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私の物語を奪った偽ヒロインへ――本物の結末を教えてあげる  作者: 橋守 六花


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第十四章 卒業式の真実

「沈黙の盾」


 会場に男の声が聞こえ、同時にアグロとマリーを、それぞれの体を、透明な風船のような膜が包み込んでいく。


「嫌だっ、助けて、マリーさ……」


 アグロの声が途絶える。


[え、これ何……え?]


 マリーは声を発したが、違和感に気付く。

騒がしい外の音は聞こえているのに、何も響かない。

 まるで世界から取り越された、ただの傍観者になったようだった。


「それは外からの声は聞こえるけど、あなたの声は聞こえない…特殊なシールドだ」


 声の主が現れ、マリーは目を見開く。

 行方不明だと報告を受けていた、グラオスとモクセイがいたからだ。


(モクセイ!? やばい、最初から、いた?)


 心を文字にされるモクセイがこの場にいるとなると、今までの嘘を隠すのは至難の業だ。


(それにこれ、グラオスの能力? 私知らないんだけどっ)


 膜の中に閉じ込められて、必死に出ようとするが、叩こうが叫ぼうが、声も力も全てを吸収されて、何も出来ない。


「まさかシールドにこんな使い方があるとは、俺も知らなかった」

「俺もだ、イリス様に教えて貰うまで、文字が音声として再生されるなんて、知らなかったよ」


(!?)


 聞こえてきた二人の会話に、マリーは驚愕する。モクセイの力で音声再生なんて出来た日には、悪行が全てばらまかれてしまう。


(イリス…何でそんなこと知ってんのよ!!)


 姉を見るとさっきよりも楽しそうに笑っている。


[笑うんじゃねー、なんだよこれっ! 出せよ、出せー!!]


 マリーは湧き上がる怒りに、品性も何もない感情を叫ぶ。


 そんなマリーをよそに、デルフィがモクセイに話しかけ、モクセイは本をデルフィに見せた。

 一通り読んでから、眉間に皺を寄せて、モクセイに返す。


(もしかして、あれ…)


[やっ、ちが、違うんですっ、デルフィさまぁ!]


 何度も縋る声を出すが当然マリーの声は届かない。

 こんな状況じゃ、モクセイが渡した本は、マリーの本音が記されているとしか思えない。


 一方チューリオは、静かになったマリーに邪魔されず、今の状況をカイン国王に説明している。


「なんと、恐ろしい……確かに幼い頃のリア王女に、似てなくもないが、まさかなりすましていたとは」

「はい、しかもアグロも手を貸しており、この二つの国を乗っ取ろうとしていたのは明白でございます」


 全ての悪事をばらされ、モクセイという証拠もある。

 アグロも風船の中で崩れ落ち、魂が抜かれたような表情になっていた。



「ここで父上にご提案があります」


 次に口を開いたのはデルフィ、マリーがもう少しで手に入れられたはずの、推し。


「私はリラ王女と幼い頃から、婚約の約束をしております」

「ああ、そうだな」


[やめてっ!]


 話の流れから、嫌な予感しかしないマリーは、聞こえないとわかっていても、声を出して抵抗する。


[デルフィ様っ、私が、本物のリラなんです、ほんとなんですっ]


 そう言いながら髪を振り乱す姿は、まるで王族には見えない。


「先日の卒業式、父上と婚約者をあわせる約束をしていました」


[えっ?]


「そうだな、突然白紙にして欲しいと言われて驚いたが」


(もう、その頃から気づいてたの!?)


 それはマリーも初耳だった。

 確かに国王とは顔合わせしていなかったが、デルフィと結ばれると浮かれていたマリーは気が付かなかった。


「白紙にしたのは、私が大きな過ちを犯してしまったからです」


 デルフィはゆっくりと視線を、パーティーに来たゲストに向ける。

 マリーも気になりゲスト達を見れば、ふと同じくらいの年齢が多いことに気づく。


(っていうか、見たことある。この人たち、卒業式にいた連中?)


 そう、此処には多くの貴族達と卒業式の日に来ていた卒業した生徒も来ている。

 そして顔を真っ青にしている四人の貴族令嬢も、ゲストの中にいた。

 これがファムス家へのお願いごと……できるだけ人を集めて欲しい、特に学園に通っていた貴族達を、この城に集めて欲しいと。


(まさかっ…!)


[やめて、やめろーっ!]


 焦っているマリーを無視して、デルフィは続けた。


「卒業式の日にしたマリーとの婚約は、リラ王女になりすました身分偽称として取り消す」


[いやっ、デルフィ様!! デルフィ様――ッ]


 必死に訴えるがマリーの声は一切届かない。


「同時にライラ嬢の罪に関してだが」


 デルフィがチラリと見ると、モクセイが頷いて持っていた本を天に掲げた。


「記憶再生――」


 ――ガガッ


『最高のお小遣い稼ぎじゃん』


「ヒッ」


 その声が聞こえると真っ青になっていた4人組が悲鳴をあげる。


『ライラをいじめた上に、逆に彼女がいじめたことにする証言するとか、こんな楽しいことないよね』

『マリーって性格悪いよねー、まあお金貰えるし、私たちには関係ないけどー』

『顔隠しているけど、美人だからムカつくんだよねー、なーんにも罪がないのに、いじめていいとか、楽しくてしょうがないわ』


 一気に会場が静まりかえる、響いた声にデルフィは青筋をたてて、リラは微かに体が震えているように見えた。


「先日卒業式での証言について、信憑性を調査した。

 特殊な方法で本心を抽出し――このようにて【音声として再生】したら、この有様だ」


 怒りを抑えた、冷淡で恐ろしい声で説明するデルフィ。

 その怒りは、貴族令嬢たちだけでなく――デルフィ自身にも向けられているように、マリーには見えた。


「この行いは、少なくとも名誉毀損になる、わかっているか?」


 ギロリと4人を睨みつけると、彼女たちは這いつくばり、謝罪を始めた。


「も、申し訳ございません、デルフィ様っ」

「わ、私たちは命令されただけで…」

「もう二度とこのようなことはしません…お許しを、デルフィ様!」

「全部マリーが仕組んだことで」


 各自の謝罪という名の言い訳を聞き、デルフィは冷静に言い返した。


「まず謝る相手が違う」

「金銭を貰っているのだから命令ではなく契約」

「一度だってこんなことしてはいけない」

「仕組んだのはマリーだろうが、実行したのはお前達」


 デルフィが一つ一つ言い訳を潰していく。

その言葉で、全く反省していないことがはっきりと浮き彫りになった。

 そんな彼女たちに背を向け、デルフィはリラに向けて跪き、いつかのように懺悔の姿勢になる。


「私も何の裏付けもせずに、貴方を疑い処分をくだしたことを謝罪します」

「そんな、立ってください。デルフィ様には、もうすでに謝って貰っていますから」


 リラは優しくデルフィを立たせる、微笑みを浮かべているがその手は、まだ細かく震えていた。


「「「「ライラさん、ごめんなさいっ」」」」


 4人が一斉に謝罪し直す、デルフィは立ち上がる。


「アイビー」


 呼ばれたアイビーは頷き、這いつくばっている4人に処分を下す。


「嘘の証言とそれに伴う名誉毀損により、この4人の卒業権利は剥奪する!」


 響く処分に、4人は泣き叫ぶ。

 そんな彼女たちに、手を差し伸べるものはいない。

 親でさえ、軽蔑の目で見つめることしかできなかった。


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