん。僕はそうは思わないけど。そんなにキツい言い方でもなかったと思うよ」
アタシもそうは思うんだけど。
わかばんがイライラしてたのは事実だと思う。
「とりあえず今日は解散だね」
「うむ。明日の朝、若葉の家に行ってみようと思うぜよ」
とりあえず心配だから様子を見に行こう。
もしかして具合でも悪くなってるのかもしれないし。
「うんうん。何かあったら連絡してくれよ」
「うむ、ほいたらな」
とりあえず、明日早くに訪ねてみよう。
そう思って、アタシは早めにベッドに入った。
――柿崎家――
「あら、諒子さんじゃない」
インターホンを鳴らして、出てきたのはわかばんのお母さん。
「おはようございます、朝早くすいません。若葉ちゃん居ますか? 昨日から電話通じなくて」
そう言うと、わかばんのお母さんは少し困った様な顔をして。
「とりあえず上がってくださいな。立ち話もなんでしょうから」
「じゃあ失礼して。お邪魔します」
「はい。コーヒーでよかったのよね」
「ありがとうございます。頂きます」
前も飲んだけど、わかばんの家のコーヒーは美味しい。
高いんだろうな。ウチのインスタントとは大違いだ。
「若葉ね、昨日から出てこないのよ」
少し困った様な顔で、お母さんが言った。
出てこない? どういう事?
「出てこないって、もしかして中で倒れてたりしませんか?」
「それは大丈夫。心配ないわ」
そう言って、一枚の紙を出す。
小さなメモ用紙には、たった一言。
――ほっといて。
それだけ書かれていた。
「何かあったのかな? ゲーム?」
「あ、いえ。正直良く分からないんです。でも、もしかしたら若葉ちゃんを傷つけちゃったのかもしれません」
「そうなんだ。まぁ、すれ違いは誰にでもあることね」
「それでちょっと気になって来たんです。もしアタシのせいだったら、ちゃんと謝りたくて」
ふと、お母さんは腕時計に視線を落とし、ハッとした顔で言った。
「あら、ごめんなさい。私そろそろ仕事に行かないと。じゃあ後は任せたわ、頑張ってね」
「えっ? ま、任せたって言われても」
「鍵はスペアがあるから、ポストにでも入れといてくれればいいわ。じゃあ若葉をよろしくね」
呆気にとられるアタシをよそに、パタパタと行ってしまった。
い、いいのだろうか。
あまりにも大胆すぎじゃないか?
驚きのあまり固まってしまったよ。
テーブルの上に置かれた、一枚のメモ用紙。
たった一言だけの、拒絶の意思表示。
わかばんは傷ついてるんだ。
この前わかばんのお母さんから聞いた、彼女の真実。
紙を見ながらアタシは思い出していた。




