第十三章 饗宴
マリーはご機嫌だった、何もかもがうまくいっている。
推しのデルフィは隣にいるし、捕えることはできなかったものの、邪魔者は逃げてどこにいるかも、わからない。
まさにご都合主義の主人公ムーブをしている。
(私は、主人公よ……オタクと避けられたり、大学デビューしたのに、男に浮気されて逃げられたりしない、全く違う私の物語)
うっとりと人々が集まる会場を見る。
最初の話では友好国への略奪に反対している人々が多いため、貴族や富豪も集まらないんじゃないかと言われていたのだが。
(めっちゃ人が多いじゃん、これだけの人たちが賛同してくれているってことね…資金集めも、うまくいきそう)
ニマニマ笑いながらお金の算段をしている姿は醜く、王女に似つかわしくない表情だ。
完全な成功を確信して、マリーは饗宴の準備を始めるのだった。
――パァーン……ラララ〜
始まりを告げるトランペットの音が高らかにに響き渡り、宴が始まる。
国王と女王の隣にデルフィが王子として座り、マリーは関係者席に座る。
デルフィの側で警護している騎士が数人、取り囲むように護っている箱を見つけ、マリーはにやりと笑う。
それは彼女にとってのメインディッシュだ。
饗宴が始まれば流れも順調だった、まずアグロが略奪ついての説明も含めた演説を行う。
「今ルーシュ国は呪いにより、国王が余命幾ばくか、その呪いをかけたのが、ルーシュ国の第一王子なのです!」
アグロの説明は、さすが側近というべきか、迫力と説得力がある。
「もちろん、この略奪には理由があります…それはルーシュ国の呪いを断ち切るため。
数年前にもあった事件を、皆さんご存じでしょうか…」
そこまでいうと、マリーが立ち上がりアグロの隣で止まる。
「彼女は先日、学園の卒業式で、デルフィ王子と婚約を発表したマリー・ゴールド嬢、彼女はルーシュ国の第一王女、リラ様であらせられます」
すると大広間中のゲスト達がざわめいた、その様子に満足しながらリラは挨拶をする。
薄いピンク色に所どころレースがあしらわれている、幼さ残るマリーの見た目には、ぴったりのドレスだった。
「アグロ様から、紹介がありました通り、私はルーシュ国第一王女、リラと申しますぅ」
舌足らずな設定は残しつつ、第一王女としておしとやかに挨拶をする。
(ふふ、完璧な立ち回りね)
「私の母であるリリーは、ルーシュ国で呪いにかけた悪女として、処刑されてしまいましたぁ…命からがら私を逃がしてくれ、この国にたどり着いたのですぅ」
アグロに負けず劣らずの熱弁を振るいながら、仕上げとばかりに感情を高めて涙を流す。
(涙なんて、感動した映画を思い出せば、楽勝、女は女優だからね)
「この呪いの連鎖を断ち切るためにぃ、このカイン国が立ち上がり、ルーシュ国を救いましょう!」
(完全に決まった)
マリーは勝ちを確信した、会場から賛同の声が次々に上がってくるはずだ。
国の略奪、資金集め、そしてデルフィとの結婚…主人公たる忙しさに、わくわくしながらその時を待った。
「ほう、私はまだ病気になっておるのか」
「カイン国は情報の更新が遅いですね」
響く二人の声、マリーが視線を向けると、そこにはゲームの中で見た人物がいた。
「……チューリオ、王子?」
「ル、ルーシュ国王!?」
アグロの目が見開き、声が震える。
「わたくし、あの女に見覚えがないのですけれど、リラなんて、娘と同じ名前ですわね」
そこにはルーシュ国の王、女王、第一王子の姿があった。
「ど、どう、して…」
「それはこっちの台詞じゃ、これはどういうことか」
今度はアグロの後ろから声が聞こえる、そこにはカイン国王が不機嫌そうにアグロを睨み付けていた。
「アグロ、略奪については何度も説明を受けたが、根本的に話がちがうではないか」
「いや、あの、そ、それは」
「どういうことか、答えよ!」
ぴしゃりと命令されるが、アグロの口から説明が出てくることはない。
「これは、そんなはずは……ち、違うんです!」
マリーは呆然とこの光景を見ていた。
(なんで……国王の病気が、治っているの?
