番外編 秘密のふれあい
時期国王のデルフィと婚約中のリラは、すでにカイン城に住んで【賓客兼準王妃】として過ごしている。
あとは結婚式の日付をルーシュ国と話し合いが進んでいる。
そんなある日、リラはサキと厨房にいた。
「素晴らしいです、リラ様!」
はたから見ても大げさに手を叩くサキ、リラの目の前には少しいびつなジンジャーブレッドが焼き上がっている。
「全然素晴らしくないわ」
そう言いながらちらりと横を見れば、焦げは少ないものの、どう見ても堅そうだったり、生やけだったりする残骸が並んでいる。
「いえ、最後に作ったこの作品はとても素晴らしいです」
「作品と言うほど綺麗なものではないけれど…ほとんどサキの言うとおりに作っただけだし」
リラにしては珍しく落ち込んでいる、日々の感謝をデルフィに伝えることにした。
ライラとして過ごした時期に食事は良く作っていたので、サキに習いながら初めてのお菓子作りに挑戦してみたのだが。
「こんなに勝手が違うなんて、思わなかったわ……何より食材を無駄にしてしまうのが心苦しくて」
「大丈夫です、堅いものは砕いてスープのクルトン代わりに、生やけなものはちゃんと火を通して、私の朝食に頂きますから」
料理全般、お菓子作りも得意なサキは、落ち込んでいるリラを全力で慰める。
完璧に何でもこなすリラが、自分を頼り、助けられることが何より嬉しい。
「それにリラ様が作ってくださることに意味があるのです、デルフィ様も泣いて喜ぶんじゃないでしょうか」
「そんな、まさかそこまで……」
「ありえます!」
あまりにも自信満々なサキに圧倒されつつ、唯一出来たジンジャーブレッドを、お皿に盛り付けてデルフィの部屋へと向かう。
今は食事も終わりゆっくりする時間、毎日ではないが特に用がなければ、リラがデルフィの部屋にくることが多い。
(今日は何か予定がありそうだったな……)
そそくさとサキの元へ駆け寄った様子から、今日は部屋に来ないんだろうなと思う。
何気なく読んでいた本から顔を上げ、窓を見ると月が高い位置にある。
今日は三日月かだが、思い出すのはリラに告白したあの日。
(本当は告白する気はなかったが)
イリスのイタズラで、結果思いが通じた。
三日月も綺麗だと思うが、一人で見るのは味気ない。
(リラに、会いたいな)
――コンコンコン
「リラです」
タイミングよく来たようで、デルフィが迎えるようにドアを開けた。
「リラ、ちょうど会いたかったと思ってた」
そういうとリラは少し困ったような、それでいて嬉しそうな顔をしている。
「毎日顔を合わせておりますよ、数時間前も食事ご一緒しましたし」
「それはそうだが、二人きりで会うのとはまた違うだろ」
「もう、デルフィったら……私も、ずっと二人っきりになりたかったです」
広がる甘い空気にリラを招き入れようとしたデルフィだったが。
「こほん」
聞こえた咳払いの方を見ると、困ったような照れたようなサキがいた。
「申し訳ございません、邪魔者はすぐ立ち去りますので」
「サキッ、ご、ごめんなさい、私ったら」
「いえいえ、私はお仕事をするだけなので……こちら、リラ様からのプレゼントでございます」
そう言いながら手に持った銀のクロッシュを前に差し出す。
「リラ様のお手製でございます、失礼してもよろしいでしょうか」
まだ少し恥ずかしそうながら、必死に仕事をこなそうと冷静なフリをしているサキ。
そんなメイドを招き入れて、クロッシュを開けた中からお皿と、蜂蜜が入った器をテーブルに置く。
「これを、リラが?」
「はい、デルフィ様のために、一人で、おつくりになりました」
「なんと……」
あまりのことに声を失っているデルフィが、本当に泣いてしまうんじゃないかと思い慌てて訂正する。
「ち、違います、失敗もたくさんしましたし……サキに教わりながら、私はただ言われた通りにしただけで」
「いえいえ、これはリラ様の実力でございます」
「さすがリラだ……」
「そんな、たいそうなものではありませんから〜」
いくら訂正しても苦手だと言っても、デルフィとサキにとっては謙遜にしか聞こえないだろう。
「蜂蜜をかけてお食べください」
ともあれテーブルにジンジャーブレッドを置き、にやけそうな顔を押さえているのか、こほんと咳払いをしてから部屋をあとにするサキ。
リラは少し気まずいと思いながらも、デルフィの隣に座り、あらためて口を開く。
「私は今とても幸せです、このお城でも良くしていただいて……日頃の感謝を込めて作りました」
そう言いながらジンジャーブレッドに蜂蜜をかけてからデルフィにフォークを渡す、デルフィはというと嬉しくも少し複雑な表情で。
「感謝を伝えたいのはこちらの方だが……」
「いいんです、どうぞ食べてください」
リラの微笑みに心温かくしながら、デルフィはジンジャーブレッドを口に運ぶ。
「うん、とても美味しい」
「ふふっ、よかったです」
嬉しそうなホッとしたようなリラの表情に、デルフィはジンジャーブレッドを切ってフォークに刺し、リラに差し出す。
「リラも」
デルフィの言葉に頬を赤らめながら金色の髪を耳にかけ、差し出されたジンジャーブレッドを口にした。
赤く可愛らしい唇に、お菓子が吸い込まれていく様子にどきりとしながら「どう?」と彼女に聞くと。
「食べさせてもらう事に緊張して、味がわからないです」
と、眉をハの字にして照れている。
あまりにも可愛らしい言葉に、デルフィはリラの肩を抱き寄せた。
「っ!!」
急な事に驚いていると、今度はデルフィが困った声を出した。
「すまない、急に」
思わず抱き寄せてしまったデルフィ自身も、思わぬ行動だったらしい。
「いえ、その、お側にいられて、嬉しいです」
本心を伝え、身をゆだねるようにリラの力が抜ける。
デルフィは片方の手で、窓の外を指さした。
そこにはリラと一緒に見たかった三日月。
「あの時と月の形は違うが、綺麗だと思って、リラと一緒に見たかったんだ」
「本当、月が綺麗……」
「俺も、愛しているよ」
リラの言葉にデルフィが瞬時に返す、月を見たかったのは本当だが、もしその台詞が出たら、すぐ返事をしようと決めていた。
「あっ……ふふっ」
びっくり顔のあとすぐ嬉しそうに微笑むリラ、そして彼へ甘い声で懺悔する。
「もっと…触れたいと、思ってしまいました……お許しください」
一瞬だけ二人の視線が絡み合い、リラの揺れる瞳に決意が見え隠れする。
彼女は返事が帰ってくる前に、デルフィの頬にキスをした。
――チュッ
「……リラ」
「はしたない私を、嫌いになりましたか?」
結婚の約束をしているとはいえ、夫婦になるまで過度な接触をしないのが普通だ。
だからといってまたも眉をハの字にする彼女を、当然嫌いになるわけがない。
「俺も、お互い様だ」
そう言ってデルフィもリラの頬にキスをする。
――チュッ
「これは、二人の秘密だ」
「はいっ」
そう約束をして、リラの手作りお菓子を、お互い食べさせ会いながら愛を誓った。
本当はもっとあっさり完結する予定だったんです、でもデルフィとリラをイチャコラさせたいっと思ったら、いつの間にかもう数話出来上がっていました。
もう少々二人のイチャコラにお付き合いください。




