第十六章 取り戻した幸せ、そして未来へ
その後、アグロは幽閉され、処刑とまではいかないが、財産没収と左遷。
そしてマリーは国外追放となった。だが――
「そんな、イリス様まで」
マリーとともにイリスも姉としての責任を取りたいと言ってきたのだ。
「イリス様のおかげで私達は救われたのです」
リラが説得するように伝えるが、イリスの意思は固い。
「うぅっ、イリスっ」
スズナもボロボロ涙を流し、それでも引き止める言葉を必死に我慢しているようだった。
モクセイも眉間に皺を寄せて、イリスを見つめている。
その様子に苦笑して「スズナ、モクセイ……元気でね」と呟いてから、リラ達を真剣な顔で見て伝えた。
「引き止めていただけるのは嬉しいのですが、この知識は、誰も手に届かないところに置いておいた方がいい…本来は未来なんて知らないほうがいいんです」
過去も未来も、能力者が誰なのか、その能力の使い方…イリスはすべて知っている。
「私は、この世界を、知りすぎている……」
作者としての愛があり、確かにみんなを見守りたい気持ちもあるが。
「此処から先は、みなさんが未来を紡ぐ必要があります、この知識を使わずに、幸せになってほしいんです」
こうしてイリスは、マリーとともにこの国を去るのだった。
「良かったんですか? 私は神と共に旅ができるなんて、幸せですけど」
つい数日前までイリスを憎んでいたが、今は反省もしているし作者としてイリスを尊敬している。
「今ね、続編の制作に取り掛かるところだったのよ」
それはゲームの話、次回作の作成発表があったのはマリーも当然知っている。
「今度はね、カイン国のお話で、メイン攻略対象はアイビーなの」
「え! そうなんですか!?」
「そうそう、だからアイビーの能力や、リラ関係の裏設定が多かったのよ。
リラに片思いをしているアイビーが、だんだん主人公に惹かれる描写を書くのが楽しくて楽しくて」
そんな構想をマリーに語る、当然この世界でかけないので発散するなら唯一の転生者であるマリーに話すしかない。
マリーも面白そうなストーリーに、その先を聞きたくてしょうがなかった。
「なるほどなるほどぉ、さすが神っ、面白そうです」
「でしょ? おもしろ、そうだよ…ね」
意気揚々と話していたイリスだったが、急に思い詰める。
「もっと、お話、書きたいよ」
「…イリス様」
「まだ、たくさん、アイディアあるのに…」
転生者として、自分が考えた作品を堪能していたイリス、だけど本当は悔しくて、悲しくてしょうがない。
「私達、死んじゃったのかな」
「……私も」
マリーは推しのために駆け抜けていたが、今になって重大なことに気づく。
「私も、もっと、プレイ、したいです、小説も、読みたい」
大好きな作品の中に入り、推しだって目の前にいた。だけどここにいる限り、続編をプレイすることが、できない。
「帰り、たい」
「…はい、私も、帰りたいです」
「帰りたいよ――ー」
そう叫んだ瞬間パァァァと目の前が真っ白になって。
意識が遠のいていく。
物語に幕が降りるように、何も見えなくなった……。
次の瞬間。
――ピッ ピッ
「せ、先生! 患者さんが、目を、覚ましました!!」
そんな音と、声が聞こえた。