デルフィ様の助けは、入っていないはず……)
今まで調査し、事実だと思っていたことが、ルーシュ国の王族がこの場にいることによって、全て崩れ去ってしまった。
「そもそもルーシュ国は友好国だぞ! それを略奪など」
「あ、あぁ、その、あの」
さっきまで演説していたアグロは、言葉を忘れたように吃っている。
「国王、僕が説明します」
そんななか声を上げたのは、チューリオ第一王子。
「事の発端は数年前、聖女と名乗る女が登場した事です」
淡々と話すチューリオだが、この数年はさまざまな事件が起こり過ぎていた。
「先ほどアグロが説明したとおり、母上の処刑、父上が呪いによる病気かかり、犯人として僕が幽閉されました」
ここまではアグロのいうとおりのことが起きていた、のだが。
「しかし、聖女は偽物で、呪いも全てその女の仕業だとわかりました。
父上は本物の聖女様により呪いは解かれ、女王は処刑を免れました」
「なっ、そんな、はなし、しらなっ…」
「もう解決済みで、避難していたお母上と妹のリラは、無事我が国へ返ってきました」
全てを説明し終わって、アグロ以上に顔がゆがんだのは、もちろん、マリー・ゴールド。
「嘘よ! 聖女の存在はデルフィ様がいないと、わからないはず……」
「詳しいですね……まるでわざと、我が国から聖女遠ざけているようだ」
チューリオの指摘に、思わず口を噤む。
「チューリオ王子よ、質問いいか」
「もちろんです国王様、なんなりと」
「先ほど、そこのマリー・ゴールドが『母は処刑された』だの『自分はリラ』だの、彼女の発言だと、チューリオ王子の説明と違っているのだが」
国王はわざとらしく「はて?」と首をかしげる。
待ってましたとチューリオが口を開こうとしたとき、後ろから遮る声が聞こえた。
「まぁお母さん、い、生きていらしたんですね、リラ、びっくりー、ま、まさか全て解決したなんて、お兄ちゃんすごーい」
騒がしい声で品性のない、いいわけにもなっていないマリーの言葉。
『お母さん』『お兄ちゃん』という貴族ですら言わない呼び名。
「うるさい、黙れ」
ボロが出たマリーに対して怒気を含んだデルフィの一言で、静かになった。
「話が進まないので、黙っていろ」
「で、デルフィ様っ」
「黙れと言っている、ここは王もいる神聖な場だぞ」
「っ」
「続けてくれ、チューリオ王子」
「あぁ…ありがとう」
一気に静かになった会場に、チューリオは説明を再開した。
「ここにいるマリー・ゴールドは、リラのふりをした偽物だ」
「ち、ちがっ、ちがいます!! 私は、ルーシュ国の第一、王女、リラですー!」
いったんは黙ったマリーだったが、この事実をそのままにしておくことはできない。
「久しぶりに会ったので、お兄ちゃんが勘違い、しているだけでぇ」
もうリラの真似どころか言葉遣いが現代になっており、みんな聞くに堪えないと顔をしかめている。
「デルフィ様、デルフィ様は信じてくださいますよね? 私がリラだって、私たち、あいしあっ…」
縋るように近づいてきたマリーを見て、無表情になるデルフィ。
次の瞬間。
――バアァァァン
轟音が大広間に響き渡る。
デルフィが拳で叩きつけた椅子が、激しく揺れた。
「ひっ」
場が凍りつく。
突然、デルフィが椅子を拳で殴る。
かなりいい音がしたと同時に、デルフィの右手の甲が裂け、血が滴っている。
それでも眉ひとつ動かさず、その手をマリーの前に出した。
「本物かどうか、これで証明しろ」
「え、しょ、しょうめい、って……なんのことですか」
「じゃあおまえは偽物だ」
あまりの事に呪文もなりすましすら忘れているマリーに、間髪入れずばっさりと偽物だと切り捨てる。
と、その時。
――シュン
何もなかった空間に人が現れた。
一瞬でわかるその美しさにマリーは息を呑む。
護衛と共に現れた女性は、スラッとしつつも女性らしい柔らかさを持つスタイルで、青いタイトなドレスが良く似合っていた。
卒業式で見たライラと同一人物だとは、すぐには結びつかなかった。
「リ、リラ!? あんた、なんで、きゅうにっ」
その姿は小説の表紙にそっくりなため、マリーはその正体と見た目に驚く。
「おかしいな、マリーが【リラ】じゃないのか?」
馬鹿にされたような声が聞こえ、思わずマリーは両手で口を塞ぐ。その瞬間、違和感に気付き、マリーは困惑する。
(あれは……チューリオから送られたドレスっ!? デルフィ様との婚約祝いのやつでしょ!)
小説の中の情景に、マリーは硬直してしまう。
そんな彼女に背を向け、リラはデルフィの痛々しい手を取る
「デルフィ様、失礼します」
「あぁ」
素っ気ない一言、だけど表情はお互い頬を赤らめ、幸せそうに微笑んでいる。
数日前からのデルフィの態度とは全く違うと、今更ながら気付くマリー。
「いたいのいたいの、飛んでいけ」
リラが優しく唱えると、デルフィの右手の傷が、綺麗に消え去る。
「っ、え…」
会場からも驚きの声が聞こえた、その状況にデルフィはにやりと笑って、マリーに言い放った。
「知らなかっただろ、本物のリラ王女の能力を」
目の当たりにしたその能力は、マリー認識していた『ぶりっ子なセリフ』とは全く違っていた。
そんな彼女の背後から感情のない声が聞こえる。
「リラは怪我と疲労を治す能力があるのよ…病気は治せないから、デルフィの病気は治せなかったけど」
マリーが驚いて振り返るとマリーが『にわか』と馬鹿にしていた双子の姉、イリスの姿。
「あ、んたっ」
見た瞬間、マリーは悟る。
(この、女に、邪魔されたっ)
同じ転生者、この世界をそんなに知らないにわかだと放っておいた。
しかしマリーの野望をかき乱したのは確実にイリスだ。
久しぶりに再会した姉妹は、お互い睨み合う。
しかしイリスの方がニヤリと歪んだ瞬間、マリーの視界が怒りで真っ赤となり、感情のままイリスに飛びついていた。
「イリスっ!!」
敵意を向けられた声を聞いてもまだ、イリスは楽しそうに笑っていた。
まるで。
この結末を、最初から知っていたかのように。




