第十五章 妹の罪と姉のけじめ
卒業式についての断罪が終わり、後は捕えているマリーとアグロの罪について。
(やっと、ここまで来た)
イリスはわき上がってくる感情を抑えつつ、その処遇を待つ。
デルフィは国王に片膝をついて、報告し始めた。
「マリーとアグロが犯した大逆罪について、詳細をご報告いたします」
「うむ」
「マリーはこの世界の過去・未来・人についての知識を持つ能力者です。その知識を使ってリラ王女になりすましておりました」
「そんな能力、聞いたことないが⋯⋯」
(やっぱり、この世界にない能力だと違和感があるんだな)
説明する度にみんな『聞いたことがない』と口にするのはそういうことだろう。
変に感心するイリスの横で、シールドの中にいるマリーはガタガタと震えている。
「チューリオ王子も言っておった、国の乗っ取りはその能力を使ったということか」
「はい、そのための資金や間者の手配等、担っていたのがアグロです」
「なんと、嘆かわしい…」
「それだけでなく友好国であるルーシュ国を略奪する計画まで立てていました。
証拠が必要であれば、二人の本心もこの場で再生することが可能です…聞くに耐えないものですが」
そう言いながらモクセイがデルフィに渡した本を、国王に渡す。
その本には、マリーの本心として、今まで説明したことが真実だという証明が書かれている。
「……わかった、それは後で確認しよう」
「ありがとうございます。
あと、一つお願いが……」
デルフィが耳打ちすると、国王は笑い、「任せる」と告げた。
するとデルフィは緊張した表情となり、リラに向き合う。
そして美しい宝石が散りばめられている箱を持つ、護衛の騎士を呼ぶ。
[っ!!]
その箱を見たマリーが、身を乗り出して叫んでいるのが見える。
とはいってもシールドの中だから手は届かないし、声も聞こえないが。
[それは、私の、私のものよっ!!]
イリスには叫んでいる内容が手に取るようにわかる。
[デルフィ様から、贈られる、私のっ――]
「違う、あれはあんたのものじゃない」
マリーと会話するように言い放つイリス。
[っ、お前さえ、いなければっ……]
睨みつけてくるマリーを一瞥して、視線をデルフィに戻す。
「彼女は本物のリラ王女、わたしが幼い頃に婚約を交わした相手だ」
何もできないマリーをよそに、話はどんどん進んでいく。
「……まるでラブストーリーのクライマックスのようね」
イリスが小声で呟き、閉じ込められているマリーをちらりと見る。
その様子はただの観客か、小説を読んでいる読者のよう。
(主人公だと思っていたマリーには、つらい現実かもね)
「リラ王女」
名前を呼んだ相手の前に片膝をつく、そしてデルフィは手を差し伸ばした。
「私はとんでもない過ちを犯してしまった、本来なら許されるはずがないと…私はあなたに不釣り合いと、今でも思う」
「デルフィ、様」
「でも、もし、許されるなら、もし、あなたが求めてくれるなら」
デルフィは深呼吸をしてから、真剣な表情でリラに伝える。
「私はもう二度と、間違えないと誓う…だから、俺と結婚してほしい」
「はい、私も、あなたと、結婚したいです…お受けいたします」
リラは差し出された手を取り、そしてデルフィはその手に、キスをした。
それは幼い頃と同じ行為だが、大人になっても約束を忘れなかった二人が結ばれた瞬間だと、イリスは思う。
[いやああぁぁぁあああ!!]
