番外編 看病は聖女が来るまで
今日は一話のみアップします。
「い、い、いま、アイビー様が、せい、せい、聖女様を、つれて参りますのでー」
「落ち着けサキ、医者もそこまで酷くないといっている、俺たちにできる事は看病すうことだけだ」
リラが風邪をひいてしまった、結婚式の日付も決まり、慌ただしい日々の中疲労が溜まってしまったのかもしれない。
医者の判断ではそこまで深刻ではないというものの、苦しそうに顔を歪めながら寝ている姿は見ていられない。
とはいえ、慌てていてもどうしようもない、スズナに治療を依頼するべく、アイビーをルーシュ国へ派遣中だ。
「幸い今日の公務は終わっている、このまま俺が看病するから、サキは起きた時に、食べられそうなものを準備しておいてくれ」
「いえ、デルフィ様に移ると行けませんので、看病は私が」
「いや、言い方が悪かった……どうかリラの側にいさせてくれ」
その懇願にサキはハッとした、リラを溺愛するデルフィが不安なわけがない。
「……かしこまりました、デルフィ様も無理なされないでください」
そう言ってサキは部屋を出て行く、デルフィはリラを見つめながらぽそりと呟いた。
「……いたいの、いたいの、飛んでいけ」
幼少期に病弱だったデルフィに、リラがずっと唱えてくれていた呪文。
デルフィは能力者でもないし、その呪文で病気が治るわけではない。
しかし、リラの呪文で幼い頃に心の支えになったのは事実、
「いたいの、いたいの、飛んでいけ」
子供をあやすように、頭をなでながら呪文を唱えていると、眠っているリラの呼吸が荒くなっていく。
「うっ、うぅ」
「リラ? 苦しいのか?」
病状が悪化したのかと不安になるが、リラの口から漏れるのは。
「リラ、は、ここです…私、が、リラっ……本物のっ」
「っ」
うなされる言葉にデルフィの心が締め付けられる、リラが見ている夢は。
(俺がマリーを婚約者にしたときの夢だ)
全て解決してから、二人仲良く穏やかに暮らしていたが、そう簡単に傷は消えないだろう。
デルフィは騙されていたとはいえ、その当時リラにとっては加害者だった。
「リラ、リラ……」
名前を呼びながらリラの手をにぎると、少し息が整ったような気がした。
「リラ、もう大丈夫、もう間違えないから……俺の愛するリラは、君だけだ」
優しく声をかけてぎゅっと手を握る、そして祈るように呪文を唱える。
「いたいの、いたいの、飛んでいけ……いたいの、いたいの、飛んでいけ――」
「デルフィ、ありがとう」
その声に顔を上げると、リラが目を覚まし、優しく微笑んでいる。
「リラ!」
「心配かけてごめんなさい、デルフィ」
「謝ることではないだろう、まだ体調は治っていないんだから」
確かに目を覚ましているが、まだ汗をかき呼吸は荒い。
「デルフィの呪文で、すぐ元気になれそう」
「いや、俺にそんな能力はないさ」
「でも私には、とても良く効く薬だわ」
早く元気になってほしい気持ちと、いとおしい気持ちがふくれあがる。
そして心に、棘のように刺さる罪悪感。
「俺が、愛しているのは、リラだけだ」
「え?」
「もう、誰かと間違えたりしない……ずっと側にいる」
「デルフィ…」
その言葉に頷き、リラも嬉しそうに。
「はい、私も同じ気持ちです」
と答える。
つながれている手、見つめ合う二人。
言葉はなくとも気持ちは同じだと、今なら断言できる。
その証拠にどちらともなくお互いの距離が縮み……。
――シュン
「リラ様-、デルフィ様に風邪移りますよー」
「あー、瞬間移動の場所、間違えたー」
のんびりとしたスズナの突っ込みと、こうなることが分かっていたようなアイビーの白々しい台詞。
突然現れた二人に思わず飛び退き、顔を真っ赤にさせながら、デルフィはベッドを離れる。
「えー、こほん、ルーシュ国の聖女よ、どうか、リラ王女を助けてほしい」
「この状況でかしこまるのは、無理があるかと」
アイビーの突っ込みに、口をへの字にして黙るデルフィ。
ますます熱が上がってしまうリラは、汗がかなり噴き出している。
「えー、このままだと恥ずかしさで、症状が悪くなりそうなので、すぐ治しますね。
あと、デルフィ様も風邪が移らないように予防接種しましょう」
「へー、そんなことも出来るんですか」
「私も知らなかったのですが、イリスが旅立つ前に教えてくれたんですよ」
アイビーの質問に嬉しそうに答えるスズナの会話に、何もしゃべれないリラとデルフィ。
お互いをちらちら見ては、顔を真っ赤にさせる二人だった。




