諒子の戸惑い
「アタシ達が邪魔だって言ってた!?」
わかばんの口から飛び出した爆弾発言。
思わず声のトーンが上がる。
「だって、鏡の部屋で聞こえたんです。それで悲しくなって……」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そもそも、あそこでアタシとイゾウは一緒じゃなかったよ」
そうだ、あの鏡の迷路みたいな場所。
あそこではアタシは誰とも会っていない。
「その前の図書館でも、イゾウさんにバンって本叩かれて。『役立たず』って言われて……」
「な、泣かないで泣かないで。それにしても、イゾウがそんな事するはずないだろ」
「喋れないし、パンだし、本は嘘だし、私もうどうしていいか分からなくなって……」
「あああ、ほら、ティッシュティッシュ! 鼻かんで」
「うう……。すみません……」
涙でぐちゃぐちゃになったわかばん。
とりあえず落ちつくのを待って、話を整理した。
「そうだったんだ。まさかそんな事があったなんて、全然知らなかったよ」
「勝手にログアウトしてごめんなさい……。でもあの時はすごい辛くて……」
「いいよ気にしなくて、誤解も解けたみたいだし良かった。それにしても、アタシ達の偽物か。それは厄介な話だね」
「本物そっくりでした。見分けがつかないほど」
「うーん。あ、そのリョウマってアタシの『なんちゃって土佐弁』も使ってたの?」
わかばんは少し考えて、ハッとした顔で言った。
「そういえば言ってませんでした。普通に話してた気がします」
「お、じゃあ問題ないね。次からはそれで分かるんじゃないかな。流石に話し方まではまね出来ないと思うから」
「はい。次はちゃんと頑張ります!」
本当に悲しかったんだろうな。
アタシでもそんな事言われたらグサっとくる。
イベントフィールドで、プレイヤーが揉めてた理由がやっと分かったよ。
『裏切りの館』
一筋縄じゃいかなそうなイベントだ。
「まぁ何にしても良かった、もう一人で抱え込んじゃダメだよ。アタシ達は誰も裏切ったりしない、友達だもん」
優しくわかばんを抱きしめる。
何だろうな、ギュってしたくなるんだよね。
「ありがとうございます。本当に嬉しいです」
「よしよし、いい子だね」
頭を撫でる。髪の毛さらさらで気持ちいいな。
いい匂いするし、ん〜、女の子の匂いって感じするわ。
「りょうこさん?」
「あっ! いや、そうじゃないよ! 何でもないよ!」
危ない危ない。嗅ぎすぎたわ。
これじゃアタシ変態みたいじゃない。
「と、とりあえず一安心っていう事で。じゃあそろそろアタシ帰ろうかな」
「これからお仕事ですか?」
「いや、今日は休みだよ。ルミエスタに行こうかと思ってる」
「そうですか。じゃあ私も行きますね。昨日のリベンジを果たします」
「よし、いい心がけだ。じゃあまた後でね」
「はい、じゃあ玄関までお送りします」
元気になったわかばんに見送られ、彼女の家を出る。
良かった。何となく、距離が縮まった気がしたよ。
トラブルを乗り越えて、アタシ達は強くなるんだ。
この絆は簡単に切れるもんじゃない。
ゲームなんかに負けてたまるか。
あ、とりあえずアキラに電話しておこう。
解決したって教えてあげないと。
「もしもし。あ、諒子さんおはようございます」
「おはよー。ちゃんと宿題やってる?」
「僕を侮らないで下さいよ。珍しくちゃんとやってます」
「お、偉いじゃない。今わかばんの家に行ってきたんだけど――」
「そうだったんですか。それは中々キツいですね」
「うんうん。流石にそんな事言われちゃったらね」
「ですね。分かりました、じゃあ後で作戦を練りましょう。昼過ぎにはインすると思います」
「分かった。じゃあ宿題頑張ってね。うん、それじゃ」
宿題やってるなんて偉いじゃない。
頭いいのかな?
でも珍しく、って自分で言ってたっけ。
――駅――
ホームで電車を待つ間、ふと彼の事を思う。
彼女とかいないのかな。
結構可愛い顔してるし、女の子にモテそうなんだけど。
そう言えば、病院で彼の友達とかに会わなかった。
友達居ないのかなあんまり。
何となく、彼の事が気になる。
あんまり男って興味なかったけど、彼は一緒に居て楽しいし。
性格も悪くないんだよね。
でも四つも離れてるし、年上は嫌いなのかな。
あれ、アタシ何考えてるんだ。
違うよ、そんなんじゃない。
多分、そんなんじゃない……。




