番外編 親愛なる【友人】へ
スズナ側のその後のお話です、短いです。
【ブロッサムハート セラピー ~花係メイドの日常~】
主人公:スズナ
能力:枯れた花を蘇らせる力(真の力は万病を癒す聖女)
攻略対象
・チューリオ(王子)
・グラオス(護衛騎士)
・モクセイ(花係の仲間) 他
――これは、彼らと恋に落ちていくはずの物語。
「この世界は物語……その物語を作ったのが私」
スズナとモクセイは、イリスが旅立つ前日に、事実を聞いていた。
「……」
「おいおい、嘘だろ」
「本当……友人の二人には、伝えておきたかったの」
誰も知らないことを知っていたのは、作った本人だから。
イリスの真剣なまなざしに嘘がないと、スズナは確信していた。
「本当、に、創造主、だったんだ」
「そうね」
短い呟きに、スズナはそれ以上言葉を発することが出来なかった。
「だけど、この物語……私やマリーが住む物語は、書いていない」
二人は異質だった、イリスこと青野桜子が書いた物語には存在しないキャラクター。
「だから今、そしてこれから先は、私が書いた物語じゃない。
スズナ、モクセイ、チューリオ、リラ、グラオス、リリー……みんなが生きる、現実」
その言葉に、スズナもモクセイも何が言いたいのか理解する。
――みんなの中に、イリスはいない。
同時にスズナの目から涙があふれた。
「私は明日、マリーとこの国を出て行く…ここから先の現実に、イリスとマリーはい
ない……もう、再会することは、ないわ」
「いや、やだぁ…」
たまらずスズナはイリスに抱きつく、どこにも行けないようにしがみつく。
「ごめん、スズナ、ごめんね」
「だめなのか、ずっとこのままじゃ」
「だめだよモクセイ、このままじゃだめなの」
モクセイも止めたかったが、イリスの言っている意味もわかる。
本当に創造主なら、人の手に届く場所にいてはいけないだろう。
「スズナ、幸せな恋をして、幸せに過ごしてほしい……幸せならメイドでも、聖女でも、女王になったってかまわない」
「そんなのっ、イリスと一緒なら、ずっと、幸せっ、どんな待遇だって」
「ごめんね」
スズナの訴えに、イリスは謝ることしか出来ない。
「モクセイも、能力のことはこの国が守ってくれる、もう悲しいことは起きないから…幸せに生きて」
「……イリスは、人の、心配ばっか、してんなっ」
モクセイの言葉が途中で切れる、必死に耐えていた涙がこぼれたからだ。
そんなモクセイに、イリスはぽかんと口を開けて見つめた。
「…何、間抜けな顔して、ぐすっ、見てんの」
「いやまさか、モクセイが泣くとは、思わなくて」
「うるせー、見んな、そして行くなっ……」
「ごめん、ごめん、ねっ、うぅっ……もう、泣くつもり、なかったのに、ぐずっ、モクセイのせいだからっ」
結局三人とも大泣きし、どれくらいそのままだったかは分からないが、少し落ち着いたスズナが涙を流しながら顔を上げる。
「イ、 イリス」
「ん? なあに、スズナ」
「イリスも、幸せに、なってね」
「……ずずっ、うん、わかった」
友人であり花係の仲間として、国を救った三人は。
お互いの幸せを願って、それぞれの道を歩くこととなった。
イリスとマリーが国を出てから一週間、城の庭園には日常が戻っていた。
「国を救った聖女様、もうメイドの仕事は不要だよ」
メイド服を着て庭の手入れをしているスズナ、チューリオの言葉にも手は止めない。
「聖女なんてやめてください、私はただ、イリスのいうことを聞いただけです」
「病にかかった国王と、呪われたイリスを助けたのは、間違いなく君の力だ」
チューリオが正論を言っても納得していない様子。
「それでも、この庭はイリスと一緒に手入れした、大切な庭です……誰かに、任せたくはないんです」
「それなら、メイドじゃなくても手入れ出来る」
チューリオの意味深な言葉にスズナはあっさりと答えた。
「確かに、庭師って選択肢はありです」
「いや、多分そういうことじゃねぇと思うけど」
黙って二人を見守っていたモクセイだったが、思わずつっこんでしまう。
「いいですねー庭師、庭広いですから、モクセイさんも、いくら手があっても足りないのでは?」
そしてチューリオの護衛についていたグラオスも天然発言。
一人チューリオが悔しそうなガッカリしたような、複雑な表情をしている。
(まぁ、がんばれ、王子様)
心の中でひっそりと応援するが、鈍感で天然なスズナに、チューリオの恋心が届くのはだいぶ先になりそうだ。
「まぁ今は、イリスに勝てないかな」
小さな呟きがモクセイの耳に入り、答えるように「そうっすね」と呟く。
「何ですか? 今、イリスって言いまた?」
「何でもないよ、偉大な女性だったなって」
「はいっ、この世で一番偉大で、素敵な女性です!!」
そうキラキラ目を輝かせて語るスズナに、苦笑するしかない。
(イリス、お前でも知らないことがある)
モクセイは庭の手入れをしながら、もう声が届かない創造主に向けて思う。
(俺の愛が、一生成就されない事だ)
冷静でたまにぶつぶつ言いながらにんまり笑う変なやつ、だけど何より仲間思いで姉妹思い。
(俺の身代わりになってくれたり、妹がこれ以上の罪を重ねないように止めたり……お前は本当に、いい女だよ)
スズナはきっと王子や、密かに片想いしているグラオスが幸せにしてくれるだろう。
(せめて、イリスの代わりにスズナの行く末を、見守るかな)
愛する【友人】の顔を思い出しながら、スズナを遠目で見守るモクセイだった。