そしてマリーの悲痛な叫びは、【叫んでいる】と認識出来るだけで、誰にも届くことはなく、ゲストも王族も幸せそうに拍手をしている。
続けてデルフィは騎士が持つ箱に手を伸ばす、開けられたその箱には美しい首飾りが用意されていた。
[やだ、やだぁ、それは、私のものっ、私のぉぉぉ]
おそらくそう叫んでいるだろうとイリスは思いつつ、崩れ落ちるマリーに哀れみの視線を向ける。
一方首飾りを手に取ったデルフィは、リラに首飾りをつけてあげている。
ダイヤモンドが散りばめられた、シルバーのネックレス。
それは代々引き継がれている、次期国王が結婚相手に捧げる首飾り。
つまりそれをつければ次期女王と証明される。
女王になるとゴールドのネックレスになり、中央に大きな赤い宝石が鎮座する。
「似合うよ、リラ」
どんな困難があろうとも、二人なら切り抜けられるだろう。小説通りの関係に戻った二人を、イリスはやっと安心できた。
「ありがとう、ございます、デルフィ」
こうして二人の婚約を、多くの人が見守り、たくさんの拍手に包まれていた。
[うそ、だ、いやだ…こんなの、あり、えない]
シールドの中でへたり込み、ブツブツと呟くマリー、誰にも声は届いていないが、イリスだけは彼女の正面に立っていた。
「グラオス」
イリスは厳しい口調で指示をする。
「はい」
「私もこのシールドの中に入れてください、彼女に話があります」
「しかし、危険、では」
「大丈夫、どうしても話さないといけないことがある」
不安そうなグラオスと、その様子に気づいたリラ達の視線を感じる。
しかしイリスだけは強い意志を持って、マリーと話がしたいと思っていた。
「もし何かあったら、リラ王女の力を借りるので大丈夫」
「それ、大丈夫じゃないですよ〜」
情けないグラオスの声を聞いてイリスはクスリと笑う。
そしてグラオスは心配そうな表情のまま。
「解除」
イリスの指示を実行する、シールドが解かれてもマリーは崩れ落ちたまま動かない。
「お気をつけて……沈黙の盾」
すぐ立てられたシールドの中に、イリスとマリーが対峙する。
絶望していたマリーはゆっくりと立ち上がり、イリスを睨んだ。
「お前の、お前のせいで――ー」
――パァン
シールドの中に乾いた音がなる、外に聞こえなくてもどんな音かわかる。
イリスがマリーの頬を叩いた。
「は?」
――パンッ
今度は逆側を叩かれる、いきなりで驚くが、すぐ頬に痛みが走る。
「いったー! な、なにすんのよ!!」
「それはこっちのセリフじゃっ! ボケー!!」
――ダンッ
イリスは胸ぐらを掴んだまま、マリーをシールドに押し付ける。
一方的にされて行動が追いつかないが、なんとか抵抗しようとしたとき。
「うぐっ」
苦しそうな声にも、イリスは勢いを止めない。
「ふざけんなっ! 私の、大事な、子どもたちを……」
「はぁ? あんた、頭おかしいんじゃ」
「気軽に触んなっ、そういう妄想は同人誌だけにしてよっ」
「何…」
「ボツに、なりかけた、事だってあるんだから……」
イリスの言葉にマリーは怒りの勢いを無くし、驚いているようで口をぱくぱくさせている。
「ボ、ツ…って、ま、まさか、え? そんな、こと……」
「よく聞け! 私の、ペンネームはっ、青野 桜子、よっ!!」
「え」
「知らないとは、言わせないからっ!」
イリスの口から出たペンネームに、マリーは動きを止めた。その名前にはかなり覚えがあった。
「あんたにわかるかっ、自分が何年もかけて作ったものが、壊されていく恐ろしさをっ」
「え、あ、えぇ? あ、あなたは⋯⋯あなた、さまは…」
イリスは原作者、マリーにとっては創造主・神と崇める存在。
「あんたのせいで、幸せになる人間が不幸になったり、死にそうになっていく、絶望感をっ」
「あ、あ、う、うそ、うそぉ」
何度もシールドにマリーを打ち付けるが、マリーは抵抗できずされるがままだ。
やっと、自分が何をしたのか、理解した瞬間だった。
「私だって、転生者が世界を変えていく話は好きだよ、だけど、だけど…リラが何も悪いことしたぁ? ルーシュ国が何かした? 偽聖女に支配される手前で…あんたのせいで滅亡するところだったんだ!!」
「ご、ごめ、ごめん、なさっ」
「推しだからって、やっていいことと、悪いことがあるだろうがーっ!!」
「ごめんなざいいぃぃぃ」
「全部、なくなり、そうで、怖かった、わたじ、ごわがっだんだからー」
大泣きしている双子の姉妹、リラはデルフィと心配そうに見守る。
マリーは今までの邪悪さがなく、イリスは張り詰めたものが切れたのか、幼い子供のようだった。
中の状況はわからなかったが。
(これで、ようやく終わったのね)
と、悟っていた。




